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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第十一章:取り戻した先にあるもの
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19-邪神滅すべし

 イリアスの虚ろな目が俺とシャドウハンターとを同時に見る(・・・・・)。そして彼女は左の爪で右手を掴んで、引き千切った。鮮血が舞う。


「オイオイオイオイオイ! 冗談じゃねえぞ、何する気だよお前……!」


 いまだ黒い爪蠢く右腕を、イリアスは俺に向けて投げつけて来た。避けようとして、しかし気付いた。腕はいまだ黒いファズマの縄で本体と繋がっているということに。投げ放たれた腕が鞭のようにしなり軌道を急速に変え襲い掛かって来る。しなりと反動で威力のついた爪を、俺は盾で受け止めた。何という膂力だ……!


「肉体と言う器すら、女神にはもう意味のないものだと言うことか!」


 シャドウハンターは叫びながら何度もトリガーを引いた。当たれば即死の重金属弾をもイリアスは意に介さない。いくつもの穴が穿たれるが、すぐに闇がそれを補填する。イリアスはその場で一回転し、鞭状になった右腕を振り回した。

 木々をなぎ倒しながら爪が俺たちを襲う。俺は伏せ、シャドウハンターは垂直に飛んでそれを避ける。反撃に転じようとするシャドウハンターを翼が追い掛けた。網の目状になった羽根の一枚一枚がアイスピックめいた鋭さで迫る。


「ヌゥーッ……! 死すらも厭わぬ攻撃、厄介だな……!」


 ほぼ隙間のない攻撃だった。だがシャドウハンターは左手で鞘を抜き、二刀となった。ローターめいて高速で剣を回転させることで翼の攻撃を受け流す。着地点が爆ぜ、そこから何本もの爪がせり出すが、彼はそれを蹴り反動跳躍を打ち着地した。仕留めそこなったのが悔しいのか、イリアスは恐ろしい咆哮をあげた。


「冗談じゃねえぞ、こいつ。ただの化け物じゃねえか、これじゃあ」

「まったくだ。おぞましい外見、恐ろしい能力……これがファズマの力か」

「だが相手が何だろうとさっさと終わらせる。そうだろう、シャドウハンター」


 こくりと頷くシャドウハンター。だがこの怪物を前にして、俺たちはどうすればいいのだろうか? 生半可な攻撃では有効打にならないのは先ほどの攻撃で証明済みだ。かと言ってストライクモードでもこいつを殺し切れるとは思えない。


「……シャドウハンター。俺みたいな必殺技って、お前も撃てるか?」

「一時的な出力ブーストモードは存在する。それを同時に当てればあるいは」

「さすがは俺の相棒。やりたいことをきっちり理解してくれてて助かるぜ」


 相棒という言葉にも、もはやシャドウハンターは反応しなかった。ここまで来るとちょっと寂しくなってくるぞ。ともかく、やるべきことは決まった。


「同時にぶち込むぞ、シャドウハンター! 遅れるんじゃねえぞ!」

「分かっている! 貴様こそ向こうに着く前に死んでくれるなよッ!」


 そんなヘマを……するかな、もしかしてしちゃうだろうか? そんなことはしたくないな。出来ることなら全力で生き残っていきたいものだ。


 イリアスは万歳をするような姿勢で爪を天に向けた。その両爪がどんどん伸びて行く。全長20mは軽く超えているだろう。あれだけの長さを持っていても、実態を持たない爪であれば質量なんかは関係ないのだろう。羨ましい限りだ。

 イリアスはそれを容赦なく振り下ろした。俺とシャドウハンターはそれぞれ左右に跳び爪を避けた。そこも見えないほど深い穴が地面に刻まれる。


「でぇい! なんつーバカ力! ちったあ加減しろってんだ、こいつ!」


 俺はファズマシューターを放ち、シャドウハンターは銃を撃つ。俺たちの弾丸はイリアスの手甲を削った。肉体へのダメージは闇によって修復されてしまうが、生成した手甲までは修復出来ないようだ。攻撃はあの部分に集中させるに限る。

 イリアスは癇癪を起した子供のように叫び、そして右手に左の爪を振り下ろした。何度も、何度も、何度も。骨を砕く嫌な音が辺りに響き渡った。あまりの出来事に、俺もシャドウハンターも言葉を失っている。奴がそうした理由はすぐに分かった、粉砕された手甲と爪は闇によって本体と接続された。腕と同じように。


「鞭の本数を増やそうってわけかい! 参ったな、こいつは!」


 シャドウハンターを羽根の網で牽制しつつ、イリアスは鞭と化した右腕を俺に向けて振るう。不規則な機動を取り迫る何本もの鞭が俺を襲う。かなり危険だ、攻撃を予測するのがかなり難しいし、それぞれにタイムラグがあるので突っ込んで行くことも出来ない。あの右腕をどうにかしなければ、懐に踏み込むことが出来ない。


「こういうのを掻い潜るには……こいつの力かッ!」


 俺はバックステップで後退しつつ、クレリックROMを抜いた。そしてファイターの代わりにそれを指し、再変身。宣教師(ミショナリー)たちの苦難を歌った正常な讃美歌とともに、俺の姿がジョブ:ミショナリーへと変わった。

 武器は持たない、宗教者であるからだ。ただ誰よりも速く、誰よりも迷いなく進んで行くことが出来る。俺は迫り来る苦難、すなわち鞭へと向かって駆けた。シーフのそれをも上回る機動力で鞭を翻弄し、本体へと近付いて行く。


 足を粉砕せんと鞭が迫る。俺は飛び込み前転の要領でそれをかわす、だが横合いから別の鞭が近付いて来る。俺は鞭へと視線を向ける、強靭なる意志力は迫り来る困難すらも受け止める。空中で鞭がバリアに受け止められ、反発した。

 そしてゼロ距離へ。この距離で長さとそれによって生み出されたスピードを武器とする鞭は全力を出すことが出来ない。イリアスは左の爪を振るい俺を殺そうとする。俺はそれを手甲で受け止め、無防備な腹を殴りつけた。脇腹を抉るブロー、心臓(ハートブレイク)打ち(ショット)、顔面への打撃の三連撃を受け、イリアスがたたらを踏み後ずさる。


 翼の動きも止まっていた。そして、シャドウハンターはその隙を見逃さない。地面に突き刺さったまま止まり、道を遮る羽根を切り裂き道を作ると、一呼吸の間にイリアスの懐へと飛び込んだ。俺たちは同時にイリアスを蹴った。


「さあて、こいつでとどめだ相棒。やってやろうぜ……!」

「いいだろう、せいぜい邪魔をしないことだな。久留間武彦」


 俺はベルトのボタンを、シャドウハンターはハンドヘルドコンピューターを操作した。『ホーリー・ストライク!』と『エクステンド・ストライク!』の機械音声。2人の右足にファズマが収束し、すべてを滅する危険な輝きを放つ。


 蹴りの衝撃で吹き飛ばされながら、イリアスは尚も抵抗しようと右腕を振りかぶろうとした。しかし、それが突如として止まる。彼女の腕を掴む黒い影があったのだ。それは、彼女自身が吸収して来たこの世界の霊魂だった。

 それでも彼女は諦めない。左腕を振り上げ、爪の一線を喰らわせようとした。しかしその時、彼女の顔面で黒い炎が爆裂した。イリアスは悲鳴を上げる。


「ハァーッ、ハァーッ……! これ以上、やらせて、堪るかよ……」


 それだけ言って、織田正和は気を失った。俺たちは同時に跳んだ。青白く光るファズマが白の大地に鮮烈なる軌跡を描く。俺とシャドウハンターが放った飛び蹴りは、吸い込まれるようにイリアスの胸板に叩き込まれた。


 俺たちのファズマがイリアスの闇を貫き、その奥にあった彼女の肉体を貫く。

 俺たちは彼女の体を貫通し、その背後に降り立った。


 片膝で立ちながら、俺はパチン、と指を鳴らした。

 光の中で、宵闇の女神イリアスは爆発四散した。


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