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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第十一章:取り戻した先にあるもの
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20-神の時代が終わる時

 神は、ラーナ=マーヤとイリアスは死んだ。周囲にいたダークの気配も、マーブルの気配も、もちろん動く死体の気配も何もない。俺たちの勝利だ。


「友情の勝利だ。やったな、シャドウハンター?」

「戯言を。それよりも、貴様はあの時見えなかったのか(・・・・・・・・)?」


 何を言っているのか分からなかった。俺が不思議そうな顔をすると、シャドウハンターはクソデカいため息を吐いてファルナたちの方へと歩み寄った。


「ファルナ様、そのお姿。イリアスに何かされたのですね?」


 そして片膝を突き、ファルナと視線を合わせて話を始めた。何十年も使えて来た忠臣のようだ。何となく面白いヴィジュアルだったので、噴き出してしまう。


「久留間、お願いだから黙っていろ。お前の存在自体が鬱陶しいんだ」

「分かった分かった、悪かったよ。ちょっとしたジョークだろ、ったく……」


 やれやれと手を振るとシャドウハンターは俺から視線を外し、ファルナを真っ直ぐ見た。ファルナはバツが悪そうに目線を外し、変身を解除した。


「おっ、任意で変身を解除出来るのか。面倒なことにならなそうでいいや」

「イリアスから言われたんだ。この力があればラーナ=マーヤを倒せるって。

 そうすれば、あとは転移者をこの世界から元の世界に戻してすべて解決だって」


 確かにラーナ=マーヤを殺せたわけだし、彼女が言っていたことに半分はウソがなかったということだ。残りの半分は怪しいものだが。そんなことが出来るのならばわざわざ転移者を殺して回る必要などなかったのだから。


「ごめん、武彦。武彦を放っておくとラーナ=マーヤを殺せないからって……」

「騙されちまったもんはしょうがねえよ。俺はどっちも殺す気だったけどさ」


 相手はこの世界を手に入れるために、元同族すらも平気で裏切るような奴だ。もっとも、ラーナ=マーヤの方が彼女を最初に追放したのだから因果応報と言えないこともないのだろうが。ともかく、最初から騙す気満々だったわけだ。


「俺がお前だったとしても同じ決断をしただろ。みんな守りたかったんだろ?」


 ファルナは遠慮がちに頷いた。俺がそんなことを思ったことはないが、この心優しい子供はそんなことを本気で思っていたのだろう。その優しさを否定することなんて出来ない。結果的には彼の存在が神殺しに繋がったのだから。


「まあ、とにかく全部終わったんだ。ドラコさんのことは残念だったが……」


 亡骸を見る。ローズマリーさんはそれに縋りついたまま、動こうとしない。この国を裏切り神についたあの女は、王国は、これからどうなってしまうのだろうか? 分からない。だが少なくとも、あまり愉快なことにはなりそうにない。


「武彦! ファルナ、レニア! 無事だったんだな、お前たち!」

「おっ、ハル! それにみんなも。何とか無事に済んだみたいだな」


 森の奥から声を掛けられ、俺たちは振り返った。転移者は誰一人として欠けることなくまたここに戻って来た。この作戦が始まる前に死んだ者たちを除けば……多くの犠牲を払ったが、俺はそんな単純なことが嬉しくてたまらなかった。


「化け物どもが一気にいなくなったが、どうなっているんだこれは?」

「安心しろ、鹿立、草薙。女神も陽光神も倒した。全部終わったんだよ」


 それを聞いて、彼らはハッとしたように息を飲んだ。神を殺したと、その事を考えているのだろう。だが、相手は人間のことなんて何とも思っていないような連中だ。そんな奴らが生きていて、俺たちにどんなことをしてくれるというのか?


「ドラコ王は……亡くなったか。大嫌いだったが、しかし……」


 鹿立は悲しそうな顔をした。少しくらいは信じてくれていたのだろうか。


「……約束通り、西方は奪還されたわけだな。俺たちは、ここに……」

「そうだな、全部終わったんだ。お前たちとも、ここでお別れってことに」

「愚かな……何も終わってなどいません。いや、すべて終わってしまったのか」


 ゾク、と背中に怖気を感じた。慌てて俺とシャドウハンターは、女神イリアスの亡骸の方を見た。彼女は首だけになりながらも、まだ、生きていた。


「ヒッ……!? そ、そんな……あ、あんな状態になっても、まだッ……!」

「もはや、私は、命を繋ぐことすら出来ないでしょう。口惜しいッ……!」

「死にかかってんならさっさと死ね! 手前に居場所なんざねえんだよ!」


 俺はツカツカとイリアスの方に近付く。それでもなおもこいつは嘯く。


「私や、ラーナ=マーヤほど人間に好意的な神などいない。

 愚かにも、あなたたちはそれを殺してしまったのです。いったいどうなるか……

 そんなこと、決まり切っている。あなたたちは、人間は、すべておしまいです。

 あなたたちは自ら滅びの道を――」


 俺は足を振り下ろした。イリアスの頭部を踏み砕き、今度こそ殺した。


「首だけになってまで呪い吐くたぁ、いい根性だ。だが鬱陶しいんだよ、お前」


 まったく、いやな気分になってしまったではないか。ともかく、これで全部終わったんだ。俺は満面の笑みを作り、みんなの方に振り返った――


 その時。

 イリアスに感じたものとは比較にならないほどの怖気が走った。


 キィン、と高い音が耳を貫く。

 俺を呼ぶ声がどこかから聞こえる。

 知った声が。


「ッ……!? なんだ、これは。世界が、泣いているのか?」


 この場にいる誰もがそれに気付いた。須藤くんがやたらと詩的な感想を口にした。いったい何が、これはどこから発しているのか? 俺はそれを探し。


 そして、知った。

 イリアスの言ったことが嘘ではないということを。


 北の空から雷鳴が轟き、空が割れた。そこから現れたのは、空飛ぶガレー船だった。遠くから見ているはずなのに、まるで山の如く大きな船。それに纏わりつくコバンザメめいた船がいくつも随伴している。正気を失いかねない光景だ。


 南の空にはいつの間にか黒い雲で覆われており、その先を見通すことなど出来なかった。ただ、時折稲光がすると雲にシルエットが映し出されているような気がした。山のように巨大な人型、だがそれは多数の生物を掛け合わせたような……


 そして変化は西でも起こった。空が、地面が、空間がガラスのような亀裂を伴いながら割れた。そこから現れたのは、卵型の天使。虚無神の眷属たちだ。


「この時を、我々は永劫待っていた」


 2mほどの亀裂が出来たかと思うと、そこから声が聞こえて来た。亀裂の中から鋭い鉤爪のついた手が現れ、それを押し広げた。神が、現れたのだ。


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