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18-世界を支配する者はいったい誰なのか

 光の神。闇の神。そして人の王。

 この世界を支配する三者が一堂に会した。


「人の子よ。下がれ。おまえはここにいるべきではない」

「私がどこに立ち、何を成すか。それを決められるのは私だけだ」


 ドラコさんは切っ先を神に向けた。

 神への反逆、というわけだろうか?


「不遜だな。しかし、許そう。

 無知ゆえにお前たちは何をしているか理解していないのだ。

 それは罪ではない。私はお前たちに罰を下すことはしない」

「私が何をしようとしているのか、神なら分かっているのだろう?

 私は、この世界から、お前の存在そのものを消してやる。

 それが人の世の始まりだ」


 そうだ。この世界を作ったのは神なのかもしれない。しかし、そのせいで多くの人が傷ついて来た。王国と西方。少数民族たち。そしていまなお教会は腐敗し、利益を貪っている。人の世界を守る彼にとって許し難い悪なのだ。


「――分を弁えろ。貴様如きにいったい何が出来るというのだ?」

「私1人では貴様を殺すことは叶わぬだろう。だが、私は1人ではない」


 足音がいくつもした。何人もの騎士、何人もの兵士、そして生き残った転移者。彼らの力は、もしかしたら微々たるものなのかもしれない。しかし、込められた闘志は、明日への意志は、彼らに一騎当千の力を与える。俺も構えを取る。


「後悔するぞ。お前たちはこの世界の、本当の形を知らぬのだからな」

「それでも我々は生きていく。私たちの時代をこの手で築く」


 ドラコさんは力強く言い切った。ラーナ=マーヤは嘲るように鼻を鳴らしたが、それだけだった。その輪郭が徐々に薄れて行き、この世界から消えた。

 残った女神イリアスは俺たちを見下ろした。値踏みしているのだろう、俺たちが自分の味方になるのかを。ラーナ=マーヤの敵となるのかを。


「……あなたたちは敵を同じくするようですが、味方とはなりえないようです」

「アンタは、アンタの秩序とやらを俺たちに押し付けて来ようとしてるんだろ?

 だったら、ラーナ=マーヤとベクトルが違うだけだ。アンタは俺たちの敵だ」


 悲し気に目を伏せ、イリアスは踵を返した。闇の中へと消えていく。


「ですがせめて、私の子供たちだけは……その手で守りなさい」


 それだけ言って消えて行った。後に残るのは静寂だけだ。




 そして、戦後の処理が始まった。ダークとマーブルによって都市部は蹂躙され、散々な状況だ。溢れかえる死体、破壊された都市機能とインフラ。破壊された建造物の瓦礫を撤去するだけで数カ月はかかるだろう。もはや王都は、この世界で一番安全な場所ではなくなってしまったのだ。俺はそれをその目で確認した。

 死んだのは騎士や兵士だけではない、転移者も死んだ。亡骸を確認出来たのは滝本明日香だけ、姿をくらましたのは多良木と古屋、それから島田の3人。遺留品を発見することは出来たのと、彼らが姿を消したのとほぼ同時刻に八木沢がここに現れたことから、死んだものと判断された。俺がここから離れなければ……


「ファルナ! どこに、行ってたんですか……!? 心配、しました……!」

「うん、ごめんね姉さん。心配かけちゃって……僕は、大丈夫だからさ」


 レニアとファルナの姉弟は泣きじゃくり、抱き合い、互いの無事を喜んだ。結局、ファルナは右足首を骨折していた。固定しているのですぐに治るだろうが、杖は手放せなくなるそうだ。八木沢と対峙して生きていただけ奇跡だ。


「大丈夫、武彦が守ってくれたから。だから、ね?」

「……うん。久留間さん、も。ありがとう。生きてて、嬉しい……」


 そう言って、レニアはまた泣き始めた。多良木が死んだことは言わない方が良さそうだ。俺はファルナに目配せして、そう伝えた。聡明な少年は俺が言わんとしているところを理解してくれた。知るのはもっと後でもいいだろう。


「お、そこにいるのは……久留間くんか。無事だったんだね?」

「先生。あなたも無事でいてよかったです。どこにいたんですか?」

「厨房の方に助けられたんだ。それで、地下の貯蔵庫に隠れていた。

 いつ破られてもおかしくなかったって、あの人たちは言っていたよ。

 本当に運がよかったんだろうね、僕は。いつものことながら……

 あれ、そう言えば多良木くんは……」


 この人が生徒の安否を気遣うのは当たり前だ。だがそれは俺たちが必死で隠し通したそれを白日の下に晒すことになる。俺は先生の首に手を回して無理矢理言葉を止め、部屋の外まで誘導した。レニアの相手はファルナがしてくれる。


「ッハァーッ……先生、多良木は死にました。殺されたんです、八木沢に」

「八木沢くんに?! 彼は心優しい少年だった、人を殺せるような人間じゃ」


 結構大きな声を出したので、中に聞こえていないか心配になって来た。


「こっちの世界に来てあいつも変わったんです……本性が出たというべきか。

 とにかく、2人は多良木のことを慕っていた。知らせたくないんです、いまは」

「そう言うことだったか……無神経なことをしてしまったね、すまない。

 分かったよ、あの子たちの前では多良木くんの話はしないようにしよう。

 ショックだろうからね」


 有り難いことに、先生は俺の意図をすぐに理解してくれた。


「……しかし、いつまでも隠し通せるようなことでもないと思うよ、僕は」


 しかし、最後に釘を刺してくることを忘れない。俺もいつまでも隠せるとは思っていない。だが、あの子たちはあまりにも悲しい思いをし過ぎたのだ。


「……機会が来たら言います。2人が受け入れられるようになった時に」

「……そうか。それなら、キミが一番近くにいてあげないといけないな」


 先生は俺の肩をポンと叩き、『何か手伝えることがないか聞いて来る』と言って去って行った。話が一気に終わって、代わりに孤独が押し寄せて来る。この暗い風景を見ていたら心まで腐って行きそうだ。そう思ったが目が離せなかった。


「信じられないことだよな。この街が、一夜にしてなくなってしまうなんて」


 入れ替わりに疲労した声が聞こえた。ハルだ。


「教皇セプタが吐いた。この街にダークを呼び止せたのは自分だ、と」

「陽光神を信仰しているんだもんな。そして俺たちは女神の子を匿っている。

 それじゃあ、相手方に内通していると見做されても不思議じゃあない、か。

 それにしても……」

「街1つ潰す、とはな。彼らにとってみれば、人よりも神ってことか」


 それが宗教を、本当の意味で信じるということなのだろう。


「疲れているところ悪いが、そろそろ通達が来ると思う。次の作戦の通達がな」

「疲れちゃいないさ。むしろ闘志が湧いている。あいつらへの怒りがな」


 人間の世界を、人間の時代を作るためには神に反抗しなければならない。そう思うドラコさんが間違っていないのだと、相対したいまならば分かる。


「次のターゲットは西方首都、アーグトゥス。女神の本拠地だ」


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