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17-神の介入

「バカな、本営が落とされたというのか!? 守りは完ぺきだったはず……」

「そうだな、一分の隙もなかったよ。お前さんらの拠点に入り込むにはな」


 少なくとも物理的な手段であそこに辿り着くことは出来なかっただろう。


「……まさか転移者の力!? テレポート能力を持つ奴がいたのか……!?」

「そういうことだ。ただ、テレポートのためにはマーキングが必要だったんだ。

 それをあんたらは後生(・・・・・・・・・・)大事に抱えていた(・・・・・・・・)、ってわけだ」

「……この地を奪わせることも計算に入っていた、ということだな?」


 真実を知ってもなお鹿立は――少なくとも表面上は――冷静さを保っていた。


「チェックメイトだ。無駄な抵抗をするな、これ以上戦ったって意味はないぞ」

「意味はある。お前を殺し、圧制者を殺す。それだけできれば十分だ……!」

「やめとけ、やめとけ。俺をよしんば殺すことが出来たとしても層は厚いんだ。

 この極まった状況、ひっくり返すことなんて不可能なんだ。大爆発でも……」


 その時、村の本営近くから地を揺るがすような音が聞こえて来た。しかもそれは、黒い爆発(・・・・)を伴ってと言うおまけ付きだ。俺は表情を硬くした。


「……起こっちゃったってわけ、大爆発?」


 もしかして俺が下手なことを言ったせい?

 どうなっている、いったい。


■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


 西方が宿営地として使っていた村の中心に、大きめのテントがある。司令官が発令所として使用していたものだ。統治者は誰よりも大きなものを差し出さなければならない。それが西方司令官、ウルク=ハールの流儀であった。


「これで終わりだ。総司令の首を取り、この無意味な戦いは終結する」

「果たして終結するかね? 長年にわたり蓄積されてきた憎悪が消えるかね?」

「消えねば人は、この世界は滅びる。ただそれだけのことだ」


 首筋に剣を向けられた老人と、射るような鋭い視線で見る男、ドラコ。2人の視線はぶつかり合い、護衛として付き添った苫屋春香と成沢明菜の心を大いにかき乱した。と、ウルク=ハールは視線を落とし、ふっと息を吐いた。


「そうだな、終わりだ。だが部下の身の安全は保障していただきたいものだ」

「もちろんだ。我々は虐殺のために戦争を行っているのではないのだから」


 ドラコは剣を下ろした。苫屋は言われていた通りにウルク=ハールを拘束し、手近な場所にあった椅子に座らせた。彼の表情は酷く穏やかなものだった。


「見事なものだ。こうされるまで、そうと気付くことすら出来なかった」

「こちらには大いなる神の加護が付いている。それはお前たちも同じことだが」


 2人は話を始めた。まるでこれこそが本題だ、と言わんばかりに。


「何があった? この時期に戦争を仕掛けて来るのは合理的ではないはずだ」

「お見通しか。その通り、首都はダークに滅ぼされてしまった。退路はない。

 ワシらが生き残るためには、王国を滅ぼし都を奪うほかなかったのだよ」

「……何か他に見たか? 例えば、ダークたちを統率する者がいたとか……」

「残念ながら、逃げるのに必死で誰もそんなものを見ちゃあいないだろう。

 もし、そんな奴がいるとしたらもう死んだ奴くらいじゃあないだろうか?」


 西方首都がダークに占領された。それはドラコにとって予想していたことだった。すなわちウルク=ハールを捉えたことによる情報アドバンテージはないにも等しいということだろう。内心の落胆を見せぬようにしてドラコは話を続けた。


「では、正式な降伏調印へと移ろうか。まずは戦闘を停止させてもらいたい」

「よかろう。狼煙を上げる、それくらいのことは勘弁してくれるのだろう?」


 ドラコは首を縦に振り、ウルク=ハールを伴ってテントの外へと出た。武装兵士たちが彼らの周りを取り囲み、飛び掛かるべきかそうでないかを逡巡している。このタイミングは最も警戒しなければならない、すなわちドラコ1人を殺せばすべては解決するのだから。だからこそ、苫屋は精神を研ぎ澄まし、周囲を警戒した。

 ウルク=ハールは積み上げられていた物資の中に眠っていた着色木を取り出し、焚火の中に放り込んだ。特殊な製法で作られ、発火しやすいようになった木材は鮮やかな色の煙を発する。空に伸びる色付きの線は何よりも雄弁に彼らの敗北を物語った。それでも兵士たちは状況を把握し切れず、不安げな表情で彼を見た。


「……ガキども! 戦は終わりだ、ワシらは負けた! すまんッ!」


 ウルク=ハールは深々と頭を下げた。その時。


 漆黒の流れ星が彼に向(・・・・・・・・・・)かって落ちた(・・・・・・)


「なっ……!? こっ、これは……!?」


 ドラコたちは反射的に後ずさり、ウルク=ハールから距離を取った。彼は黒い靄に取りつかれ、痛々し気な悲鳴を上げながらのたうち回った。


「ッガァァァァァァァーッ!? これは、バカな! ワシの体が……!?」


 彼が言う通り、その体は徐々に全く別のものに変質しつつあった。苫屋は短剣を抜き、ドラコは長剣を抜いた。ウルク=ハールは白濁する目でドラコを見た。


「殺、せ。ワシは、ワシでないものに変わろうと……!?」


 最後まで言うことは出来ず、黒い靄がウルク=ハールを浸食した。枯れ枝のように細かった体は筋肉質な、厚みのあるものへと変わった。乳白色のゴツゴツとした皮膚、硬質なタテガミと獣めいた顔立ち、更にその体は段々と巨大化していく。一瞬にしてウルク=ハールは人々を見下ろす体長4mの怪物へと変わった。

 更に、四肢から黒い靄でできた爪めいたものが生え出した。鋭利なそれは、命を刈り取ることに特化したような禍々しい見た目をしていた。


「ドラコ、様……これは、この人は、いったいどうなってしまったんです!?」


 苫屋はいきなり目の前で起こったことが分からず、自らの主に向けて叫んだ。ドラコとてこの事態を飲み込めているわけではない。冷や汗を彼の頬が伝う。

 変化はそれだけに留まらなかった。黒い彗星は明菜にも降って来た。


「これ、は……ッハ、アハハ! 力が戻って来る、これなら!」


 成沢明菜は腕を広げた。黒い炎に包み込まれた彼女の姿が一瞬にして変わる。細くしなやかな長い腕、無表情のマスクに包み込まれた顔。羽根飾りのついたドレスを着た貴婦人のような姿。成沢明菜の戦闘態(ウォーフォーム)が再び顕現した。


「なるほど。すべてはラーナ=マーヤの差し金というわけだ……!」


 自分を殺そうとしているのは人だけではない。ドラコはその時、それを理解した。強大なる力を持つダーク、そして転移者が彼らに襲い掛かって来た。


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆



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