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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第二章:世のため人のために力を使う? んなワケないじゃーん!
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02-不死身の転移者軍団

 中西さんの背から半透明のオーラが浮かび上がる。それは田村に伸びて行き、彼の体を包み込んだ。骨が見る間に再生していき、彼は血を吐きながら立ち上がる。


「それが中西さん、キミの加護ってことか。人の傷を癒すことが出来るのか?」

「ええ、そういうこと。私の兵隊を無限に動かすことが出来る力なのよ?」


 中西さんは普段のそれとはまったく違う、酷薄な笑みを浮かべた。起き上がった田村は獰猛な叫びをあげ、血走った目で俺たちを見た。農機具が次々と浮かび上がる、だがそれだけではない。樹木がメキメキと音を立てながら空中に持ち上がって行くのだ。サイコキネシスの力によって引き抜かれた樹木が俺たちを襲った。


 跳んでかわすか? それではシャドウハンターが、村人が危ない。だが、ニンジャ腕力ではこいつをどうにかすることは出来ないだろう。多彩な能力の代償として速力を除けば最低クラスの身体能力しか持たない。考えている間にシャドウハンターが動く。

 彼は掌を樹に向けた。掌がぱっくりと割れ、そこから砲身が顔を出す。シャドウハンターはディメンジアの優れた科学技術によって作り出されたサイボーグであり、多種多様なガジェットを内蔵しているのだ。彼は内蔵キャノンを放った。砲弾が樹上で炸裂、木は真っ二つに割れ、村人たちを避けて飛んで行った。だがその影から多数の刃が迫る。


 俺はそれを真正面から突破。飛んでくる武器は手掌で逸らし、田村に近付いて行く。田村は信じられないほどのスピードで拳を振り上げる。恐らく己の体にサイコキネシスを働かせているのだろう、だが無駄だ。直線的な拳を逸らし、正中線に打撃を打ち込む。顔面と内臓を破壊され田村は吹っ飛んで行く……しかしすぐにそれが再生する。


「無駄よ、久留間くん。私の力、『戦乙女の導き(ヴァルキリーソング)』は無限の再生能力を与える。

 それに、回復したものに飽くなく闘争本能を与えることが出来る」


 放出されたアドレナリンが痛みを塗り潰し、サイコキネシスが田村を動かす。大量出血によって足元には血溜まりが出来ている、それでも田村は止まらない。


「それにね、私は繋がり(パス)さえあれば遠隔地でも癒せるのよ?」

「……ってことはまさか、オイ」


 後方の斜面を見る。月明りに照らされ、青銅の巨人が立っていた。彼は自由落下に任せ、滑り降りるようにして斜面を下る。一瞬の隙を見出した田村がすべての武器を俺に向けて来た。後方ベリーロール回転で攻撃を掻い潜りつつ、手裏剣を投げた。3発の手裏剣はタロスの胴体に当たり、揺らがせるが破壊には至らない。残りの3発は田村の顔面、腹部、左腕に当たり、醜い火傷の跡を作る。だがすぐに再生した。


「ウオォーッ! 殺す、殺す、殺してやるーッ!」


 喚起された闘争本能と殺意とが合わさり、おかしなことになっているようだ。タロスは踏み切り、跳んだ。鈍重な外見からは想像も出来ないほどのスピードと飛距離、あのままでは群衆の真ん中に落下し、惨事を招くだろう。だがニンジャでは止められない。いまからではROMを交換している暇もない。万事休すか――


「っせえんだよ、手前はよォーッ!」

「グワァァァァーッ!?」


 その時、洞窟から弾丸のような勢いで黒い物体が飛び出して来た。タロスを横合いから蹴り付ける、僅かにタロスは体勢を崩し落下した。住民たちから悲鳴が上がり、血飛沫が上がる。最悪の事態は免れたが、これは。


「お前らは! こんなことがお前たちの望みなのかよ!」


 6枚の手裏剣を生成しタロスに向けて投げる。よろけながら立ち上がったタロスの背中で6つの爆光が閃いた。つんのめった腹に、飛び出して来た黒い影は蹴りを入れる。更にシャドウハンターが切りかかり、左腕に備え付けられた爆発衝撃(インパクト)ナックルで殴りつける。タロスは吹っ飛んで行くが、しかし死なない。


「ハァーッ……決まってんだろうが。胸のすく思いだぜ、クズが死ぬのは!」

「クズはどっちだ、カス野郎。虫唾が走るんだよ、手前らはァーッ……」


 飛び出して来たのは多良木だった。全身に包帯を巻き、ところどころから血が滲んだ痛々しい姿。満身創痍だが、その目はまだ死んでいなかった。


「っはっはっは! 知ってるぜ、それは!

 死んだ方がクズだってなァーッ!」


 タロスが踏み出す。うーん、この段に至っては仕方がないか。

 跳び込んで来るタロスの進路上に割り込み、蹴りを放つ。肉体そのものが金属質の物体に変化しているわけではない、鎧を纏っているだけだ。繋ぎ目はある、俺はそこを狙った。

 鎧の繋ぎ目、すなわち喉元を蹴り上げた。更に爪先から手裏剣を生成、インパクトと同時に放つ。隙間から侵入した刃が、タロスの首を刎ねた。


「……え?」


 誰かの声が聞こえて来た。あまりにそれは間抜けたものだった。青銅の兜を被った頭部はクルクルと回転しながら飛び、そのシルエットが月と重なった。タロスの全身から黒い炎がせり出し、全身をそれが包み込んだかと思うと、タロスの体は爆発した。


「殺……したの? えっ、久留間、くん……?」


 どうやら状況を飲み込めていないらしい。

 これだけはっきりやったのに。


「無限再生するなら首を落せばどうなるのかな、と思ってさ。

 どうやらキミの回復能力も死と言うものには敵わないらしい。

 おかげさまで対策が見つかったよ」

「違う、そうじゃなくて……! どうして、どうして友達を殺したのよ!?」

「友達だけど、殺さなきゃ止まらないなら殺すしかないだろう」


 何を当たり前のことを言っているのか。村人を守るためにはこいつらを止めなきゃいけない、だが生半可なことでは止まってくれない。なら加減なんかしてはいられない。


「ッ……! 田村、守れ! 私を守れ、私が逃げるまでの時間を稼げ!」


 血走った眼をした田村は頷き、サイコキネシスを全開にして周囲の木々を倒した。逃げようとする中西を追い掛けようとした俺たちは道を塞がれてしまった。更に、田村はもう一本伸ばしておいたサイコキネシスの『腕』を使い、老人を捕まえた。

 気付いた多良木が老人を助けようとしたが、飛んでくるピッチフォークに阻まれた。田村はまんまと人質を取り、その首に浮遊する鎌を当てた。悲鳴が聞こえる。


「ハァーッ! ハァーッ! 動くなよ、動けば爺さんの首が飛ぶぞ!」

「バカな真似はやめろよ、田村くん。正直なところキミは詰んでいるんだぞ?」

「うるせぇーっ! 黙ってろ、近付くんじゃねえ……! 俺に近付くな!」


 ため息を吐く。多良木のスピードでも一瞬で距離を詰め、老人を助けることは出来ないだろう。中西さんの加護は残っている、生半可なダメージはすぐに回復されてしまう。となると、あまりやりたくはないがやはりやるしかないだろう。


 ほとんどノーモーションで腕を薙ぎ、手裏剣を投げる。手裏剣はクルクルと回転し、スライダー軌道を描いて飛んだ。すなわち、人質の老人を避け、田村の首にめり込んだのだ。狙い通り、手裏剣は田村の頸椎を切断した。傷は再生を始めるが、やはり一瞬のタイムラグがある。俺はその隙に走り、老人の体を掴んで放り投げた。

 そして、カランと音を立てて地面に落ちた鎌が持ち上がるよりも先に腕を薙いだ。塞がりかけた首の傷を抉るように水平チョップを繰り出し、首を刎ねる。田村の体も黒い炎に包まれ、そして爆発した。息を吐き、辺りを見回すが中西さんはいないようだ。


「……まあ、いいか。ケリはあいつがつけてくれるだろう……」


 もう一人、いない人物がいた。

 シャドウハンターだ。


■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


 中西桜花は暗い森の中を明かりもなく駆けた。

 己が人生を呪いながら。


 シアワセになれるはずだった。人に好かれて、それなりの成績を確保して、人生を楽しめば未来は明るいと信じていた。未来計画は異世界転移と共に砕けた。

 最悪だった。臭い空気、陰気な住民、キツい農作業。森の中には気持ちの悪い生物がいくらも存在し、動物たちは四六時中やかましく鳴いている。テレビも娯楽も、化粧品や新しい服さえもない生活。そんなものには耐えられなかった。


 だからこの力があると知った時は、少し嬉しかった。他人よりも優れた力を持っていれば、他人を操り、生きていくことだってそんなに難しくはないから。

 あの殺人鬼が来たとしても、それは変わらない。一先ずは彼ら(・・)と合流することだ。失った戦力はそこで取り戻せばいい。まだシアワセな人生プランは――


「最悪、最悪、最悪ッ!

 なんで、どうして私がこんな目に遭わなきゃ……!?」

「因果応報。ただそれだけのことだ、小娘」


 不意に体がつんのめった。走っているのに走れない。上下逆転する視点で、彼女は見た。自らの足が宙を舞っているのを。そして銀の光が胸を貫く瞬間を。己が身の内から穢れた黒い炎が溢れ出る。熱くはない、むしろ寒い。彼女は恐怖したが、それを止めることは出来なかった。中西桜花は爆発四散し、夜に消えた。


 シャドウハンターは剣を収め、月を見た。そして先程口を突いた言葉の意味を考えた。この世界に来て、仲間とはぐれ、そして人々の温かさに触れた。少しばかりセンチメンタルな気分になっているのだと気付き、自嘲気味に笑った。


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