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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第十一章:取り戻した先にあるもの
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20-虚無をもたらす者

 人型であるはずなのに、それが人間だと認識することが出来なかった。それくらい、目の前倣われた新たな神、虚無神は非人間的な人間(・・・・・・・)だった。

 マネキンめいた平面的な体つき。筋骨隆々としているわけでなく、かといって華奢ではない。均衡のとれた肉体をしているのに、なぜかアンバランスに思えた。それは、彼と言う器にまったく生命を感じなかったからかもしれない。


「……お前らッ、いったい何者なんだ……!?」


 虚無神は無言で腕を振るった。俺はレニアとファルナを庇おうと雪にダイブした。腕の軌道をなぞるように三日月形の刃が発生し、それが俺たちの頭上を通過した。軌道上にあった木々はそれに飲み込まれるようにして、消えた。


「我が名はジャガ。命ある者に滅びをもたらし、この世界を救済する者」

「……人を殺しておいて、救済だと? ふざけるなよ、貴様ァッ!」


 拳を固め、鹿立が突っ込んで行く。その姿が漆黒に染まり、青銅色の巨人へと変貌する。ラーナ=マーヤが死んだことで、戦闘態(ウォーフォーム)の制限も解除されたということだろうか? それを見た涼夏も、変身し氷の力を発動させた。ジャガの周囲にあった雪が凍結し、彼の体を絡め取る。拘束帯は鋭い棘を作り出し、彼を刺した。

 ジャガは首を動かし、突進する鹿立を見た。ドウッ、と奇妙な音がした。鹿立の眼前にあった空間がゼリーのように蠢き、彼を絡め取った。


「これは……!? うっ、動きが……鈍いッ……!?」

「あれはッ、まさかエロアイオスの運動量操作か! けど、これは……」


 桁違いの出力だ。まさか睨まれただけで身動きが取れなくなるとは。ジャガは息を吐き出し、全身に力を込めた。俺は再度変身し、それを止めようとしたが間に合わなかった。ジャガは筋力だけで氷の拘束を粉砕してしまった。

 ハルの魔法がジャガを襲う。だがジャガは素早いステップでそれを避けながら、身動きの取れない鹿立に向かって行った。そしてその頭を掴む。


「虚無へと還れ。それが罪業背負いし命に許された唯一の救いなりッ!」


 虚無の力が鹿立の頭を飲み込んだ。頭部を失った彼は雪の絨毯へと落ち、そして爆発四散した。あの鹿立が、それも戦闘態を発動させた鹿立が……


「強っ、過ぎる……あれが、追放された神の力だって言うのか……!?」


 イリアスもラーナ=マーヤも、どうやってこんな奴を追放したって言うんだ? 古代人はどうやってこんな奴らに勝ったんだ? 無意識のうちに俺はねっとりとした脂汗を流していた。行けない、こんなことでは誰も守ることなんて出来ない。


「ハル、味方に指示出せぇっ、撤退だ! いま、ここで当たっちゃいけない!」

「っ……分かった! 草薙、手伝え! 撤退信号を上げるんだ!」

「逃がすと思っているのか、人間たちよ。お前たちはここで死ぬのだ」

「逃げてえと思ってるから言ってんだよ! レッツ・プレイ……変身!」


 俺は自らを鼓舞し、ファンタズムに変身した。ともかく、あいつに睨まれてはいけない。これまで何体かの眷属を相手にしてきたが、それとも全く桁の違う力をジャガは持っている。しかも何をしてくるのか、まったく見当がつかない。

 だが、あれほどの力を使うために何のリスクがないとも思えない。いままでのパターンからすると、あれを使うには結構な集中力が必要になる、とかがありそうだ。至近距離で打ち合いで、あいつにその暇を作らせなければあるいは。


 左右に大きくステップを踏み、稲妻を描くようにしてジャガに近付いて行く。ジャガは俺のことを凝視するほどの時間を得られていない、発想はよかったらしい。業を煮やしたのか、ジャガは腕を振り上げ先程の衝撃波を放とうとする。


「貴様一人では荷が勝つ相手であろう。俺もやらせてもらおうか!」


 鋭い発砲音が聞こえ、ジャガの体表でいくつもの火花が上がった。シャドウハンターによる銃撃だ。それにしても、火花とは。あの非人間性にもいくらか説明がつくのではないだろうか。ジャガは肉体を有機物ではなく無機物で構成しているのだ。それも鉱物に近いもので。だから銃弾とぶつかり合い、火花が舞った。

 シャドウハンターが作ってくれた隙を使い、俺はジャガの懐へと飛び込んだ。勝ちあげるようなアッパーを放つ。ジャガは半歩後退し攻撃をかわす。避けてくれるということは、どうやら俺の攻撃はジャガにとっても危険らしい。


「死、虚無の力。それを纏いながら、なぜお前は生きようとする?」

「力なんてのは、使いたいように使うもんだろうが! それが何でもな!」


 接近を嫌ったジャガは軽いジャブを放ち俺を退けようとする。それを左の手甲で受け止め、半歩後退。両者一瞬で踏み込める至近距離、俺とジャガの視線がかち合った。そして拳打の応酬が始まる。目にも止まらぬ丁々発止の打ち合い、俺も思考する暇すらなく、ほとんど反射に身を任せていた。ジャガもそうだろう。


(予想通り集中力が必要みたいだな。俺がこいつを止めれば……)


 そう思っていた時、絹を裂くような悲鳴が聞こえた。ハル? 一瞬気を取られたのが命取り。身を屈めかわすジャガに反応することが出来なかった。ジャガは体を丸め、ショルダータックルを繰り出して来た。内蔵が押し潰されるような衝撃を受け、俺は吹っ飛ばされた。ゴロゴロと地面を転がり、距離を取らされる。マズい。

 素早く体勢を立て直す。だが、ジャガが俺を睨むのが速かった。次の瞬間には、俺はエントロピー減衰フィールドの中に囚われていた。動こうとすればするほど、逃れようとするほどにもどかしくなる。一挙手一投足がゼリーのプールを泳いでいるかのように遅くなる。思考すら鈍くなっている気がするので不思議だ。


「抵抗は無意味。死の力に勝てる者など、存在しないのだから」


 背後に目を向けると、撤退を始めていた部隊が卵型の天使によって包囲されていた。疲弊した兵士たちと万全な天使たち、戦いにすらなっていない。


「まずはお前たちだ。そして池とし生けるものを、神すらも滅ぼし私は――」


 その時、まったく予想していなかったことが起こった。天使たちがいきなり爆発したのだ。ジャガすらもそれには目を剥く。何が起こっている?

 いや、ジャガの集中が途切れたいまがチャンスだ。俺は渾身の力を込めて減衰フィールドから脱しようとした。集中力を欠いたフィールドは先ほどよりもよっぽど動きやすい、どうにか側転を打ち拘束を脱する。いったい何が起こった?


 顔を上げた俺が見たのは、空を埋め尽くすガレー船だった。


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