18-対決、陽光神
漆黒の雲は切れ間なく空を覆っている。降って来た流星は落ちる前に分化し、巨大な人面鳥型のダークへと変わった。地面に激突した流星は炸裂し、破壊を撒き散らしながら大量のダークを生成する。このまま好き勝手やらせるか。
「人通りの多いところを重点的にやる! 行くぞ、久留間ァッ!」
「分かってる! レッツ・プレイ……変身」
走りながらROMをセットし変身、ファンタズムへと変わる。鋭敏化された感覚がそこらじゅうで聞こえる悲鳴を捉えた。このままではマズい。シーフROMに交換し、ファズマシューターを取り出す。そして踏み切り、跳んだ。
スローモーションと化す視界。滞空時間は数秒、すべてを撃ち抜くことは出来ないが出来る限りのことはやる。切り揉み回転しながらトリガーを引き、ダークを撃つ。頭部を撃ち抜かれ爆散するもの、腕を撃ち抜かれ悲鳴を上げるもの、痛みをこらえて人を殺すことに専念するもの。多種多様なダメージへの対応。
次の一撃を放とうとした瞬間、俺の視界が真っ白に染まった。
「グエーッ!?」
そして衝撃。何らかの高質量物体が俺に激突したのだ。高熱を放ちながら突き進んで来るロケット弾、とでも言うべきか。俺は吹っ飛ばされ、中央の大通りをゴロゴロと転がった。立ち上がり周囲のダークを牽制しつつ、俺は襲撃者を見た。
「久しぶり、とでも言うべきだろうか? 久留間、武彦」
「ラーナ=マーヤ……お前が直接出て来るとはな。終わりにする気か?」
ラーナ=マーヤはふっと微笑み、返事をしない。いけ好かない態度だ。これも圧倒的な力を持つが故の傲慢さか。気に入らない、俺と同じだけに。
「久留間! 無事か、さっきのは……」
建物を飛び越え多良木が叫ぶ。そして、ラーナ=マーヤを目の当たりにして言葉を失った。彼も気付いているのだろう、陽光神の持つ圧倒的な力に。
「多良木、街は頼んだ。こいつをどうにかせにゃならんのだ」
神を押さえられるのは、恐らく現状では俺だけだろう。それに鹿立たちも、恐らく戦闘態の力を奪われている。彼らを助けて貰わなければならない。
「……死ぬんじゃねえぞ、久留間」
多良木はほとんど考えずに跳んだ。
正直ちょっとは逡巡してほしい。
「ノータイムで見捨てたな。どうやら、お前は人に信頼されていないらしい」
「俺が負けねえって信じてるから、速攻で動くことが出来るのさ」
図星を突かれたことに動揺しつつ、俺は虚勢を貫いた。周囲のダークはお預けをくらった犬のように獰猛な表情をしながら、その時を待っていた。
「私もお前を押さえなければならない。お前に勝てるのは私だけだ」
「傲慢だな、カミサマ。教えてやるよ、俺はお前にも倒せねえってな」
ラーナ=マーヤは視線を落した。そして射抜くように鋭い目で俺のことを見た。同時にダークたちが動き出す。俺はROMをファイターに変更、再変身。ラーナ=マーヤを見据え、迫り来るダークに対して身構えた。
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多良木は迫り来るダークを殴り倒しながら道を突き進んだ。悲鳴と血飛沫、死と狂気。それは多良木にとってあまり馴染みのない光景だった。
これまで、彼はレニアとファルナの護衛に入ることが多かった。それはレオールたちの配慮である。彼の戦闘能力が低い、ということではない。もし死に立ち会った時、彼の受ける精神的なダメージが大きすぎると判断したからだ。
情深い男。それは他者の死に感応し過ぎてしまうということでもある。義に篤い男。それはなりふり構わず仲間を助けるために動いてしまうということでもある。戦場で戦うには、多良木鋼という男は優し過ぎたのだ。
(っそ……! まずは『天翅の塔』だ。あいつらと合流しねえことには……)
壮絶なる状況の中で、多良木は努めて正気を保とうとした。ともかく、仲間と合流すべし。そうすればこの事態を解決することが出来るだろうと考えた。そんなことを考えていると、『天翅の塔』にほど近い広場から巨大な氷柱が立ち昇った。
「あれは……須藤の攻撃か。あそこにいるな……!」
自らの体に秘められた加護の力を、多良木は解放した。彼は一足飛びに建造物を飛び越え、『天翅の塔』へと一直線に向かった。眼下に広がる広場には多くの人が、そして仲間がいた。どうやらダークの掃討は先ほどの攻撃で終わったようだった。
「お前ら! 無事か!」
「多良木! ああ、こっちは大丈夫だ。それよりも、そっちは……」
多良木は最低限の説明をしようとした。
取り敢えずは無事だと。その時。
王城アルグラナ。
国旗を掲揚した尖塔が黒い球体によって飲み込まれた。
「――なっ! あ、あれは……まさか、あの野郎の力か!?」
「旗を落してくれるとは、舐めたものだ。宣戦布告のつもりか……!」
ドラコは歯を噛み締め、低く言った。
だが、多良木は迫る危機に気付いた。
「あそこが攻撃されたってことは……レニア様とファルナ様があぶねえのか!」
「可能性は高いな。キミがこちらにいるということは、久留間くんは……」
どちらもいない。シャドウハンターと橡はどこにいる? 少なくともここにはいないし、どこにいるか確認してもいない。その状態であの男を、八木沢六郎を倒すことは出来ない。駆け出そうとする多良木の肩を、冷たい手が掴んだ。
「放せや、須藤! こんなところで手間取ってるわけにはいかねえんだ!」
「分かっている! だが、いまの精神状態で行かせるわけにはいかない!」
多良木ははっとした。知らず、自分が狼狽していることに気付いたのだ。
「八木沢くんに会ったことはないが、恐ろしい力を持っているそうだね?」
「……そうだな。いまのあいつの力、例え我々が束になっても敵うか……」
「あの引きこもりに、そんな力があるなんて。意外ね」
涼夏は力を展開し、周囲に展開したダークを引き裂きながら言った。神によって直接与えられた力、それを実感として理解しているのはハルだけだった。
「……ともかく、王城に戻ろうではないか。ここにいても埒が明かないぞ」
「いずれにしろ、城には戻らねえといけねえ。あいつの好きにはさせねえ。
なら、俺たちがやるべきことは1つだけだ……八木沢の野郎を潰す!
そうだろう、お前らッ」
取り敢えず、八木沢の言葉に反論するものはいなかった。彼らは近付いて来るダークを掃討しながら目指すべき場所へと、王城へと向かって行った。
(……無事でいてくれ、レニア様。ファルナ様。命を賭けても、俺は……!)
苦い痛みが蘇る。
今度こそ助ける、その思いを多良木はもう一度確認した。
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