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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第十一章:取り戻した先にあるもの
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19-決して倒れぬ王

 これまで確認されていなかったタイプのマーブルが現れた。弓を持ったマーブルが。それは凄まじく太い弦を引き、丸太のように太い矢を放った。軌道上にいた兵士は弾けるようにして絶命し、着弾点には爆弾が爆発したような痕が出来た。


「ッ……! 新型か、後衛からの攻撃に注意しろ! 弓兵、射撃を集中!

 後ろのやつに撃たせるな、前衛は近接攻撃型をしっかり受け止めてくれ!

 苦しいだろうが、頼む!」


 大量のダーク、そして女神に組する人間たち。精神的、身体的重圧のかかる戦闘が開始された。ハルは積もった雪でできた天然の防壁に隠れながら、戦場を睥睨した。弓兵型マーブルの力が想像以上に部隊の士気を殺いでいた。


「涼夏、後衛に攻撃を集中させてくれ! 前は私たちが何とかする!」

「分かった……! やってみるよ!」


 涼夏が精神を集中させる。広域、かつ高射程の攻撃を可能とする涼夏の能力だが、その使用には多大な集中力を必要とする。もちろん、敵もそれを見逃さない。弓兵マーブルは弓を上空に向け放った。孤を描き死の雨が降り注いで来る。


「草薙、鹿立! 涼夏を守れ、あれの直撃を喰らったら人間なんぞ……」

「分かっている! こちらも、精一杯やっているところだ!」


 鹿立はその巨体を生かし、着弾寸前で太矢を防いだ。草薙も攻勢を仕掛けつつ、剣で矢を打ち払う。だが簡単にとは行かぬようだ、鹿立の顔が苦渋に歪む。


「何というパワーだ……! 連続で、防ぐことは出来ないぞ……!」

「とっとと終わらせなきゃいけない、ってことか。道を開くぞ!」


 ハルは多重魔法陣を生成し、火炎弾を収束させ放った。抱えるほどの大きさとなった火炎弾は一直線にマーブルの軍団へと迫り、軌道上にいたものを飲み込み溶かし尽くした。戦場に開いた巨大な穴目掛けて須藤と草薙が突っ込んで行く。


「待て、草薙! 須藤! 危険だ、たった2人で奥になど……!」

「いや、これでいい! 女神を殺さん限り自体が打開することはないんだ!

 それに」


 突撃していく2人の体が暗黒のエネルギーに包まれ、そして変わった。黒い道着姿、そして氷の人形。彼らの戦闘態(ウォーフォーム)が復活したのだ。


「女神を殺すためなら、陽光神は戦闘態の力さえも彼らに戻すだろうな……

 突撃する2人を援護しろ、みんな! いいか、ここが正念場――」


 ハルが仲間を鼓舞しようとした時、本陣から漆黒の火柱が上がった。


「――なっ……!? あれは、織田のッ……」


 何かが起こっている、それが分かった。

 だが、誰も動けなかった。




 馬車が黒い炎に飲み込まれた。護衛として詰めていた御者は燃やし尽くされ、この世界から消えた。ドラコは雪を払いながら、それを真っ直ぐ睨んだ。


「彼は長年私に仕えてくれた忠臣だ。こんなところで死ぬべき人ではなかった」

「いいえ、死ぬわ。あなたなんかに近付いてしまったから、みんなね」


 本陣で国王、ドラコとその妹ローズマリー。そして織田正和とが睨み合う。ドラコの胸に抱かれたファルナ、そしてレニアは不安そうにその光景を見た。


「ど、ドラコ様……ご指示を! あなたのためならば、私たちは……」

「作戦に集中しろ。こ奴らの相手は、私がする」


 ドラコは剣を抜き、敵を見据えた。

 当然、家臣たちは反対する。


「危険です! 転移者相手にあなた1人では……せめて、私たちも!」

「お前たちは未来だ。この世界の未来だ。潰えさせるわけにはいかん」


 微笑み、彼は振り返った。誰もが、そこに死相を見た。


「いま、この世界は混沌と死の渦の中にいる。過酷な時代を過ごしている。

 だが、キミたちならばそれを払いのけ、明日を紡いでいけると信じている。

 人と人とが手を取り合い、人の世界を作って行けると確信している。

 その希望を守るためならば――」


 ドラコは切っ先を織田に向ける。

 轟、と大気が逆巻いたように誰もが思った。


「世界の礎となることさえも、私は躊躇わない」


 ローズマリーはその宣言を聞き、ふっと嘲笑するように息を吐いた。


「ご立派なご意見ですわ、兄さん。でも、気合で勝てるほど――」


 ローズマリーが言葉を紡いだ瞬間、ドラコは動いた。深く踏み込み、織田の懐へ。銀の光が閃いたのを、誰もが見た。ローズマリーも、織田でさえも。織田は大きく後退し、危うくその一撃をかわす。だが表面装甲には鋭い刀傷。


「勝つのだ。私は勝つ、人間はお前たち神の力に、決して屈さぬ!」

「ぐうっ……!? マサカズ、やりなさい! その男を殺せッ!」

「承知しております、お嬢様! 例え何者であろうとも、俺は――!」


 織田は両手に黒い炎の剣を作り出し、ドラコに向けて切りかかった。ドラコは側転を打ってそれをかわし、織田の背後に回る。起き上がりと同時に剣を後ろ手に振り上げ、織田の太ももを切り上げる。切断はされないが凄まじい威力。


「ぐっ、お嬢様! お気を付けください、この男はあなたのことを!」

「分かっているわ! 近付くなッ……お前が、私にィーッ!」


 ローズマリーは素早く魔法陣を描き、火炎弾を放った。ドラコは真正面からそれを切る。炎弾は真っ二つに切り裂かれ、爆発。ドラコは踏み込む、ローズマリーの元へと。織田は黒い炎の剣を伸ばし、バーナーめいて頭部を溶断しようとした。ドラコは一旦ローズマリーへの接敵を諦めそれを避ける。


「どれだけの、どれだけの人を傷つけてその力を得たのですか! あなたは!」


 ローズマリーは悲鳴に近い声を上げながら魔法を連射する。その額には脂汗が流れ、色濃い疲労を物語っている。魔法の使用には体力を使う、それが未熟なものならば尚更だ。ローズマリーには魔法の才能はあった、だが効率的な使用法を知らない。素人のそれだ。ドラコは攻撃を避け続け、彼女の消耗を誘った。

 無論、そうはさせまいと織田が動く。ありとあらゆる身体能力も、高さも、重さも、織田が勝る。だが、ドラコは確かに織田を翻弄していた。


「なぜだ、何故当たらない!? スピードでは勝っているはずなのに!」

「なぜだと思うね、織田くん! それは間違っていると理解しているからだ!」

「そんなことはないッ! 正しさなんて……どうだっていいんだァーッ!」


 内心の動揺を見透かされないように――それが何よりも雄弁に動揺を物語っていると気付かず――織田は大振りな一撃を繰り出した。それを容易く屈んで避け、鮮烈な突きを繰り出す。喉元を抉る刃、織田は奇妙な悲鳴を上げ悶えた。

 一瞬動きを止めた織田に対して、ドラコは容赦のないラッシュを繰り出した。一秒、一瞬でも隙を与えれば死ぬのは自分だと理解している。動きを止めず、相手の動きを止めるためにドラコは関節部に重点を置いて攻撃を行った。しかし。


「やられっ……やられて、堪るかァッ!」


 織田の全身から炎が立ち上る。ドラコは一瞬早くそれを察知し、後退した。織田の体を中心として炎が半球状に広がって行き、半径10m以内にあった。すべてのものを燃やし尽くした。足下の雪が溶け、蒸気が立ち上る。


「ハァーッ、ハァーッ……終わりだ。もう、お前に勝ち目なんてない」


 ドラコは避けきれなかった。彼の左手甲から炎が上がっていた、黒い炎が。それは降っても、雪に押し付けても消えない。織田が作り出した呪いの炎だ。


「僕の炎は対象を燃やし尽くすまで消えはしない! これで終わりだ!」

「まだ終わってなどいない。この身が朽ち果てぬ限り、決して――」


 両サイドから獣型のマーブルが飛びかかって来る。レニアは悲鳴をあげる、しかしドラコは冷静に剣を振るった。獣の首が宙を舞い、爆発四散した。


「まだ死ねん。生き抜き、戦い、この世界に平和をもたらす!」

「ッ……! 死ね、ここで死ね! ドラコ=アルグラナ、あんたはッ!」


 織田とドラコが同時に動く。

 そしてそれは、最後の一撃となった。


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