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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第十一章:取り戻した先にあるもの
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19-彼がいないまま世界は一歩ずつ進んで行く

 闇が俺の体を貫いた。正確に言えばファズマで構成された疑似肉体を、だが。凄まじい衝撃に吹き飛ばされ、壁画に背中から激突。デカい蜘蛛の巣状のクレーターを作りようやく止まった。マズい、肉体的ダメージより何より精神がヤバい。

 ファンタズムが異常を検知し、変身を解除する。0と1の風の中俺は俺に戻った。壁に手を突き立ち上がり、俺は変わってしまったファルナを見た。


「これが女神の力……なるほど、あの野郎が警戒するわけだぜ……!」


 ファルナは闇色の鎧を身に着け、その両手には彼の身の丈をも超える肉厚な大剣を持っていた。兜のようなものは被っていないが、頭部をエリマキトカゲを思わせるマフラーめいた闇が覆っている。顔には葉脈のような浸食痕。


「多少強引ですが、血を覚醒させました。私にはこの力が必要なのです」


 ファルナは両手の剣を振り上げた。刀身から闇が溢れ出し、その長さを2倍にもした。あれを使って……どうする? 坑道を崩落させるつもりなのか?


「あなたを釘付けにすること。そしてここで葬ること。それが私の目的」


 ファルナは剣をなぎ払った。壁面に剣が突き刺さり、そして軌道上にあったありとあらゆるものを粉砕した。衝撃に耐え切れず、老朽化した坑道が悲鳴を上げる。


「それではさようなら、久留間武彦。あなたは仲間になってくれると思っていた」


 ……それが、その時俺が聞いた最後の言葉だった。


■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


 武彦からの報告を受けたハルは現場に急行した。残っていたのは何らかの戦闘痕跡、2人がいないところを見るとさらわれたということか。ハルは瞬時に判断した。連れて来たシャドウハンターを見張りに残し、ハルはドラコへの報告に戻った。


「久留間くんが一緒にいて捕まるとは……ただ事ではあるまいな」

「恐らく、神本体が出て来たのではないでしょうか? そうでなければ……」

「久留間くんが、並のダークや転移者に後れを取るはずはない、か」


 いずれにしろ、子供がさらわれたのは事実。それもただの子供ではない、アルグラナ王家に連なる少年だ。奪還のために部隊を編成せねばならない、が……


「いま首都攻撃を中断するわけにはいかん。この事実は秘匿とする」

「ファルナを……それに、武彦を見捨てるというのですか! ドラコ王!」

「全体の士気を低下させるわけにもいかん。ファルナも納得してのことだ」

「しかし、そのような……! 私は、納得出来ません!」


 そう啖呵を切った時、シャドウハンターからの通信が入った。一旦ドラコとの会話を中断し、通信を聞いたハルは二重の意味で驚くことになる。


 1つはファルナが無事に帰ってきたこと。

 もう1つは武彦が行方不明になったこと。




 翌日、一行は行軍を再開した。久留間武彦は結局戻らず、死んだものと判断された。個人の死を理由に軍事作戦を中断するわけにはいかない。事の詳細は転移者以外の人間には伏せられた。誰もが納得せざるを得なかった。


「久留間くんの代わりはシャドウハンター、キミが務めてくれたまえ」

「あい分かった。ファズマコートの力ならば、同等の戦果を挙げられるだろう」


 シャドウハンターは冷静だった。

 かつて敵味方分かれて争ったからだろう。


「……信じられない。あいつが、武彦が殺されるなんて。そんな……」


 ハルは武彦の代わりに、レニアとファルナの護衛として馬車に詰めていた。もちろん、同じだけの力を発揮出来るなどとは誰も思ってはいない。ただ、2人と一番長く付き合ってきたのがハルである、と言うだけの話だった。


「私も、信じられないです……帰って来るって、言ったのに……!」


 レニアは涙こそ見せなかったが、肩は小刻みに震えていた。こんな子供の不安を払拭することさえ出来ない己の無力を、ハルは悔いた。と。


「大丈夫だよ、姉さん。僕は武彦のことを見失っただけだから」


 彼女の肩を、ファルナが優しく抱いて引き寄せた。まるで子供をあやすように。事実、ファルナの顔に浮かんでいたのは慈悲深い笑みだった。


「僕は武彦のことを見失っただけだから。今頃女神を倒している頃さ」


 武彦に寄せる全幅の信頼を、ファルナは伝えた。少なくとも、ハルにはそう見えた。もしこれから起こることを知っていたとしても、ハルはそれを信じられなかっただろう。まさかファルナが敵の手に落ちているなどと誰が信じるだろうか。


「そろそろ会敵だ。三浦くん、外に出て戦闘の準備を!」


 外から須藤の声が聞こえて来た。ハルは怒鳴り、内側から了解の意志を伝えた。そしてレニアとファルナの顔を見、おのれが守るべきものを確かめた。


「絶対に外に出るなよ。大丈夫、私が絶対に守ってやるからな」

「……分かり、ました。その、気をつけてください。ハル、さん」

「ちゃんと帰って来てよね。また帰って来ない人がいるなんて、僕は嫌だ」


 ハルは微笑み、頷いた。そして扉を開き、馬車の外に出た。寒風吹き寄せ、そして生臭い血と汗の臭いが流れて来る。敵は怪物だけではない、人間もだ。


 戦いが始まった。

 久留間武彦のいない戦いが。

 結末へと至る戦いが。


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