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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第十二章:破壊と混沌と無関心と
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21-誰かが愛してくれていると無邪気に思えない人もいる

 神の死は暴露され、王都中に混乱が広がった。俺たちは苦労しながら王城へと戻り、オルクスさんへの謁見を求めたがやんわりと拒否された。彼には片付けなければならない仕事があるのだというのだ。俺たちにもそれはある、退かなかった。

 だから俺たちはこうして応接室で待っている。どうしてあの人があんなことを言ってしまったのか、それを確認する必要がある。後戻り出来なくても。


「お待たせいたしました、皆さま。何の御用でしょうか?」


 オルクスさんの表情にははっきりとした疲労の色が浮かんでいる。髪が少し濡れているところから見ると、メイクを落としたのだろう。化粧でもしなければ隠せないほど強いストレスを彼が受けている、と考えると少し尻込みしてしまう。


「伺いたいことがあるのです。なぜあんな演説をしたのかということをです」


 それでもハルはずんずんと進んで行った。そうだな、ここで後ずさりしちゃどうしてここに来たのかも分からない。案外これも彼の策略なのかも……


「いずれは判明することです。ならば、それは早い方がいいでしょう」

「とてもそうは思えませんね。市街の状況を少しでも見ているのならば……

 そんな感想は浮かんでこないと思います。軽率な判断だったのでは?」


 ハルは少しだけ市街地の方に目を向けた。防音設備の敷かれた城の中からでは聞こえてこないが、一歩でも外に出ると住民たちの大音声が耳を貫く。今回の爆弾発言に説明を求めるもの、過激なものは王の退陣と処刑を求めるものまで様々だ。これほどまでにラーナ=マーヤへの信仰が深いものだったとは知らなかった。


「もし、秘匿していた情報が漏れたなら被害はこの比ではなかったでしょうね。

 神への根深い信仰を断ち切り、人間の世界が訪れたと宣言すること。

 それだけが唯一の道です」

「……あなたがそう考えておられるなら、もう言うことはありません」


 いずれにしろ、オルクスさんの決意は固いようだった。説得や説教はこれ以上意味を持たないと判断したハルは、俺たちの方を見た。俺からも言うことはないし、須藤兄妹など言わずもがなだが。この話はここで打ち切ることになった。


「さて、それではあなた方の成果も確認しなければなりませんね」


 あの爆弾発言で忘れかけていたが、俺たちの仕事は教会で現れた新たな神について確認することだった。もっとも、忘れていたのは俺だけのようで、ハルたちはスムーズに話へと入っていった。オルクスさんは少し考える仕草をした。


「遺跡ですか。調査を行いたいのはやまやまですが……」

「ジャガやデストロイアがいつ来るか分からない以上、穴は開けられない」


 例え万全な状態であってもあの二柱に王都が敵うかは分からないが、現状は共食いをしてくれている。それでいくらか戦力は削げてくれているだろう、と希望的な観測を行うほかない。そうでなければ俺たちは死ぬしかないのだから。


「久留間さん、その遺跡についてはあなたに行ってもらいたいのですが」

「なるほど。確かに、あそこについては俺が一番詳しいでしょうからね」


 多良木と一緒に行ったのは、ほんの数カ月前だった。ゴーレム像にヒィヒィ言っていたのが懐かしい、脅威はあんな物ではなくなってしまった。


「そこで何らかの成果が上がることがあれば、継続調査を行いましょう」

「何の成果もなかったら、軍備増強が一番の対策になるでしょうしね……」

「残った転移者の皆様には資材調達を行ってもらいたい。欠乏が酷い」


 俺たちはぱっぱとやることを決め、行動に移ることにした。最低限の食料と資材を積み込み、俺はさっそく出発することになった。これから夜になるところだが、ファンタズムの能力であれば夜道であろうが何だろうが関係はない。


(……そうだ。起こっちまった事をグダグダ言っても仕方ねえじゃねえか)


 そうは思うが、もやもやしたものが頭の大半を占めているのは確かだ。あそこであんな発言をしなければ……そう思ってしまう俺が、確かに存在している。


 気を引き締めろ。そうしなければ死ぬのは俺だ。

 言い聞かせていた時。


「……あれ、ローズマリーさん? どうしたんですか、こんなとこで……」


 使用人たちの詰め所の前に、ローズマリーさんが立っていた。彼女の罪は結局不問とされることになった。西方に協力したのは立派な反逆罪だが、とうの西方自体が無罪放免になっているいまとなっては彼女だけを罰することは出来ないらしい。あるいは、それはオルクスさんに残った一片の情なのかもしれないが。


「ッ……! 何でもありません。失礼しますッ……」


 ローズマリーさんは心底恥ずかしそうな顔をして、足早にそこから去って行った。仕事が残っているだろうに、何でもないはずはない。何があったのだろうか……と考えて、俺はこの部屋に誰がいるのかを思い出した。


「……いいね、愛されているってのは。織田くん」


 あの日から織田くんは眠ったままだ。ローズマリーさんを助けるためにすべての力を使い果たした。それでも、いつか起きて来ると信じているのだ。


 誰かいるだろうか、俺には。

 必ず帰って来ると信じてくれる人が。


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