02-地球の若者とかニート同然だよね
「あいつらがここに来た時は、そりゃもう面倒じゃったわ。
なんせ、あいつらロクに働こうとせん。文句ばっかりは一人前だ。
ほとほと困り果てていた」
「へー、そーっすか。大変だったんすね」
そう言われるとグサっと来るものがある。
俺だってニートみたいなものだ。
「けど、そのうちあいつらがおかしな力を持っていることに気付いた。
手も触れんと物を持ち上げたり、おかしな鎧を何もないところから出したり。
それからおかしくなった」
「転移者の加護か。教会の人とかに言ったりはしなかったんですか?」
「半日は歩かんと着けんところにあるし、あいつらがそれを許しゃあせん。
あいつらはワシらに砦を築かせ、食うものと寝るところを要求しおった。
それに逆らう者もおったが……みんな殺されてしもうた。酷いことをッ……!」
老人の言葉に嗚咽が混ざった。
信じられない、そんなことをするなんて。確かに俺のクラスには悪ガキもいたし、マナーのなっていない連中なんて俺を含めてほとんどだ。だがまさか、殺人にまで発展するような奴は一人もいなかったはずだ。
「そうこうしとる間に、この兄さんが現れた」
「ってことは、アンタはハプトン村の人たちを助けたってことか?」
「語弊がある。俺はこの付近に召喚され、奴らと遭遇しそのまま交戦に入った」
シャドウハンターは極めて不快そうな態度を取った。俺にもいきなり襲い掛かってきた事を考えると、問答無用だったのだろう。シャドウハンターは異界の存在ながら武士道というか、そういう礼節を大事にする。そういうところは信じられる。
「しかしわざわざこんなところに居を構えなくてもよかったんじゃないのか?
あっただろ、確か……そう。次元機動鉄道センチピートドライバー」
「いくらでも作れると考えているな? お前が壊したのが最後の一台だぞ?」
これは失礼しました。
「それに、私はディメンジアとはぐれてしまった。
仲間がどこにいるか分からん」
「そうだったのか……心配だな。あいつらいったいどうしてるんだろう……
って、そんなことは後でいいんだ。それからどうしたんだよ?」
懐古に浸っている場合ではない。
まだ聞きたいことはあるんだ。
「転移者の力を前に、さしもの俺も一人だけでは手に余った。
そんなところでもう一人の転移者、多良木鋼が現れた。
新たな敵が現れたのだと思ったが……違ったのだ」
「彼はワシらの窮状を見かねて怒り出し、彼らに戦いを挑んでくれたのじゃ。
あやつらを倒すことは出来なかった、しかしワシらは何とか逃げ出せた。
それで機会を伺っておったのじゃ。そこに現れたのが、アンタというわけだ」
整理すると、転移者は武力によって村を支配している。シャドウハンターと多良木はそれに反抗している。戦いは熾烈を極め、あいつらも劣勢に立ってしまったのだろう。だから周囲から仲間を集い、あわよくば食い合わせようとした、と。その仲間がシャドウハンターたちの真実を知り、敵に回る可能性を考慮していなかったのだろうか? 何らかの策略の可能性もあるが、単に短慮だったと考えることも出来るし、判然としない。
「まあ、なんだかんだ言ってアンタいい人なんだよな。シャドウハンター」
「おかしなことを言うな。奴らがあまりに邪悪過ぎただけのことだ」
「それがいい人だってんだ……それはそうとして、これからどうするべか」
頭を掻いてちょっと考える。相手の戦力は少なくとも3人、この段に至ると中西さんも敵だと考えた方がいいだろう。2人に脅されて従っている、と言うのはあまりに希望的な観測だ。むしろ、村人の態度から考えて積極的に関与していた可能性が高い。
その時、闇の中に風が吹いた。焦げ臭い風が。俺たちは即座に振り返る。
「……もしや、森に火を放ったのか!? 何たる無茶なことを……!」
「爺さんがたを逃がす算段はつけてるんだろ? 行ってくれ、シャドウハンター」
ファンタズムROMを取り出し、変身。俺は走り出した。
「……すまんな、久留間武彦。お前たち、行くぞ! 抜け道から脱出する!」
ごつごつとした岩の道をパルクールめいた動作で進んで行く。ほんの数十秒で洞窟を脱出した俺たちは、燃え上がる森を見た。ここまでやるか、と俺は舌打ちする。
「しかし、参ったな。火を消せるようなジョブがあったっけなぁ……」
風は南東方向に吹いており、丁度洞窟に吹き込む感じになっている。最初からこれを計算していたのか、それとも。そう考えていると、炎の中から青銅の巨人が顔を出す。西村京二だ。俺は構えを取り、強大な敵を待ち受けた。
「武彦、お前が俺たちの敵になるとはな。残念だ、仲が良かったのに」
「仲の良さに免じてさぁ、見逃してくんない? 出来るならあの爺さんも」
「俺たちのした事を知っているのか。こうなった以上、生かしちゃおけん」
ウソつけ、最初から殺す気満々だったくせに。言葉の節々からそういうのが見える、圧倒的な力と殺戮の快楽に酔う者が発する、独特の腐臭が。他ならぬ俺の臭いだか分かる。
「ちなみに村の連中もあの忌々しい黒甲冑も生かして帰すつもりなどない。
この洞窟にあのネズミどもが隠れ潜んでいたことはとっくに分かっていたんだ。
俺たちだって森を焼くような非道をしたかったわけじゃあないが……
こうなった以上は仕方がないと」
「能書きはそこまででいい、とっととやろうぜ。後がつかえてんだよ」
踏み切り、蹴る。顎先を打ったが、硬い。それでいて柔軟だ、青銅めいた外見に反して衝撃が全身に逃げていく。一撃で昏倒させるつもりだったが、上手くいかなかった。反動で跳躍、俺を掴もうとする太い腕を逃れて着地する。西村は首を鳴らした。
「無駄だ、無駄。俺の『青銅鎧』を破壊することなど出来んわ」
「カッコいい名前つけちゃって。『ウスノロサビサビ』とかがお似合いだぜ」
俺の軽口に、西村は過剰に反応した。足を振り上げ、振り下ろす。地面にクレーターが出来るが、そんなデモンストレーションはさっき見た。俺がビビると思ったら大間違いだ。後がつかえてるというのは本当、正直こっちに来なかった中西さんと田村の方が気になる。シャドウハンターは強いが手負いだ、二人の相手は分が悪いだろう。
青銅の巨人が動く。
俺はそれを迎え討つ、高い金属音が辺りに響いた。