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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第十二章:破壊と混沌と無関心と
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21-空気を読まない乱入者は事態を解決してくれるのか

 空間が割けていた。ぽっかりと空いた穴の先、そこには何もない。まるで破れた紙のような傷痕を晒すそれを、俺は見たことがある。ジャガが開いた穴だ。


(まさか、こっちにもあいつが来やがるっていうのか!?)


 ドラゴンだけで最悪と言っていいのに、それに加えて天使どもまで来るなんて極悪過ぎるだろう。大人しくあのデカブツとやり合って死んでいただきたい。


 その時、空間の裂け目がキラリと光った。

 そこから虫が飛んでくる(・・・・・・・)


「どわぁっ!? な、何だありゃあ……!?」


 間一髪突進してくるそれを屈んで避ける。カブトムシめいた屈強な角を備えたそれは真っすぐ飛んで行き、ドラゴンと激突。金属と金属とがこすれ合うような高い音を立てながらドラゴンを何度も突く。たまらずドラゴンも後退した。

 冷静に観察してみると、当たり前だが本物のカブトムシではないようだ。ファズマの翼を備えた金属光沢を放つ物質であり、真ん中の辺りに小さな溝があるのが見える。それは旋回し、俺のところにまた飛んで来た。ぶつかっては来ない。


「こいついったい……いや、どこかで見たことがあるような」

『久しぶりだね、久留間くん。ここまで辿り着くのに時間がかかった』


 カブトムシから声が聞こえて来る。何度も聞いた越えた。思い至る、あのノイズと一緒に聞こえて来たのはこの声だ。嫌ってほど聞き続けて来た声だ。


「……博士?! まさか、どうやってこっちにこんなものを!?」


 ファンタズムを開発した天才、たった一人で次元帝国に挑んだ科学者、人格破綻のマッドサイエンティスト。驚き、そしてあの男なら有り得ると思った。


『こちらに来るまで大分時間がかかってしまったことを謝罪しよう』

「いや、んなことはいいんですが……どうやったこっち側に……」

『最初に言っておくと、これはリアルタイム通信ではない。

 それは異なる次元世界では時間の流れさえも異なるためだ。

 申し訳ないが、私の安眠のために相互通信機能は付けられない。

 キミにならば、理解してもらえると思うが……』

「一片も理解したくないスゲエ身勝手な理由だ!?」


 ドラゴンが体勢を立て直し、再び火炎弾を放とうとした。俺は舌打ちし、カブトムシを掴み走り出した。圧倒的熱量が大気と大地とを焦がす。


(やられっぱなしじゃいけねえ、どうにかして反撃しねえと!)


 ドラゴンが三発目の火炎弾を放った時、俺は強く地を踏み跳んでそれをかわした。進行方向上にあった柱を蹴って加速を得ると同時に角度を変える。足場として使った柱を粉砕しながらも、俺はドラゴンの首筋目掛けて蹴りを打ち込んだ。


(ちっ、硬ェッ! ノービスのパワーじゃ打ち抜けねえか……)


 もともとノービスはゼロ距離での打ち合いを得意とする万能形態、あまり力押しには向いていない。ドラゴンは鬱陶し気に首を振るい俺を引き剥がし、爪の一閃で叩き潰そうとする。反動で跳躍しつつ上体を逸らし爪を回避し空中で一回転、着地。続けて振り下ろされた逆の爪をバックステップで避ける。バカげたパワー。


(単純な殴り合いでどうにか出来る相手か? 考えろ、やり方を……)

『空間を超えるまでに七難八苦があったことは、もはや語るまでもないだろう。

 そもそも我々は正しい意味で空間を認識しているのだろうか?

 新発見により常識が……』

「ええい、リアルタイムで話が出来ないならせめて黙ってろ!」


 火炎弾をジグザグに走り避けつつ、クレリックROMを取り出し交換。再変身しメイスを地面に叩きつける。ホーリードメインが作り出され、炎から身を守る盾となる。爆炎の中マジシャンROMを取り出し、ジョブ:マジシャンに再変身した。


「行けッ……行け、行け、行けェッ!」


 クルクルとロッドを振り回し魔法陣を描き、ドラゴン目掛けて大量の魔法矢を放つ。破壊的なエネルギーを込めた矢がドラゴンの体に突き刺さる。的がデカくて当たりやすい、それはいい。問題はあんまり効いてないことだ。


(ッ……通ってないわけじゃない。だが余りにデカすぎるんだ!)


 俺たち人間とは行動不能になるまでに必要なダメージ量が違う、と言うことか。圧倒的物量を前にしてもドラゴンは少しもその暴威を弱めない。魔法矢の中前進を続け、俺を押し潰さんとして来る。舌打ちし、ロッドを回す。四つの魔法陣を生成し魔法矢を射出、ドラゴンの視界を塞いでいる隙にファイターROMを取り出した。


 ファイターへと再変身し、爆炎の中から飛び出しドラゴンの頭を狙い剣を振り下ろす。剣は鱗を切り裂き、額を抉るが頭部の完全破壊には至らない。厚い肉、硬い骨。ファイターの筋力をもってしても天然の兜を破ることが出来ない。

 ドラゴンは忌々し気に頭を振るい、俺を弾き飛ばす。デュアルROMを使って戦うしかない、そう思った俺にまた不愉快な声が掛けられる。


『……とにかくいまはこれを送るのが精いっぱいだ。虫かと思っただろう?

 だが違う、これはファンタズムの新たなROMだ! 存分に使いたまえ!』

「そういうのって最初に持ってくるもんなんじゃねえの、博士!?」


 俺はカブトムシに怒鳴った。だが、これのどこがROMなのだろうか? カセットを挿す端子もないし、そもそも形からしておかしいし……


 いや、形? そう、カブトムシの背にはくぼみがついている。ここから虫を真っ二つに割れるんじゃないか、ってくらいの溝が。ならば、試してみる価値はある。俺はROMの両端を掴み広げた。カブトムシはちょうどベルトを挟み込むようなコの字型に代わり、二本の角から黄金の端子がせり出して来た。こういうことか。


「博士、アンタはおかしなものをおつくりになるのがとことん好きだな……」


 俺は呆れて呟いた。あの人にはどうやったって敵いそうにない。ドラゴンは火炎弾射撃を止め、直接飛び掛かって来た。強靭な後ろ脚は巨体を前方に打ち出すだけの推進力を、そして俺を押し潰すに足る破壊力を生み出すだろう。しかし。


「一手遅かったな、ドラゴン……こいつの力、たっぷり拝んでもらうぜ!」


 ファンタズムROMを取り出し、博士が用意してくれた新型ROMをセット。瞬間、ROMから力が放出されるような感触を覚えた。まだ変身さえしていないのに。俺はもたらされる力に戦慄しながらも、ボタンを押し込んだ。


 高らかなファンファーレが鳴り響き、俺の体を0と1の旋風が包み込んだ。蛍光グリーンの0に触れた手甲が黒金色に変わり、腕全体を覆う籠手となった。1に触れた胸甲はフルプレートに、装甲が全身に纏わりついて行く。

 黒金の鎧に黄金のライン。剣はより大きなものへと変わる。瞳が深紅に染まり、輝いたのが分かる。俺は突進してくるドラゴンを左手で受け止めた(・・・・・・・・)


 ジョブ:ロード、セットアップ。

 そんな表示がHMDに浮かんだ。


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