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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第十一章:取り戻した先にあるもの
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19-西方首都奪還戦

 2週間の猶予期間を置いて、俺たち西方首都奪還部隊は王都から出立した。

 この2週間という時間は王都の再建に携わるとともに、必要な物資を調達するにも必要な時間だった。過去最大レベルの隊が結成されたが、それに伴い必要な物資も指数関数的に増えて行く。首都にどれだけの戦力がいるのかも分からない、転移者の力であっても数の暴力に対抗出来るか分からない。数には数を当てるしかない。


 それでも……俺はこの部隊編成、間違っているのではないかと思った。俺は戦闘付近の馬車から状況を観察しているが、騎士と兵士の連合部隊の雰囲気は最悪だ。言葉を交わす様子すらないのだから、徹底していると思う。


(あの地獄を共に潜り抜けても、絆ってのは深まらないもんなんだな)


 思えば彼らは圧倒的な脅威を前にしても互いへの憎しみを消さなかった。ならば襲撃もなく、余裕もない現状において解決するわけがないのかもしれない。

 西方首都までの道のりは、最短でとっても1週間。これだけ多くの人と物を運ぶのだから、もっと長くなる。単純に物量が増えることによる行軍速度の低下、雪道をかき分け進む無駄、先行偵察を行うことによるタイムロス……


 当初は必要十分かと思われていた食料も、進んで行くにつれて目減りが激しくなった。食材の調達にも時間が取られることになり、疲労困憊の兵の士気はみるみる落ちて行った。それでも何とかなっているのは、ドラコさんのカリスマ性ゆえだろう。彼はギリギリのところで人々の意志を復讐へと駆り立てている。


(ただ、それもいつまで保つか。どうにも出来ねえけど……)


 神を1人で相手取れるような力があれば、俺がすべてを受け持つのに。どうしようもない妄想だと分かっていても、そう考えずにはいられなかった。


「久留間、さん。気を落さないで下さい。すぐ、つきますから」


 そんな俺をレニアは優しく励ましてくれた。

 恥ずかしいが、勇気が出る。


 王都はもはや安全な場所ではない。それならば、久留間武彦や転移者、そして自分が守れる場所に彼女を置いておきたい。そうドラコさんは言った。実際のところ、献身的で心優しい彼女の存在は僅かばかりだが兵の癒しになっているようだった。そして俺自身、彼女がここにいてくれることはとても心強かった。

 彼女の穢れなき願いが、俺に力を与える。単にファンタズムに新たな力を与えると言うだけではない、実際に守るべき人がいることが大きかった。


「しかし、こうして代わり映えしない風景は飽き飽きしてきますね……」


 同じ馬車に乗っていた須藤くんがワリと大き目なため息を吐いた。不平不満を言わない男だと思っていたが、限度があるということだろうか。


「そう? 私は落ち着いていいけどな。寒くて、何もなくて……」


 なるほど、それはお前の能力とも合致しているな。そう言おうとしてやめた。何だか喧嘩になりそうだったからだ。些細な言葉からい境になる、ということは珍しくない。特にこういうピリピリした状況では。誰も彼も長い行軍に苛立っており、それを解消する口実を探している。口は禍の元、とはよく言ったものだ。


「もうしばらくの辛抱だ。

 予定より遅れているが、それでも3日より多くはかかるまい」


 御者台に比較的近い位置にいたドラコさんはそう言った。俺たちに課せられた任務は王族警護、責任重大だ。もっとも、しくじるつもりもないが。真ん中の方にいるべきではないか、と俺は進言してみた。だが『上に立つ者が先導しなければ誰も着いて来はしないよ』と笑われてしまった。現状を見るとその通りだと思う。


「西方首都アーグトゥス、いったいどういうところなのでしょうか?」

「さあな、俺も行ったことねえし……鹿立とかなら知ってんのかなぁ」


 鹿立たちは殿として部隊を守っている。転移者もだいたい同じ勢力の人間が振り分けられており、中盤にはハルと橡、シャドウハンターが。殿には鹿立、禰屋、草薙、町田がついている。成沢明菜は死んでこそいなかったが、今度こそ完全に戦闘態としての力を喪失してしまったようだ。2度のミスは許されないらしい。


「あいつらが取り戻したいって言うんだから、いいところなんじゃねえ?」

「こっちを攻めるための口実に過ぎない。なら見捨てて逃げはしないさ」


 須藤くんは吐き捨てた。1年俺よりも先にこちらに来ているが、その分西方への恨みとか、偏見だとかそう言うものが蓄積されているように思える。


「そこまでクソミソに言うこともねえんじゃねえか? だってさぁ……」


 柄にもなく擁護しようとした時、角笛の音が鳴った。かなり切羽詰まった様子で、短く切るようなメロディだ。敵襲を仲間に知らせるための曲だった。

 俺たちは頷き合い、一気に馬車の外に躍り出た。この辺りは起伏が激しく、視界が悪い。しかも針葉樹林帯でもあるため、木々から落ちて来た雪が作り出す自然の落とし穴も存在する。深い雪に足跡を付け、雪溜まりに足を取られないよう慎重に辺りを観察ながら、俺たちは行く手を見た。丘の上には斥候兵が立っていた。


 逆光に照らされた彼の体から、鮮血が迸る。孤を描いて飛ぶ血のアーチ、場違いなアートでも見ている気分だった。その影から化け物が現れる。


「1、2、3……チッ、数えてるのも気が滅入るな。こりゃ」


 しかも、敵はそれだけではない。次から次へと丘の上から滑り降り、更には木々を飛び移りながら迫って来る者もいる。挟撃しようというのか。


「させるかってえの……レッツ・プレイ。変身!」


 久方ぶりにROMを取り出し、俺はファンタズムへと変わった。


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