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17-テレポートのお約束

 巨大な拳が雪煙を巻き上げる。衝撃に煽られながらも体勢を立て直し、成沢を睨む。成沢は自らテレポートで飛び、至近距離へと近付いてきた。


「俺とスデゴロでやり合おうってか。大した自信じゃねえか、成沢!」

戦闘態(ウォーフォーム)の力があれば、お前なんて恐れるまでもないんだよ!」


 長い腕が真っ直ぐ俺に向かって伸びて来る。それを受け流し、軽くジャブを顔面に叩き込む。軽い衝撃が成沢の顔面を襲い、反射的に彼女は目を瞑った。如何に強大な力を持つ戦闘態と言えど、肉体の反射を無視することは出来ないらしい。

 無防備な成沢の腹に膝を打ち込む。成沢の体がくの字に折れ、俺は頸部に肘を打ち下ろした。膝で押さえられた鳴沢は衝撃を逃がすことが出来ず、すべての運動エネルギーをその身で受け止めることとなった。瞬間意識が飛んだ成沢の体を押し飛ばし、適度な距離を取り後ろ回し蹴りを打ち込む。成沢が吹っ飛んで行った。


「ナメんじゃねえぞ。こちとら何人か手前らみたいなのはやってんだよ」

「強い……! でも、どれだけ強くても私には敵わないわ!」


 鳴沢は再び短距離跳躍を行い、俺に近付いてきた。ただし、今度は小刻みな跳躍を繰り返し俺に移動を悟らせまいとしている。小癪な手を使う。

 とは言えどうしたものか。下手に飛び道具を使えばあの転移反射が来る。先ほどまでならともかく、化け物と戦っているドラコさんと苫屋はそれを避けられないだろう。相手の付け入る隙は出来る限り少なくしておくべきだ。


 と、そんなことを考えていると背後で炸裂音。

 化け物の吐き出した火炎弾だ。


「チッ! どっちか気にしてるワケにも行かねえってことかよ……!」


 前転で炎と衝撃をかわす。瞬間、成沢は俺の上方に転移して来た。事前に地面を蹴っていたのか、激しいストンピングだ。ギリギリのところでかわし、反撃に転じようとするが次の瞬間には再び彼女は転移していた。捉えどころがない。


(相手の攻撃も致命傷にはなり辛いが、こっちも一撃を加えられない。面倒だ)


 少なくとも力押しで何とかなるような相手ではない。考えなければ。


「来ないのかしら? それならば、こちらから行かせてもらうわよ!」


 成沢は勝ち誇り、掌を俺に向けて来た。すると掌に球電が発生し、そこからいくつものエネルギー弾が発射された。俺は泡を食ってそれを回避する。


「1人につき1能力じゃねえのかよ、こういうのって!」

「誰がそんなことを言ったのかしら? これが神の理力なのよ!」


 成沢は腕を振るい、エネルギー弾を連射する。球電が地面に命中、爆発。火柱を上げ、雪煙を舞わせる。成沢を回り込むようにして走りながら連続攻撃を回避。ダメージを避けつつも、俺はあいつを殺すための算段をつけようと考えた。


(悪い兆候じゃない。あいつは焦ってる。テレポートじゃ俺を殺せないからだ。

 漫画なんかでよくあるテレポートを中断して切断、なんて真似は出来ないらしい)


 それが出来るなら、最初の一撃でとっくにやっているだろう。攻撃を転移して同士討ちを狙うなんて真似をした時点で理解しておくべきだったかもしれない。そして2つの能力を同時に使用しているが、これなら付け入る隙が現れるかもしれない。人間が同時に処理出来る情報はそれほど多くない。これならば。

 俺は出来るだけ成沢から離れるように動いた。すると、あいつは俺を追い掛けて来た。どうやらいろいろやられて腹が立っているようだ。ドラコさんや苫屋から離れて行ってくれるのはありがたい。やりやすくなるからな。


「逃げたって、私からは逃げきれない!

 分からないかなぁ、久留間くん!」


 成沢の姿が消える。次の瞬間には俺の前にあいつがいた。腕を回し、ひっぱたくような一撃を繰り出してくる。それを敢えて喰らい、跳んだ。衝撃のほとんどは同方向への移動と雪で消えるが、成沢の方はそれが分かっていないようだ。


「アッハッハッハ! 死ね、死ね! 死んじゃえ、私を傷つける人は!」


 エネルギー弾の連射を繰り出してくる。連続バック転で距離を取りつつ増設アダプタを俺は取り出した。シーフ、マジシャンROMをセット。再変身、ジョブ:ニンジャ。輪の音色が辺りに響き、俺の装束が宵闇の黒へと染まった。

 両手にファズマを収束させ、手裏剣を生成。成沢に投げつけた。成沢は一瞬動きを止めて、テレポート障壁を発動させた。ようやくこれを引き出すことが出来たか。俺は精神を集中させ、手裏剣がどこに向かったかを探った。


 俺の後方にポータルが生成されるのを感じた。身を屈め、自分を狙って放たれた手裏剣を避けた。だいたい分かる、出口は同じ軸に作らなければならないようだ。自分の体を自由に転移させるということは、それとは勝手が違う行為だということだろう。つまり、攻撃反射を行う際出口を予測するのは容易だということだ。


「だいたい分かった。これで最後だぜ、成沢」


 ボタンを押し込み、右手にファズマを収束させる。小さく、しかし練り込まれた手裏剣。それを見て、成沢は鼻を鳴らした。俺を嘲笑っている。


「自分を傷つけるだけだということが、どうしてわからないのかしら!?」


 気にせず俺は手裏剣を投げた。成沢明菜の急所、心臓目掛けて一直線に。それはあっさりとテレポートポータルに飲み込まれ、消えた。出て来る場所は分かっている。俺の後方30cmの地点。俺は立ち止まる。成沢は勝利を確信する。

 彼女は分かっていない。投げる時俺がカーブ回転を掛けていたということに。手裏剣は急速に軌道を変え、彼女の左胸に向かって飛んで行く。俺が死ぬと思い込んでいた彼女は、自分に迫る攻撃を認識すらしていなかった。


 慌てて彼女は再度ポータルを発動させようとした。瞬間、耳を押さえる。ニンジャの知覚能力は、彼女の鼓膜をずたずたに引き裂こうとする超音波を『見た』。集中力の欠如、彼女はもはやポータルを発動させることすら出来なかった。着弾、炸裂、爆発。成沢の悲鳴が響き渡り、彼女の胸部装甲が大きく抉れるのが見えた。

 畳みかける。再度ボタンを押し込む。『ミスティック・ストライク!』の機械音声、肉体に凄まじい負荷がかかる。懸命に耐え、俺は精神を集中させた。この世のすべての動きが鈍化し、吹き飛んで行く成沢が、舞い上がる雪煙が、降りしきる雪さえも停止したかのように見えた。緩慢に、しかし確かに、力が全身を駆け巡る。


 ニンジャのスプリントはマッハ7をゆうに超える。人を越え、獣を越え、音を越え、そして光さえ超越するほどに。速く、もっと速く!

 鳴沢はインパクトの瞬間さえ認識することは出来なかっただろう。超音速の掌打を成沢の無防備な腹部に叩き込む。彼女は水平に、地平線目掛けて飛んで行った。ノーバウンドで。拳を振り抜き、振り返ったのとほぼ同時に成沢明菜は爆発四散した。


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