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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第十一章:取り戻した先にあるもの
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19-怒りと恨みを持って秩序を打倒する

 やられっぱなしだ。

 認めよう、俺はイリアスに敗北した。


「これ以上はやらせねえよ、イリアス。変身ッ……!」


 ファンタズムROMをセットし変身、イリアス目掛けて飛びかかった。俺の拳とイリアスの爪とがぶつかり合い、爪が弾かれる。流れた体に軽い二段蹴りを叩き込む。イリアスは悲鳴を上げながら吹き飛ぶ。当たりは浅かった。


「よくもやってくれやがったなあ、イリアス。俺を生き埋めに……まあいい。

 ドラコさんを殺し、ファルナをこんな姿にしてくれやがった!

 絶対に許せねえよ、お前!」


 俺の中には女神への殺意が渦巻いていた。これだけ怒らされたのは久しぶりだ。こいつは自分の都合で人の命を、未来を歪める。神の傲慢さは変わらない。


「目覚めさせてあげただけですよ。いずれそうなるはずでしたから」


 イリアスは意外にも構えを解いた。ファルナの方を見る、彼は申し訳なさそうに項垂れているだけだ。そんな顔をするな、ファルナ。お前を責めたいわけじゃないんだ。こいつにそそのかされて、やりたくねえことをやらされただけだ。


「ラーナ=マーヤは死にました。この辺りで矛を治めませんか、久留間武彦」

「寝言は寝て言いやがれ、イリアス。手前がしたこと忘れたとは言わせん」

「そんな矮小な話をしているわけではない。おっと、怒らないで下さいよ?」


 激高しそうになる俺の機先を制し、イリアスは掌を向けて来た。周辺にマーブルの気配はない、本当にこいつは俺と話をしようとしているのか?


「ラーナ=マーヤが死んだことでこの世界の支配者は空位となりました。

 私はそこに収まり、この世界を他の世界と隔絶する。虚無神を追放します」

「隔絶、追放……本当にそんなことができるって言うのか?」

「元々あの男が開いてしまった穴ですから。閉じることなど造作はありません。

 世界間を隔絶し、歪みの原因である転移者を取り除き、この世界は完成する。

 それが結末です」

「そして、手前の暗黒支配体制が完成するってわけだ。何様のつもりだ手前」

「神様ですよ。人が人の意志で支配するより、よっぽどマシな世界になる」


 イリアスは自信満々に言った。

 どこからその自信が出て来るのだろうか。


「人の自由意思を尊重したこの世界はどうなりましたか?

 戦乱絶えず、人は蹂躙され、すべてを法と言う名の暴力が支配する。

 私が君臨すればそんな世界は終わります」

「人が人らしく生きられない、そんな世界が到来するからなぁ。なあ、女神様。

 アンタは本当に人がそんな世界を望んでいると思っているのか?」

「自由を望まない人間がいるということは知っていますよ、久留間武彦。

 皆あなたやドラコ=アルグラナのように強くあることは出来ないんですよ?

 そして、あなたたちの世界では強くなれない人間は生き残れないんです。

 それは、地獄と同じですよ」


 いまいち否定し切れないのが辛い。この世界の人間が起こした蛮行を知っているからこそ。けれども、だからこそ強く自由を望んだ人がいるのだ。


「ドラコさんはそんな世界を望んで、生きて、死んだ。それで十分だ」

「……所詮、あなたにとってこの世界のことなど他人事ですからね」


 イリアスの背中から闇で出来た翼が生えた。手甲からせり出す闇の爪はその密度を増す。彼女の周辺を取り巻くファズマがその体に収束していくのが分かる。彼女は使いこなしている、ファンタズムの力を。俺からパクった力を。


「ならばあなたには死んでもらうしかありません。残念です」


 イリアスの爪が円盤状に形を変え、グルグルと高速で回転を始めた。戦輪とでも言うのだろうか、イリアスはそれを俺に向かって投げつけて来る。スピードはそれほどではない、投げ放たれたそれを俺は手甲で受け止める。しかし、当たってもそれは少しも勢いを緩めず、逆にチェーンソーめいて腕を切断しようとしてきた。

 敢えて倒れ込み戦輪を受け流し、危うく難を逃れる。真正面から受け止めるのは危険だ、と思う前にイリアスは翼を広げた。それが段々と巨大化し、タコの触手めいてうねり始めた。ヤバイ、と思ってゴロゴロと転がった。

 翼がまるで意志を持ったかのように動き、俺が一瞬前までいたところを叩いた。派手に雪煙が舞い上がり、クレーターが作られる。あんな物に押し潰されたらただでは済まないだろう。この世界に来て初めて同格の、等質な相手との戦い。


「チッ、無手じゃ不利かい。だったら、こいつはどうだッ!」


 ファイターROMを取り出し交換、再変身。軽快な音楽と共に俺はジョブ:ファイターへと変わった。イリアスは慎重に距離を取りつつまた戦輪を投げた。

 盾を斜めに構え戦輪を受け流す。僅かに湾曲した盾の表面は攻撃を受け流すのに最適だ。イリアスは舌打ちし、翼の触手を振り回す。俺は剣を振り回し、触手を切断する。主から離れた触手は、分解されるようにして大気に消えた。


「この程度のスピードなら、いくら来たって対応出来るぜ!」

「おのれ! ならば、これだけの数を捌くことが出来るか!?」


 イリアスは逆上し大量の戦輪を投げつけた。盾で捌き、剣で受け流す。触手の攻撃を避け、少しずつイリアスに近付いてく。イリアスが焦るのが分かる。


「この程度でッ……いい気になるな! まだ速くすることは――」

「奇遇だな、俺ももっと速くなる。けどそんなのは必要ない――」


 イリアスの左腕が宙を舞う。男の舌打ちが聞こえた。イリアスは狂ったように爪を振り回し、辺りのものを構わず破壊する。ジジジッ、と言うノイズが聞こえ、世界の闇に紛れていたシャドウハンターが姿を現した。


「助かった。さすがに相手にするのが面倒過ぎたからな」

「浅いな。一撃で首を落せなかったか……」


 だが片腕を失い精神的にもダメージを負ったはずだ。これなら……


「殺す、滅ぼす。この世界、すべて、死ッ……」


 だがそれは考え違いだった。イリアスの放つ雰囲気が、変わった。冷たくおぞましいものへと。彼女の身の内から闇が溢れ出し、失った左腕を補完した。


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