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18-急転直下、王都急襲

「陽光神……! まさか、こちらの世界に直接出て来るなんて……!?」


 ハルは驚くが、しかし内心では有り得ないことではないと考えていた。エラルドにも宵闇が現れ、一度は武彦の前にも表れたと聞いていた。ならば、彼らがこちらの世界に来ない理由はない。むしろ何故現れないのか不思議に思っていたくらいだ。

 彼らが陽光神に気を取られている隙に、セプタは動いた。部屋の片隅に備え付けられたエレベーターへと走り出したのだ。扉の装甲性能は高く、いまの技術では再現することすらも出来ない代物だ。転移者の攻撃にさえ耐えられる。


「ッ……! 貴様、どこに行く! 待てッ!」


 鹿立が反応するが、遠い。

 セプタはニッと笑い、エレベーターに滑り込んだ。


 が、その寸前で黒い影が天井から落ちて来た。懐に潜り込んだ影はショルダータックルを仕掛け、セプタを弾き飛ばす。それほど筋肉質な体格ではない彼は、小柄な影に吹き飛ばされ地面に転がった。鹿立が倒れた教皇にのしかかる。


「ご苦労、苫屋くん。やはりキミに待機していてもらったのは正解だな」


 立ち上がり、苫屋はドラコに頭を深々と下げた。苫屋は皆と一緒にこの部屋に入ったが、隙を突き天井に張り付いたのだ。人数が多く、またドラコに意識が集中している状態で、隠密型の転移者を察知することなど常人には出来ない。


「貴様がッ……! 貴様が、みんなを!」

「よせ、殺すな! その男にはまだ喋ってもらわねばならんことがある」


 苫屋は三角跳びの要領で鹿立を飛び越え、セプタの顔面に一撃をくれて気絶させた。気絶したセプタの口からは舌がだらりと伸びている。


「すみません、自殺されそうだったものですから」

「いい判断だ。城に戻る……とはいえ、この状況は……」


 ドラコは眼下に広がる王都を見下ろし、呟いた。空から降って来た黒い彗星は死と破壊を運んで来た。視界の端、居住区で黒い柱が立ち上るのを彼は見た。


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆


 健康的な朝を迎えた俺は、レニアとファルナ、それから多良木と一緒に朝食をとることになった。素晴らしい食事、香しい紅茶、楽しく過ぎていく時間。久方ぶりの平穏に浸っていると、黒い彗星が城の中庭に落ちて来るのを見た。

 咄嗟に2人を庇う。彗星落下の衝撃で窓が割れ、ガラスがこちらに向かって飛んでくる。悲鳴を上げる2人を守り、コートでガラスを逸らす。多良木の方は俺が2人を守っているのを見て、物陰に滑り込み危機を避けた。何が起きている?


 考えている暇もなく、割れた窓から化け物が飛び込んで来た。体長は1mそこそこ、人間大だ。だが獣のような厚い外皮と体毛に覆われており、指先からは鋭い爪が伸びている。獣人とでも言うべきだろうか、化け物が襲い掛かってくる。


「しゃらくせえんだよ、化け物どもがよォーッ!」


 機器を脱した多良木は横合いから獣人の側頭部を蹴りつけた。化け物は水平に吹き飛んで行き、壁に激突。呻き声を上げながらも立ち上がる、かなりの耐久力だ。もう1体の獣人は多良木の姿を認め、ターゲットを移行させた。


「多良木ィッ! こいつら強ェぞ、気をつけろォッ!」

「んなことは分かってる! ガキどもを守れ、こいつらは俺がッ……!」


 最後まで言い切ることは出来なかった。鋭く振り払われた爪を多良木は危うく屈んでかわし、数歩後退。いままでのダークとは格の違う力を前にして警戒心をあらわにした。吹き飛ばされたダークの方も立ち上がり、再び飛びかかって来る。

 俺は多良木に向かって飛びかかって来る化け物の頭部にハンマーパンチを振り下ろした。骨をへし折る派手な音が聞こえ、化け物が床に叩きつけられる。頸部に足を振り下ろし、へし折る。化け物は一瞬ビクリと震え、そして爆発四散。


「どうやら首を折れば死ぬらしいな。

 化け物だろうがそれは変わらん、か」


 多良木の方は素手で上手く化け物の連撃を捌いた。爪の更に内側、手首の辺りを横合いから叩き攻撃を逸らす。高い身体能力と反射神経があってこそ成せる技だ。攻撃を繰り返すごとに化け物の手首には負荷が掛かり、そしてそれがある一点で収束し、崩壊する。骨の折れる音が聞こえ、化け物が醜悪な叫び声を上げた。

 その隙を多良木は見逃さない。目にも止まらぬ三連撃で顔面と両肩を打ち動きを止める。化け物は苦し紛れに折れていない方の腕を振るうが、当たらない。多良木は既に身を屈め、攻撃の範囲から逃れていた。腰の捻りを加えて右を脇腹に、自らの回転と反動を左に乗せもう一撃。運動エネルギーが生み出す無限の螺旋を描きながら何度も、何度も多良木は拳を叩き込んだ。デンプシー・ロール。

 ボロボロになった化け物に対し、多良木は踏み込みを乗せたストレートを叩き込んだ。胸筋が潰れ、胸骨がへし折れ、胴体が弾ける。吹き飛びながら化け物は爆発四散した。多良木は拳を振るい振り返った。


「どうなっていやがる、これは? なんで王都に化け物が出て来る」

「何で出て来るのかは分からねえが、どこから出て来たのかは分かるな。

 あの黒い彗星だよ、陽光神とやらが化け物をこっちに送り込んで来たんだ。

 ったく、胸糞悪ィ……!」


 あの化け物はダークの中でも強い力を持った、いわば切り札とでも言うべき存在だったのだろう。それを民間人の多い王都に、躊躇いもなく投入して来た。並みの兵士ではあれに対抗することは出来ないだろう。犠牲者が増える……!


「久留間、さん! 多良木さん! 行って、行ってください!」


 レニアの叫びが、俺を正気に戻した。そして反論しようとする。


「バカ言うな、そんな危険なこと出来るわけがねえだろ! だいたい……」


 しかし、すぐにそれを引っ込めた。あまりにも真剣な表情だったから。


「私たちが生き残っても、他の人が死んでしまったら……意味ないです!」

「僕たちは大丈夫! 城にいるんだ、他の人たちは安全なはず……だから!」


 こりゃ言っても聞かないな。そして一分の理はあるように思える。


「……仕方ねえ、速攻で片付けて帰るぞ、多良木!」

「言われるまでもねえ、あんなの放っておけるかってんだ!」


 俺と多良木は窓から飛び出し、黒い彗星の降った街へと急いだ。


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