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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第十二章:破壊と混沌と無関心と
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21-状況を打開するための手掛かりはどこにあるのか

 溶けかかった雪の塊が陽の光を受けてキラキラと輝き、得も言われぬ美しさを放っていた。冬の本番は脱しており、11月、12月のように大雪が降ることもなくなった。雪は道の隅に固められているので歩行にも支障はない。

 通りを進んで『天翅の塔』へと向かって行くが、やはり街の雰囲気は最悪だ。色々と物が足りていないのか、欠乏が目に見えて分かる人が大勢いる。


「これ以上戦いが続いたら、餓死者も出て来るかもしれないな……」

「けど、ここで止めるわけにはいかないぜ。やるかやられるかしかねえしな」

「そんなことは分かっているさ。だが、どっちにしろじり貧になるな……」


 ハルは頭を抱えた。俺だっていまの状況を受け入れているわけではないが、しかしどうしようもないだろう? 敵はこっちを殺そうとしてくるのだ、ならばそれに抗わなければ未来はない。例えどれだけの犠牲を払ったとしても……


(つっても、それは俺が犠牲を払う側にいないから言えることだよな……)


 戦いの代償を払うのは、いつだって力のない人々だ。


 言葉少なに歩いて行くと、思っていたよりも早く『天翅の塔』へと辿り着いた。塔の前にはいくつかのテントが建てられており、モクモクと白い湯気が立ち込め、胃を刺激する美味そうな匂いが漂ってくる。ゴクリ、と喉が鳴る。


「行くなよ武彦。あれは私たちのように食うものがない人に振る舞われている」

「わ、分かってるってんなこと。でもこれ、教会がやってるんだよな……」

「熱心に『お願い』されてな。教皇が捕らえられているのでは無碍にも出来ん」


 なるほど、だから教会の人たちから射殺すような鋭い視線を向けられている、ってわけだ。ここに長くとどまるのはマズいな、と思いつつ足早に歩きムルタくんを探した。先生の話を信じるのならば、ここにいるはずだが……どこだ。

 思えば、先に教会に通達を送っておけばよかった。そうすればこうやって無駄に歩き回ることもなかったのだ。無駄足を踏んでしまったかもしれない。


「……あれ、久留間さんじゃないですか!? どうしてこんなところに!」


 突然声を掛けられ、数拍反応が遅れた。よく知った声、目を向けると想像した通りの顔があった。少しやつれているが、健康には問題はなさそうだ。


「ムルタくん! 久しぶりだなあ、元気にしてたか!?」

「ッハッハッハ、色々あって元気じゃないですけど何とかやってますよ」


 ちょっとだけ皮肉気な言葉だった。まあ、俺が王国に属する者なのだから当たり前だ。彼にしてみれば恨み言の一つも言いたくなるだろう。


「色々言いたいことはあるだろうけど、ちょっと待ってくれ。後で聞くから」

「教会武装神官、三浦春馬です。少し、あなたに伺いたいことがある」


 ムルタくんはきょとんとした表情を浮かべながら、上役であろう上背があって筋肉質な神官にお伺いを立てた。彼はただ、こくりと頷くだけだった。


「少し待ってください。これが終わったら、お時間を取りますから」


 あんな短いやり取りで意思を疎通できるとは。

 神官ってすごいと思った。


 俺たちは『天翅の塔』応接室に通された。相も変わらず近未来的な光景、ここにいると異世界にいるということを忘れそうになる。いったいどこのドイツが作ったのだろうか、こんなものを。ぼんやりと俺は窓の外を見た。

 外では襤褸を纏った人々が神官たちに詰め寄っている。防音態勢が完璧なので何を言っているのかは分からないが、椀を持っているから食料についての文句を言っているのだろう。腹が減った、もっと寄越せ。こんなところだろうか?


「どこも食い詰めてるみたいだな。だからって、あんなことは……」


 誰もがどこにも飯がないことくらい分かっている。それでも、自分だけは肥え太りたいという重いは絶対に捨てられない。だからこそああやって神官に、殴り返してこない相手に文句を言って鬱憤を晴らすしかないのだろう。やりきれない。


「あれが私たちがもたらしてしまった結末、と言うことなのだろうか……」

「何言ってんだよ、ハル。俺たちが気に病むことなんかじゃないだろ」

「だが派兵によって大量の食糧が必要になったことは確かだろう?

 それによって住民たちが困窮しているという現実があるんだ。

 私たちのために」

「けど、そうしなけりゃ俺たちは滅ぼされていた。これしかなかったんだ」


 ハルも大分ナーバスになっているようだ。須藤くんたちも言葉さえ発さない。


「終わってしまってから思うよ。もっと何かやりようはなかったのか、って」

「やりようなんてなかったさ。あれしかなかった。どうしたんだよいったい」

「過去を悔いているんじゃない。ただもたらしてしまったいまが怖いんだよ。

 私たちは良かれと思って女神と陽光神を倒した。けどその結果はどうなった?

 この世界に新たな混乱を持ち込んでしまっただけじゃあないのか?

 それは受け止めなきゃいけない」

「止そうなんてしようがなかったんだ、仕方ねえだろそんなことは」


 俺はそれで会話を打ち切った。やってしまったことをウジウジ悔いていったい何になるというのだ? 俺は正しいと思ってあいつらを殺した。それでこの世界に混沌をもたらしてしまったのならば、あいつらも殺す。それだけじゃないか。


「いやあ、すいません。お時間を取らせてしまいましたね」

「いや、いいんだよ。こっちがいきなり来ちまったんだからね」


 そんなことを話していると、ムルタくんが慌てた様子で部屋に入って来た。おかげで話を打ち切ることが出来たのでよかった。俺はムルタくんの方を向く。


「それで、本日はどんなご用件でこちらに来たのでしょうか?」

「キミの知識を借りたいんだ。いまの世界を、どうにかするために……」


 どうにかしてこの状況を打開する。そのためなら俺は何だってする。


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