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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第十一章:取り戻した先にあるもの
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19-彼は仲間を斬れない

(おいおい、冗談だろう? 同じ人間同士戦えって言うのか?)


 飛来する矢を掴み、矢じりを横合いから跳びかかって来るダークの眼孔に突き刺した。一瞬にして大量の矢が放たれ、不幸にも攻撃を察知出来なかった町田祈里の喉にそれは突き刺さった。鹿立が彼を掴む前に二の矢が刺さり、爆発四散。


「オイオイ、こいつはどうなってやがる! 人間だぞ、こいつら!」

「彼らは、首都守備隊の殿部隊じ(・・・・・・・・・・)ゃないか(・・・・)……!?」


 兵士たちの間に動揺が広がっている。どうやら、草薙の直感は間違っていないようだ。矢の雨で集中が途切れたタイミングを見計らい、マーブルたちが攻撃を仕掛けて来る。連携している、化け物どもと。ならばあいつは俺たちの敵だ。

 ファズマシューターを兵士たちに向け、発砲。矢の直撃を受け、男が吹っ飛んで行く。ローブの隙間からチラリと見えた顔には生気がなく、頬も痩せこけていた。栄養状態はあまり良くないらしい。だからこそ略奪に走るのだろうか? そのせいで反応速度もよくない。潰すのはそれほど難しくはないだろう……


 そう思っていたら、横合いからいきなり草薙に切りかかられた。


「ッッッ……!? いきなり何しやがる、草薙! こっちゃあ味方だぞ!」

「彼らだって仲間だ! それを、あんなに……! 俺のセリフだ!」


 仲間を攻撃されたと思い込んでいる草薙は――いや、その通りなのかもしれないが――剣を振り払い、俺を引き剥がそうとした。だが、そうされるわけにはいかない。刀身を掴み、渾身の力で耐える。そして逆の手で草薙に向かう矢を掴んだ。


「これを見ろッ、草薙! お前に向かって飛んで来た矢だぞ、これはッ!

 これが、味方がすることか! お前の仲間がしてくれることなのか!

 しっかりしろ、目を覚ませ!」

「黙れ! 彼らにだって事情がある、やりたくてやってるわけじゃない!」


 じゃあこのままにさせておくって言うのか? 冗談じゃない。そしてこのまま刀身を握っているのは滅茶苦茶辛い。鋭い刃が掌に食い込むのだ。


 草薙の腹に膝を叩き込み、くの字に折れた体を引き寄せ矢から守る。高レベル者の放つ矢は結構痛い、何度も受けるのはキツい。俺はROMを交換しようとホルスターに手を伸ばした。と、そこに矢が当たり、クレリックROMが弾かれる。

 ヤバい。ROMはこの程度のダメージで破損したりしないが、手元に戻ってくるような便利なものでもない。つまり、クレリックの防御フィールドなしでこれを凌がなければならないのだ。考えている暇はない、次の矢が飛んでくる。


「ッ……! やめろォーッ! 手前ら、誰を撃ってる分かってるか!」


 奴らに背を向け、ROMをファイターに変更。剣と盾を生成し、迫り来る矢を打ち落とす。もちろん、防御範囲は極めて狭い。すり抜けた矢が1人、また1人と人を殺す。こんな状況を草薙は黙って見ていろと言うのだろうか?


「こんなこと……黙って見ていられるはずがねえだろうが!」


 俺は草薙を振り払い、森の中へと飛び込んで行った。深い雪、ファイターでも足を取られる。ならば着地しなければいい、一番手近な位置にいた兵士の胸を蹴る。兵士を蹴り倒し、そこを足場にして更に跳ぶ。剣の峰を叩きつけ、その反動で反転。回し蹴り気味に兵士を蹴り倒し、それを足場にして、更に先へ!


「っ……! やめろ、やめろと言っているだろうが! 久留間ァーッ!」


 爆発的に膨れ上がる殺気を感じる。草薙の殺気だ。そしてそれ以上に、圧縮されたような力を感じる。草薙の肉体が道着を纏った漆黒の異形へと変わり、恐るべき速度で突進を仕掛けて来た。盾でそれを受け止めようとする。


「――戦闘態(ウォーフォーム)!? どうしてその力を……いや」


 草薙が俺に敵意を抱いた。それを殺せるだけの力をラーナ=マーヤが一時的に解禁した。そういうことだろう。草薙の膂力を押さえきれず、俺は吹っ飛ばされ、太い木の幹に激突した。草薙は白く輝く刀を構え、切りかかって来る。


「俺の仲間を殺そうとするような奴を、俺は許さない! 絶対にだ!」

「町田だって殺されたぞ! あいつも仲間だったんだろ、お前にとっちゃ!」


 ハッ、と草薙の体が震えた。激情に任せて切りかかって来たが、それでも俺の言葉を聞いてくれるくらいの冷静さは残っているようだった。その隙に俺は草薙を押し返し、腹に蹴りをくれてやった。吹き飛んで行く草薙の体が黒い光に包まれ、元の姿に戻った。衝撃波雪のクッションが吸収してくれたので怪我はない。


「……あいつらは仲間だったかもしれないさ。けどなあ」


 俺は辺りを見回した。死屍累々、と言ったところか。それほど数の多くなかったマーブルを撃退することは出来たが、決して少なくない犠牲が生じた。


「これを続けるってんなら、仲間だろうが俺は殺す」


 草薙は木の幹を掴み、ヨロヨロと立ち上がった。と、視界の端で動くものがあった。それは雪の中を這って逃げ出そうとしていた。俺が蹴り倒した男の一人だ、俺はわざとデカい音を立てながらそいつに近付き、首根っこを引っ張り上げた。


「よう、逃げんなよ。これだけのことをしたんだ、落とし前をつけろ」

「ヒッ……!? やめろ、放せ! 殺さないでくれ、おっ、俺は……」


 気迫にビビったのか、男は聞かれてもいないことを答えてくれた。


「俺は、あの女に言われたんだ! お前たちを殺せば俺た(・・・・・・・・・・)ちは生かすって(・・・・・・・)

 だ、だからこんなことをしたんだ! 俺は悪くない!」

「……仲間を売ったというのか、生き残るために! お前っ!」


 激高した草薙は男をひったくるようにして掴み上げ、樹に押し付けた。


「しょうがねえだろう!?

 俺は、俺たちは見捨てられちまったんだ……だったら!」


 殿として最後に残り、そして助けられなかった。見捨てられたと、そう思ったのは本当だったのだろう。あれだけ怒っていた草薙も言葉を無くした。


 空しい、あまりにも。

 この戦いが続く限り、こんなことも続くのだろうか?


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