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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第十二章:破壊と混沌と無関心と
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21-大きすぎる責任をどうとればいいのか

 一週間かけて俺たちは王都へと帰還した。その間にも天使、怪人、そして狂暴化した獣の襲撃を受けた。一番厄介だったのは意外にも狂暴化した獣で、夜でもどこでも見境なく襲ってくるため警戒のしようがなかった。後退の最中にも多くの犠牲が出て、部隊の士気を大いに下げたのは間違いない。こんな暗い行軍は初めてだった。


 レニアとファルナは文句の一つもなく着いて来てくれた。それどころか、傷ついた兵士たちを気遣い飯の準備なんかを手伝ってくれた。もっとも、そんな子供の優しさを受け入れられるほどいまの彼らに余裕はなかった。罵声を浴びせられたのも一度や二度ではない。それでも、2人は人を愛することを辞めなかった。


 ローズマリーさんは静かだった。ドラコさんを殺し、その表情は憑き物が落ちたかのようだった。あるいは、目標を達成してしまったがゆえに虚無的になっているのかもしれないが。いまは未だに目を覚まさない織田くんに付き添っている。




 ……そんな日々を送りながら、俺たちは王都へと辿り着いた。歓待もなく、また名誉もない。あるのは混乱、ただそれだけだった。空しい戦いだ。


「よくぞ帰って来てくれました、皆さん。報告は受けていましたが……」


 俺たちを出迎えたのはオルクスさんと、彼が用意した城の騎士たちだった。敗残兵の殺気立った視線を受け止め、ただいまは休んでくれと彼は言った。この状況を解決するのは、ただ時間だけ。そう判断したのだろう。しかし……


(彼らの絶望や怒りが、時間を置いた程度でどうにかなるだろうか……?)


 分からない。いや、きっと無理だろう。彼らは二度も故郷を失い、そして敗北してここに戻って来たのだ。騎士たちもそうだ、元々西方奪還など彼らには意味のないことなのだ。そのために多くの犠牲を払って来た。その怒りは、恨みは、とてもじゃないが晴らすことなんて出来ない。こんな状況で、俺たちは……


(新たに現れた3体の神になんて、勝てるんだろうか……?)


 果たして勝ったところで何が起こるのだろうか? イリアスとラーナ=マーヤを殺したら新たな災厄が現れた。その災厄を打ち倒したとして、その先に平穏が待っているとは限らない。もしかしたら、俺たちは滅びへと向かっているのかも……


(……違う。俺の決断のせいだ。だったら、責任を取らねえといけねえ)


 殺すことでしか解決出来ない男がいたから、こんなことになった。ならば世界を歪めてしまった責任を取らなければいけない。絶対に、救わなければ。


「久留間、さん。大丈夫ですか……? あなたも、疲れてないですか?」


 そんな俺のことを見て、レニアは心配そうに声を掛けてくれた。ありがたい、そう思うと同時に強く自分を戒めた。子供にも分かるくらい、いまの俺は疲弊している。気を引き締めないと。この世界を、レニアたちを守るため。


「大丈夫だよ、俺は頑丈なんだ。お前たちこそ疲れてんだろ?」

「……うん、ごめん武彦。僕たちは先に休ませてもらうよ……おやすみ」


 そう言ってファルナはレニアの手を引き、自分たちの部屋へと帰って行った。その背中を目で追いながら、あの2人を戦場に連れて来たのは間違いだったなと思った。いくら他に安全な場所がなかったとはいえ、結果的に王都は守られていたのだ。そしてあそこにいなければ、ファルナがあんなことにはならなかった……


 キィン、という高い声が聞こえる。

 誰かが俺を呼ぶ声が聞こえる。

 知った声が。


「おい、何をしているんだ武彦? ボーっとしてる暇はないんだぞ?」


 突っ立っていると、ハルから声を掛けられた。慌てて振り返る、彼女の隣に多良木がいる気がした。そんなわけがない、頭を振ると彼の幻影は消えた。


(ええい、なんだ耳鳴りに加えて幻聴なんて……らしくねえだろ、俺。

 疲れてる、確かにそうかもしれねえ。でも、それがいったいどうしたんだ?)


 俺に弱音を吐く資格なんてない。俺がもっと頑張れが、救えた命だってたくさんあるんだ。俺の怠慢で死んだ命が。それに報いなければいけないんだ、俺は。


「何でもない。にしても、この広い王都でどうやって探しゃいいんだか……」

「基本は足で探すしかないだろう。取り敢えずチームには分かれてもらった。

 私とお前、それから須藤兄妹。シャドウハンターと西方組とでな」

「まったくの部外者だから、ある意味いいのかも知れないな。あいつは」


 コミュ力はないがそんなことは微塵も気にしない奴なので、どれだけ空気が悪くなっても行動してくれる。一緒にいる奴はたまったもんじゃないだろうが。


「それで、久留間くん。そのムルタさんと言うのはどういう人なんだい?」

「どういうって言うとな……あっ、そうだ。似顔絵でも書いてみるか?」

「そうだな。ああ、武彦。特徴を言ってくれ、私が似顔絵を描くから」

「いいけど……俺の画力がそんなに信用出来ないのか? 悲しいねぇ……」


 昔図画工作の授業で先生に『もっと頑張りましょう』を一年間ずっと貰い続けたことはあった。けどそんなこといまは関係ないだろう? ともかく、俺はハルに特徴を伝えた。ハルはさっさと筆を動かし、一枚の絵を完成させた。


「おお、特徴を掴んでるっていうか……真に迫るものがあるな、これは」


 俺はハルに内心で拍手を送った。まるでそこに存在するかのような、リアルなムルタくんが紙の上に現れたのだ。須藤兄妹も賞賛の言葉を送る。


「スゴイな、三浦くん。これなら探し出せるかもしれないぞ!」

「ハル、凄い……ねえ、もしよかったら私にも絵を教えてくれないかな?」


 しかし、ここまで賞賛一辺倒だと俺の教え方がよかったんじゃないかとも思ってしまう。断じて嫉妬しているわけではない。ただ納得出来ないだけだ。


「おや、この子は……もしかしたら見たことがあるかもしれませんねえ」

「うわぁっ!? セ、先生!? いきなり後ろから声かけんで下さい!」


 いきなり聞こえてきた声に、俺は思わずビビってしまう。先生はまったく俺に気配を感じさせず背後に立った。気を抜いていたとはいえ、実は凄いのか?


「すまないねえ、キミたちが帰って来たと聞いていてもたってもいられず」

「この絵の少年を見たことがあるということですね。どこでですか、先生?」


 ビビりまくる俺を後目に、ハルはクールに話を続けた。それにしても、先生を相手にしているというのにまるで同級生にでも話を聞くような態度で臨んでいる。これはいくらなんでも失礼なんじゃないのか? 先生は気にしていないが。


「教会の炊き出してみた気がするんだ。まだあの、あそこに……」

「『天翅の塔』ですか。街にある、あの巨大な塔です」

「ああ、そうだそう、それです。そこで見たんです。まだいるかもしれません」


 瓢箪から駒、いや棚から牡丹餅?

 とにかく、行動方針は決まったようだ。


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