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18-最期の転移者

 第二次西方内乱、終結。3か月余り続いた戦いの終結に、人々は湧いた。それと同じくらい、西方出身者への処罰がないことに落胆したように見える。それは対ダーク共同戦線というお題目が立ったいまも変わっていないように思えた。家族を、恋人を、大切な人を奪われた人も多い。処罰を彼らは望んでいるのだろう。

 俺たち転移者は一旦王都へと戻された。それは騎士たちも同じだ、最前線となった村に多少の防衛戦力を残し、多くが後方へと下げられた。恐らくは戦力を再編するためだろう。とは思うのだが、これはなんだかなぁ……


「なぜ貴様らのような蛮人と手を組まねばならんのだ! ふざけるなッ!」

「こっちのセリフだ! 手前らみたいななまっちろい連中の助けはいらん!」


 最悪だよ、空気。王城に設置された騎士の詰め所、その前に広がった調練広場に王国騎士と連合兵士たちが集っている。指揮官クラスは渋々ながら納得している感はあるが、前線叩き上げの人々は互いの感情をぶつけ合っている。


「……まあ、こうなるわな。簡単には行かねえと思ってたけどさ」

「数十年、殺し合っていたんだ。憎しみはその倍は蓄積しているだろう。

 一朝一夕で和解しろ、なんて方が無理ってものだろうな」


 俺とハルは一段上の位置からそれを見下ろし、ため息を吐いた。こんな状況では西方を奪還するどころか王都から生きて出られるかすら怪しいだろう。

 何かあった時のために、俺たちはここに待機している。しかし……


「何かあったら、止まんのかなぁ。これ絶対止まらんないと思うんだけど」

「どうするんだ? 殺してでも止める、とかか?」


 どうすれば止まるのかは分からない。だが殺しなんて絶対にダメだ。そうなったらこの戦争のすべてが無駄になってしまう。世界は遠からず神に制圧されてしまうだろう。人間が一致団結すること、それだけが唯一の手立てなのだ。


「……ん? なんだぁ、あいつ……」


 2階の窓から修練場を見下ろしているのだが、奥の方には厚い壁がある。その壁に背を預ける人物が1人いた。目深にローブを被り、全身を隠している。飾り気はまったくなく、まるで自分の素性を完全に隠そうとしているかのようだ。


「……あいついったい何なんだ? 怪しすぎるぞ、オイ」

「? どうしたんだ、武彦。何かおかしなものでも?」

「え、いやいや。あからさまにあれおかしいって。だって……」


 と言って視線を戻すと、先ほど見た場所にはあのローブ男はいなくなっていた。どこに行ったのか、と見てみると裏口から出て行こうとするのが見えた。


「……ハル、ちょっと悪い。ここのこと、頼んでいいかな?」

「は!? ちょっと待て武彦、いったいどうして……」


 問いかけるハルを無視して、俺は走り出した。お上品に階段を使っていたのでは間に合わない、屋内を掛け、窓のある部屋を探し、そこから飛び出す。俺がいまいるのは2階だ、だから僅かに下にある壁の上に降りるのは苦もないことだ。

 壁の上を走り、裏口の上まで走る。そこから下に降り、城門へと続く道へと駆ける。ゆっくりとローブの男が角を曲がるのが見えた、全力で走ればまだ追いつける。息が上がるほどの勢いで駆け、角をほとんど直角に曲がった。


「待て! ちょっと待ってくれ、あんた誰だ! そこで何してる!」


 ローブの男は人気のない城門を、ほとんど素通りしようとしていた。俺に話しかけられ、少しだけ驚いたようだ。肩をピクリと震わせるのが見えた。


「……誰だ、か。こんな格好をしているんだ、誰だか分からなくて無理もない」


 ローブの男はゆっくりと頭巾をまくり、俺の方に振り返って来た。


「久しぶりだね、久留間くん。こちらの世界でも変わっていないようだ」

「……先生!? いったい、いままでどこにいたんですか……!?」


 そこにいたのは、戸沢(とざわ)三波(みなみ)先生だった。俺たちと同じタイミングでこちらの世界に送られ、そしていままで影も形も捉えられなかった人。生きているとは思っていたが、まさかこんなタイミングで出会うことになるなんて……


「どうしてこんなところに!?」

「この世界のことにはあまり詳しくないけれど、大変な事態らしいのは分かる。

 だから私にも出来ることがないかと思ってね。これでも何か出来るらしいから。

 ただどこに行けばいいのか分からなくて、迷っていたらあんなところに……

 怖くなっちゃってさ」


 そう言ってはにかんだ笑みを浮かべながら、ポリポリと頭を掻いた。自分の力を認識しているが、どれだけのことが出来るのか分からないらしい。もしかしたら、いままでほとんど力を使わずこちらの世界で生きて来たのかもしれない。


「……先生、いまこの世界は未曽有の危機に襲われています。

 もしかしたらこの世界に住まう人々が、俺たちも含めてですけど……

 死に絶えるんじゃないか、ってくらいの」

「一大事だな。何か私にも、出来ることはないだろうか?」

「ありますよ、きっと。先生が一緒にいてくれるなら心強い」


 線が細く、向こうの世界ではそれほど頼りになると思ったことはなかった。だが理知的な人で、男女問わず人気のあった人だ。いまの俺ならその理由が分かる気がする。この人はつまり、人の気持ちを察することが出来る人なのだ。


「分かった、キミがそう言ってくれるなら私も協力するよ」


 先生は笑みを浮かべ、俺の提案を受け入れてくれた。俺はほっと胸を撫で下ろす、これで向こうの世界から来た転移者はすべて揃った。敵に回ってしまった人も大勢いるが……この人がそうならず、本当によかったと思う。


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