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18-対立の原因は案外根深い場所にある

 一先ず、先生をドラコさんや他の転移者に会わせるために騎士宿舎に戻った。修練場は相変わらず殺気立っているが、取り敢えず王国組と連合組に分けることして解決したようだ。仲良く出来ないならしなければいい、か。なんだかなぁ。


「どうやら、2つの対立するグループが一緒にいるみたいだねぇ」

「ああ、分かりますかやっぱり? ついさっきまで戦ってたし……」

「こういうのの解決は時間がかかる。悲しいことだけどね」


 先生は本当に悲しそうな顔をしていった。優しい先生らしい。俺たちはこっそり裏口から宿舎に入り、ハルの待つ2階の待合室まで向かった。


「おお、武彦。大変だったんだぞこれ……って、そちらの方はまさか……」

「驚いただろ? まさかこのタイミングで先生が出て来るなんてなぁ」


 先生はニコリと微笑み、ハルに軽く頭を下げた。ハルの方は不愛想に少し頷いただけだ、まったく向こうの世界で引きこもっていたから負い目でも感じているのだろうか? このコミュ障ちゃんめが。


「三浦さんとまた会えてよかった。心配していたんです、これでも」

「分かっています。先生もいろいろやってくれたこと、知っていますから」


 あまり感謝しているような口調や態度ではなかった。俺は隣にいた先生に頭を下げるが、先生の方はどうってことありませんよ、とでも言うように笑った。さすが、人の出来方が違っている。おっと、こんなことしちゃいられない。


「みんなに紹介したいから、呼んで来ようぜ。あと転移者連中にも……」

「そうだな。先生が生きていることを知ったら、喜ぶ連中もいるだろう」


 先生を部屋に待たせ、俺たちは仲間を集めるのに奔走した。ドラコさんやオルクスさんたちは時間を確保出来なかったが、転移者たちは比較的容易に集めることが出来た。俺にハル、それに須藤兄弟に草薙、鹿立と禰屋。島田と町田、滝本はちょっと見つからなかった。多良木も2人の護衛のために今回は残ってもらうことにした。室内に転移者が集まり、ちょっとした同窓会のようになった。


「まさか……生きておられるとは驚きですよ。先生」


 須藤くんが口火を切り、俺たちはこれまであったことを口々に先生に話し始めた。いままで知らなかったことも多くあったので、実に興味深い。


 須藤兄妹は一緒の場所に転移した。向こうの世界でも近しい間柄であったから、というのもあるのだろう。沢を降りたところにあった村が偶然ダークに襲われ、彼らは加護の力でそれを撃退した。それが地方領主の目に留まり、彼らは貴族に召し抱えられることとなった。それからの成り行きは、俺たちとほぼ同じだ。


「あの時拾ってくれなければ、僕たちはきっとのたれ死んでいた。

 もしかしたら理性のタガをなくして他の人に倒されていたかもしれない。

 幸運だったんだ、僕たちは」


 須藤くんの言葉に涼夏が頷く。いつも一緒にいて仲がいい兄妹だな、と思っていたが、もしかしたら涼夏の方は須藤くんに強く依存しているのかもしれない。だからこそ、俺たちとまともにコミュニケーションを取ろうという態度が見えないのだろう。


「そういや、西方組も同じような感じなのか?」

「……大まかなところはな。俺たちを拾ったのが西方か、王国かの違いだ」

「その些細な違いが後々まで運命を分けることになった、か。分からないね」


 須藤くんの言葉はあくまで軽いものだったが、鹿立は彼のことをジロリと睨んだ。まるで予期していなかったのか、須藤くんは怯んだ。


「些細な違い、か。俺にとってみればお前たちが何を考えているか分からん。

 いや、何も考えていないからこそ王国などについているのかもしれんな」


 鹿立の言葉は露骨な侮蔑に満ちたものだった。らしくない、とも思うし完全に喧嘩を撃っている口調だ。言われた須藤くんも面白くないのだろう。


「……何が言いたいのかな、須藤くん? 言いたいことははっきり言うといい」


 真正面から鹿立を睨み付け、須藤くんは言った。線の細い美少年、と言った感じの人だったが、数年に及ぶこちらでの生活が彼を強くしたのだろう。圧倒的にウェイトで勝る鹿立に対して果敢に立ち向かっていく。


「僕は王国の人々を尊敬してるし、彼らのしていることに間違いはないと思う。

 キミたちの方こそ、理解し難い理由で戦乱を撒き散らしているようだよ」

「……理解出来ない理由か。理解するだけの頭がないだけではないのか?」


 ヒートアップしていく。

 2人の闘志がだんだん高まっているようだ。


「待て、待てよ鹿立。それに須藤くん、落ち着け。熱くなるなよ、いいな?」

「そうだ。さっきから聞いていれば互いに核心や中心に至っていないようだ。

 不完全な言葉の応酬で喧嘩をするなんて、バカバカしいことだと思わんか」


 ハルも手伝ってくれて、取り敢えず2人はいったん下がってくれた。


「興味があるな、私も。どうしてあなたが私たちの敵になったか、ね」


 凍えるほど冷たい声を涼夏が吐いた。何なんだ、さっきから。外の熱気に当てられているのか? どいつもこいつも、好戦的に過ぎるんじゃないか?


「……話せば王国がどれほど愚かか、お前たちも理解出来るだろう」


 鹿立は長いため息を吐いた。話すべき内容を吟味しているようだ。


「あれは俺たちがこちらの世界に来た時のこと……4年前の話だ」


 4年前……こちらの世界への転移者の流入、大跳躍(オーバーライド)が起こった年だ。こいつらも、あの時こちらの世界に来ていたのか。

 鹿立は滔々と語り始めた。自分たちが西方に手を貸すことになった理由を。


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