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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第十二章:破壊と混沌と無関心と
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22-救済の天使はどこにいるのか

 話が始まった途端、水を打ったように室内が静まり返った。敵の詳細が分かるからだろうが、これが出来るんなら普段からやってほしいもんだ。


「武彦が持ってきた石板には陽光神と宵闇神についての記述もあった」

「その二柱については、もう死んでいるから考慮しなくていいんじゃないか?」

「ところがそうじゃない。この世界の成り立ちに関わるものだからな」


 橡が言うが、ハルは即座に否定する。この世界の成り立ち、そう言えばイリアスもそんなことを言っていたような気がする。思い出せないけど。


「かつてこの世界に神はいなかった。原始時代のようなものだったんだろう」

「ああ、そうだそうだ。確かそんなこと言ってた。人には知性がなかったって」

「石版にもそう書かれていたよ。そこに神々が、いわゆる入植して来たんだ。

 自分たちの同族、『眷属』を連れてな。天使たちはあいつらのお仲間ってワケ」


 天使とジャガが元は同一の存在、と言われて信じ難いが、そういうものなのだろう。見た目の形質を受け継いでいるとは限らない。


「彼らは自身の領土を広げるため戦った。眷属たちの生息域を広げるために。

 その間に原住生物は一顧だにされず、虐げられ続けたということだ。

 しかし、ある時転機が訪れる」

「人間がラーナ=マーヤたちのお眼鏡にかなう知性を手に入れたってことか」

「そうだ。何があったのかは分からないが、人間も虐げられ進化したんだよ。

 それをどうにか使えないか、と考えたのが兵力に劣る陽光神と宵闇神だった。

 彼らは同盟を結び、原住民たちを信者として自分の兵士として使い始めた。

 神話大戦の始まりだ」


 人間の力を得た神は、破竹の勢いで他の勢力を掃討した……とはならなかったようだ。当然、自力がまったく違う。ある程度の効果は上げられたようだが、形勢を一気に逆転させるとは行かなかったらしい。だが余裕を作ることは出来た。


「ラーナ=マーヤはあるものを作り出した。神をこの世界から追放する力を。

 これは何らかの機械的、呪術的装置だったようだ。彼はそれを作動させた。

 元々この世界にいなかったものを、自分たちを除いて世界から追放した。

 そして、最後にイリアスを倒してラーナ=マーヤはこの世界の実権を握った。

 それが神話大戦の真実らしい」

「イリアス側に立って作られたものとはいえ、信憑性はありそうだなぁ。

 あいつらの口から出てきた言葉と照らし合わせてみても、整合性はある」


 俺は得心したが、草薙たちはコツコツと床を叩き苛立ちを露わにする。彼らが知りたいのはこの世界の真実ではない、目の前の脅威に対抗する術なのだ。


「歴史の授業はいい、大変興味深かった。だが俺たちに必要なのは……」

「それは分かっているよ。ただ、前段階の知識としてあった方がいいと……」


 ハルが反論しようとした時、扉が開かれた。全員が反応し、バッと振り返った。そこにいたのは、ばつの悪そうな表情を浮かべた戸沢先生。それから。


「苫屋!? お前、何してるんだよ! 怪我が開いたらどうする……!?」


 ボロボロになった苫屋春香だった。彼女は先生の肩に支えられ、かろうじで歩いていた。どう見ても歩ける様子ではない、絶対安静だろこれは。


「すみません、歩き回らない方がいいと言ったんですが聞かなくて」

「いや、先生がどうこうって言うよりも……どうすんだよ、ハル」

「私に聞くな。すまないが、彼女を寝かせてやれるスペースが欲しい」


 言われて、須藤兄妹は立ち上がった。先生は彼女をソファに寝かせた。


「あいつらを、倒す方法があるんだろう? 私は、それを聞きたいんだ」

「話は後で聞かせてやる。いまはゆっくり休め、お前は……」

「頼むよ、三浦さん。私は……あの人の仇が取りたいんだ……!」


 苫屋は半ば泣くような、絞り出すような声を出した。そう言われてしまってはハルも成す術がないようで、頭を抱えて大きなため息を吐いてから。


「仕方がない。だが、容態が悪化するようならここから速攻叩き出す」


 諦めたように話に戻った。苫屋はありがたい、とでも返すように笑った。俺が抱いていた懸念は、どうやら間違っていなかった。捨て鉢になっている。


「話を巻き戻すことはしない。つまり、陽光神はこの世界から敵を叩き出した。

 私はそこに希望があるんじゃないかと思っている。あいつらを倒すカギがある」

「それはいったい何なんだ? もったいぶらずに教えてくれ……!」


 草薙がややイラついたように言った。

 しかし、そこまで言われて気付いた。


「そうか、ラーナ=マーヤが作ったというその装置を使えれば……!」

「また神をこの世界の外に放逐出来るかもしれない。可能性はあるんだよ」


 ハルは俺の的を射た回答に満足したのか、珍しく笑顔で頷いた。こいつが笑っているところを見るのも、そう言えばいつぶりだろうか? レニアも、ファルナも、ハルも、この国にいる誰も。俺は守りたい。二度と笑顔を曇らせたくない。そしてそのための手段があるのならば、絶対に手に入れたい。俺は心に決めた。


「しかし、それはいったいどこにあるのでしょう? それについては?」


 先生が当然の質問をすると、ハルは首を横に振った。

 それも当たり前だ。


「石版には詳細な場所は書かれていませんでした。どういうものかも不明です。

 この世界に現れた、新たな神ならば何か知っているかもしれませんが……」

「彼らに聞くというわけにもいきませんね。さて、どうすればいいのか……」


 とは言え、希望がないわけじゃない。ハルもそれは承知している。


「ですが、遺跡に手掛かりがあると分かっただけでも今回の収穫は十分です。

 オルクスさん、探索部隊の編成と出発の許可を頂きたい。護衛は転移者が行う。

 この世界を救うため、あなたたちにはもうしばらく無理をしてもらいます」

「致し方あるまい。厳しい状況だが、出来る限りのことはさせてもらうよ」


 厳しい、そうだろう。国民も、兵士も騎士も、俺たちも、限界に近い場所で戦っている。けれども戦う希望は見つかった。生き抜く道は見えた。ならば、そこに向けて一直線に突き進んでいく。それがいまの俺たちに出来る最善のことだ。


 苫屋を見る。疲労がピークに達したのか、彼女は眠っていた。

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