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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第十二章:破壊と混沌と無関心と
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22-神を放逐するのに必要な手順を答えなさい

 広場で人の流れをぼんやり眺め、そろそろいいかなと思って部屋に戻ったら『んな早く出来るわけないだろ』を大量の悪意と侮蔑と苛立ちでトッピングした言葉でハルに罵られた。すごすごと退散し、それから待つこと一週間。

 その間に、王都は様々な化け物の襲撃にあった。俺が遭遇したような動物の形質を持つ怪物たち、ジャガが使役する天使たち、そしてデストロイアが使役する怪人。怪人は頭巾と特異な剣を特徴とすることから、俺がパイレーツと名付けた。

 そんなこんなで襲撃をどうにか捌いている時、俺たちは呼び出しを受けた。


「ようやく俺の苦労が実を結ぶってわけか。いやー、感慨深いねぇ」

「久留間くん、キミの苦労じゃなくてハルちゃんたちの苦労なんじゃ……」


 須藤くんがやんわりと俺のことを否定して来るが、そんなこと気にしていたら始まらない。だいたい、あの遺跡まで物を取りに行くのは俺しか出来なかったのだ。つまりそれは俺の成果と言っても差し支えないのではないだろうか?


「そういう態度は、ちょっと見習った方がいいのかもしれないね」

「オイコラ涼夏、何だか発言に含みがあるような気がするのは気のせいか?」

「まあまあ、久留間くん。涼夏も挑発するようなこと言わないの、ね?」


 須藤くんの仲裁に、涼夏は子供のようにツーンとした態度を取った。さすがの須藤くんも苦笑する、しかしこいつがこんな態度を見せるのは彼の前だけだな。本当の意味で信頼しているのは、実の兄だけなのだろうか?

 そんな和気あいあいとした雰囲気も、西方組と合流した途端にピリッとしたものに変わる。十日以上あれから経っているというのに、両者が和解する気配はまったくない。むしろ前にもまして深刻な対立状況になっているようにも思える。


「お前たちも呼び出されたのか。同じ場所にいると思うと……」

「何だ? 言いたいことがあるなら、はっきり言えばいいだろうが。須藤。

 俺は言うぞ、お前たちと一緒の場所にいることなどとても耐えられん」

「落ち着けよ、お前ら。味方同士でいがみ合ってどうなることでも……」


 仲裁に入ろうとするが、両社は一斉に俺のことを睨んで来る。こういう時だけ息を合わせるんじゃあない。味方同士と言うのが気に食わないのだろうか?


「お集まりいただけたみたいですね、皆さん」


 対立にぴしゃっと冷や水が浴びせられた。オルクスさんの言葉だ。


「結構。三浦さまがお待ちですので、止まらず応接間までお願いしますよ」


 オルクスさんは両者がまるで存在しないかのように振る舞い、廊下をツカツカと歩いて行く。草薙と須藤くんは同時に舌打ちして歩き出す。その後ろを禰屋と涼夏が続いて行く、と言う感じだ。橡は仕事があるとかでそれを終わらせてからこちらについて来るそうだ。あいつらいたらもっとこじれただろうな、と思いながら、俺も流れに従い歩く。


「ところでオルクスさん、苫屋の容体はどうなっているんですか?」


 あの日、苫屋はラーナ=マーヤの攻撃で吹っ飛ばされたが、死にはしなかった。ただし肉体の損傷著しく、何とか生きているというレベルではあるそうだが。加えて、まだ目を覚まさない。起きた時彼女が何を感じるか、それを考えれば寝ている方が幸せそうだが。


「治療院の医師たちがつきっきりで見ています。問題はないでしょう」

「起きた方が問題が大きそうですね……あの人が死んだなんて、そんな」


 苫屋の目に浮かんでいた感情は、決して尊敬だけだったとは思えない。ドラコさんへの思慕、それがなければあんな危険なことは出来なかっただろう。愛する人を失った時、人はどうなってしまうのだろうか? 俺のように歪んでしまう人間もいるのだろうか? 幸せな夢の中にいた方が、よっぽどいいのではな……

 思考をまとめるには、王城の廊下は短すぎた。俺たちはあっという間に応接室へと辿り着いた。室内で待っていたのはハル、それからムルタくんだけだ。他の翻訳チームの面々は各々の仕事に戻ったのだろう。ハルが軽く頭を下げる。


「こうして集合する時間を作ってくれたことを感謝いたします、オルクス王。

 それから、お前たちもな。余裕のない中よくこうして来てくれた」

「あの化け物どもへの対策を得られると聞いたから来たのだ。でなければ……」


 草薙はじろりと俺たちを睨む。ちょっとは仲良くしてくれてもいいのに。


「お前たちが個人的に仲が悪いのはいいが、足を引っ張り合うのは……」


 ハルはため息を吐きながら、無謀にも二人の仲裁に乗り出そうとした。ところで、タイミングよく扉が開いた。この数カ月の間ですっかり日焼けた橡が入って来たのだ。もっとも、生来の胡散臭さは消せるものではないのだが。


「いやあ、すみませんね皆さん。ちょっと仕事の引継ぎが長引いちゃって……

 おっと、すごい雰囲気。僕は及びじゃなかったりするのかな、これは?

 参ったなァ」

「……話を聞きに来たなら、さっさと座れ。時間が押しているのだからな」

「それじゃあご厚意に甘えて。んじゃ三浦くん、始めてくれたまえ」


 遅れて来たくせに微妙に尊大な態度で橡は言った。そして、草薙の隣に空いた席に堂々と腰掛けた。草薙は面倒くさそうな顔をするが、しかし口には出さない。そしてこの男がそんなことで退くはずはない。計算してやってるな、こいつ。


「さて、本日お集まりいただいたのは武彦が持って来てくれた石板の件だ」


 俺の名前を出してくれるということは、ちょっとは役に立ったと認めてくれたということだろうか? 嬉しくなって来るね、ハルはそのまま流すつもりらしいが。


「太古の昔、この世界には神がいた。その内二柱は先の戦いで滅ぼせた。

 だが、彼らに放逐された神が未だ生きておりこの世界に侵攻を掛けて来た」


 言いながら、ハルは石板の一枚を立てる。虚無神ジャガと思しき人型の書かれた石板だ。相変わらず、隣に書かれた文字は俺には読めない。


「これから石板についての解説を行いたいと思う。質問は随時行ってくれ」


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