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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第二章:世のため人のために力を使う? んなワケないじゃーん!
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02-終了報告~報酬とか貰うんです?~

 ハプトン村の住民は恐怖から解放された。だが、彼らの目に光はない。中西さんたちに奪われたものの大きさは計り知れない、時間だけがそれを解決してくれる。


「取り敢えず、例は言っておく。あんたたちのおかげで、ワシらは助かった」


 村のリーダー格である老人が頭を下げた。俺は彼にサインを貰った。


「何かあったら、来てください。そん時はまた、お助けしますから」

「はン……何かあったことに1年も気付かれなかったんだ。無理だろ」


 そう言って老人は去って行った。俺たちには使っていない穀物倉庫を宛がわれ、そこで一夜を明かすことになった。火事が怖いのでランプの類はない。


「はぁー……あん時一口でも飯食ってりゃよかった。腹減って仕方ねえ」


 空腹過ぎて目が冴えて来る。飯のために犯罪だっておかしそうなテンションだ。多良木は部屋の片隅に座り、俺を睨んだ。視線に気づき、声をかける。


「何か言いたいことがありそうだな、多良木。あるんなら聞くぜ」

「何であいつら殺したぁ、久留間。あそこまですることなかったんじゃねえか?」


 あそこまですることはなかった、か。

 殺されかけたのに、いい奴だなこいつ。


「打っても打っても倒れねえんだし、これ以上時間かけてらんなかったしさぁ。

 それに、あいつらのやってることを考えたらあんまり後腐れもなさそうだった。

 だから手っ取り早く解決することにしたってだけ。あのままじゃ死人が出てた」

「あいつらもクソだが、手前もクソってことはよく分かったよ」

「あいつらよりは臭わないでいるつもりなんだけどな。信じてくれよ」


 クソと掛けた(下品な)ジョークだったが、多良木は反応してくれなかった。見た目に反して真面目な奴め。そうこうしているとシャドウハンターが帰って来た。


「お帰り。後始末ご苦労さん、ここが今日の俺たちの城だぜ」

「屋根があるだけ、いいというものだ。しばらくの間は野宿だった」


 こいつもこいつでキツい生活を送ってきた、というわけか。


「そう言えば、お前たちはどうしてたんだ?」

「……ディメンジアの拠点、次元城が空間転移を行った時の話だ。

 何者かの攻撃によって次元城は撃墜され、我々は散り々りになってしまった。

 脱出ポッドから這い出し、時間を確認した時俺は愕然とした。

 あの時からすでに、5年の月日が流れていたのだから」


 こちら側と向こう側とでは時間の流れが異なる。彼がこちらの世界に来たのは、せいぜい数日前と言うことか。それから情報を探しに山を下って、あいつらに会ったという。


「俺はディメンジアの仲間を見つけねばならん。このままにしてはおけん」

「で、向こう側の世界と同じようにこっち側の世界を侵略しようってのか?」


 俺が言うと、シャドウハンターはじろりと睨んで来た。


「……合流、そして脱出が最優先だ。この世界に来てからすべてがおかしい。

 何か良くない力に引き寄せられているような、そんな気さえもしてくるのだ。

 この世界のためにも、次元皇帝のためにもならん。この世界は捨てる」


 殺人サイボーグたるシャドウハンターが『気』とは。それほど恐ろしいものだったのだろう、ディメンジアが遭遇した災厄は。それだけ言ってシャドウハンターは目を閉じた。微動だにしないところを見ると、寝ているのだろう。


「……で、多良木。あんたはどうなんだ?」

「1年ばかり近隣の村の世話になった。男手が足りてねえところだったからな。

 畑仕事やら、巻き藁運びを手伝ったりして、それなりに感謝されていたはずだ。

 だが、平和な村に突然ダークとやらが現れやがったんだよ。

 俺は戦ったが、村は守れなかった」

「駐留している兵士とか、そういうのはいなかったんだろうな……」

「田舎村じゃ、武装神官協会に払う金すら持てねえっていつもみんな嘆いてたよ。

 いざとなったら俺が守る、そう思っていたが、俺には何も出来やしなかった」


 人々の葬儀を、略式ながら済ませた後彼は旅だった。そしてここに辿り着き、他の転移者がいるのを知った。そして彼らの暴虐に怒り、反旗を翻した。


「他の連中はどこにいるんだろうな。いたとして、何をしてるのか……」

「知らねえよ、知りたいとも思わねえ。知っても何も関係ねえしな……」


 そう言って、多良木も横になった。どいつもこいつも、協調性の『きょ』の字もありやしねえ。仕方ない、俺も疲れた。そろそろ眠ることにするか……




 誰にも見送られず、俺たちは村を出た。結局、シャドウハンターと多良木は俺について来ることになった。説得の結果シャドウハンターはディメンジアの仲間を助けるために、多良木は武装神官協会に登録するために。ともにバルオラに向かうことになった。

 道中は、終始無言。すれ違う馬車の御者がおかしなものを見るような目で見て来る。そりゃそうだ、こんな珍奇な一団そうそうお目にかかれない。さっさと終わってくれと俺は願った。願いは叶い、旅路は非常に順調に進んだ。俺たちは日が落ち切る前にバルオラに辿り着くことが出来た。


「むっ、止まりなさいキミたち。領主の館に何の用……久留間様!」


 門番を務めていたアルフさんが俺の姿を認め、声をかけて来た。いつもよりだいぶ物々しい格好だ、ゴツいブレストプレートにレガースとガントレット。更に重そうな鉄の兜を被っている。手にはこれまた長大なポールアクス。どうしたんだこれ?


「いえ、この間のダーク出現を受けて屋敷の警備を増強することになったんです」

「ああ、そうか。シオンさんとかお嬢さんとか、危ないもんなぁ」

「しかし、数日で仕事を終わらせて帰って来るなんてさすがですね」


 取り敢えずサインは貰ったが、これでいいんだろうか? ただ働きになったって一向に構わないが、書類の不備のせいで彼らが責められるようなことになったら酷だ。


「丁度リニア様がもいらっしゃっています。ご挨拶に伺ってはいかがですか?」

「ああ、分かった。それじゃあ、また後でな。アルフさん」


 俺と、それから怪しい二人をアルフさんは見送った。声を掛けようとしたが、止めた。俺が信用されているのか、それともアルフさんが尻込みしているだけなのか。どっちにしても警備はゆるゆるで、これで守れるのかと心配になるほどだった。

 屋敷2階にあるシオンさんの執務室、俺たちはそこに向かった。


「お帰りなさい、久留間さん。あら、そちらのお2人はいったい……?」


 シオンさんは口元を押さえながら驚いた。驚きの所作すらも優雅だな、と思いながら俺はこれまでの顛末を話した。2人が転移者であるということ、そして転移者と戦ったということ。途中多良木がボーっとし始めたので、ちょっと停滞したが概ねつつがなく話は終わった。シオンさんとリニアさんは目を閉じ、しばしの間考えた。


「何はともあれ、お疲れ様でした。あなたのおかげで領民は守られました」

「僭越ながら言わせていただくと、彼らに何らかの補償を行うべきでは?」

「そうですね……期限を区切っての税の減免など、やれることはあるでしょう。

 ですが、情けない限りですね。領地で何が起こっているかすら分からないとは」


 それは仕方ないでしょう、と言い掛けて止めた。ネットで世界が繋がっているのならばともかく、遠く離れた場所のことを正確に把握しておけるわけなどない。仕方がないことだ、とは思いながらも、仕方ないですませていい問題でもない。


(やっぱり難しいんだよなぁ、領地を経営するってのは……)


 とてもじゃないが俺には無理だ。やれと言われたって絶対やるものか、と心に誓った。シオンさんは立ち上がり、多良木とシャドウハンターの前に立った。


「あなた方も、村を守るため尽力していただいたそうですね。

 エラルド領を代表して、御礼を申し上げます。

 それから、差し出がましい申し出ですが……」

「この地に留まれ、と言うのだろう?

 転移者と言うものの概要については、久留間から既に聞いている。

 人間に利用されるようなつもりは毛頭ないが……」


 シャドウハンターは目を伏せる。

 リニアさんは不遜な態度を取る彼を鋭い目で睨む。


「俺にも目的がある。それに、転移者の攻撃を喰らい大きなダメージを受けた」


 俺は目を背けた。いったい誰がそんなことをしたんだろうな。


「ギブアンドテイクだ。俺はお前たちに力を与える、お前は俺に情報を与えろ」

「もちろんです。両者が得をするように、最善を尽くさせていただきますわ」


 シオンさんはにこりと微笑んだ。シャドウハンターもどこか困惑しているようだった。こういうタイプはディメンジアにはいなかっただろうしなぁ。


「俺……いえ、私も、私もよろしいでしょうか?」


 多良木は真っ直ぐにシオンさんを見つめて、言った。


「もちろんです。あなたには恩があります、ですから私も最善を尽くすのです」


 多良木は立ち上がり、深々と頭を下げた。こいつがこんなに態度良く振る舞っているのを見たのは、初めてだった気がする。気に入らない相手ならば上級生だろうが先生だろうが逆らい続けてきた男だ。よっぽどシオンさんを気に入ったのだろう。


「ま、詳しい話はあとでもよいのでは? いまは彼らを休ませてやるべきです」

「そうですね、リニアさん。それでは多良木さん、シャドウハンターさん。

 お部屋を用意させますので、それまでは応接室でお待ちください。

 それから、久留間さん」


 俺だけは別の仕事があるようだ。


「今回の件の報告をお願いします。

 通常の事件でしたら略式の報告書でもいいのですが、事が事です。

 七天教会の司祭に直接話を通した方がいいでしょう」

「七天教会の司祭、っていうと……リニアさんとハルですね?」

「そういうことだ。場所を変えよう、色々とデリケートな話だ」


 リニアさんは腰を上げ、部屋を出た。俺もそれに続く。取り敢えず一件落着、と言う感じだが……きな臭さを感じないでもない。これからいったいどうなって行くのか……


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