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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第九章:天より来たる滅びの使徒
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16-何も終わらぬインターバル

 俺は待った。呆けていたと言った方がいいだろう。そこから王都までの道は、まあ平坦なものだった。近付いて来る化け物は俺がすべて殺した、その中に天使はいなかった。だから、さしたる被害もなく王都まで辿り着くことが出来た。

 人々から感謝された気もするが、何を言われたのかよく覚えていない。どうしてもっと早く来なかったのか、と罵られた気もするがそれも覚えていない。シャドウハンターは、みんなは無事だろうか? それだけが心配だった。

 寒風吹きすさぶ門の外で、俺はずっと待った。エラルドの方角は明るい。火の手が上がっているのだろう、天使たちの攻撃の余波か。住民と一緒に逃げている時はまったく気付かなかったものだ。無事でいるのだろうか……


(あの時、村人を置いてでもみんなを助けに行った方が……)


 そう思ったが、すぐにそれを打ち消す。ダークやマーブルの脅威が完全に消えたわけではないのだ。事実、王都までの道のりの中で何度も襲撃を受けた。俺が一緒に行かなければ王都まで辿り着く前に死んでいただろう。これが最善だ。

 だから俺は待たなければいけない。彼らが帰って来る時まで。


「……と、思ったがさすがに寒くてたまらねえな。何か持ってくるか……」


 人の密度自体が向こうの世界よりも少ないせいか、この世界は全体的に熱量に乏しいように思える。毛布でも持ってこようと思うが、しかしその間に彼らがこちらに来たらどうしよう、などと考えてしまって動けない。痛し痒しだ。

 そんなことを考えていると、温かなカップが差し出された。


「あ、ありがとうございます。コーンスープ……あったかくて美味そう」

「ふふっ。そう言ってもらえると、その、嬉しいです」


 聞き覚えのある声だ。というか、この声がここで聞こえるのはマズいのではないか? そう思って振り返ると、そこには予想通りレニアの姿があった。


「……レニア!? ちょっ、どうしてこんなところにいるんだよ」

「久留間さんが、ここでみんなを待ってるって聞いて。それで、来ました」


 わざわざ付き合うこともないのに。俺はわざとらしくため息を吐いたが、レニアの方はまったく気にしていないらしい。彼女はちょこんと俺の隣に腰かけ、もう片方の手で持ってきたのであろう毛布を俺の方に差し出して来た。


「……よくあの人が許したな。こんなところに来るなんて」

「言ってないから、大丈夫です。そのうち戻れば、きっと大丈夫」


 くすくす、とレニアは悪戯っぽく笑いながら言った。さすがに絶句するが、そんなこと微塵もレニアは気にしていないようなので言っても仕方があるまい。俺は差し出されたカップに並々と注がれた温かな液体を飲んだ。体が温まる。


「ここで待たなくても、みんなが教えてくれるでしょう……?」

「ん、まあそうなんだけどさ。でも、俺の責任でもあると思うからね……」


 レニアは小首を傾げた。

 よく分かっていないようだ、当たり前だが。


「俺が化け物への対応に手間取ったから、こんなことになっちまったんだよ。

 俺があの時エロアイオスを殺せていれば、ラウルさんと戦うのを躊躇わなきゃ。

 死ななくていい人が何人も死んだ。その中にはシャドウハンターの仲間もいる。

 俺のせいだ、全部な」

「きっと……そんなこと、あの人たちは言わないはずです」

「そうだな、よく分かってる。言われないからこうしてるんだと思うよ、俺は」


 反省のポーズでも取らないと、忘れてしまいそうだ。俺は利己的で、人の心が分からない。だからどんな人間でも殺すことが出来るし、どんな酷いことだって平気で出来る。楽な解釈があれば、そっちに乗っかって行ってしまいそうだ。

 レニアはやはり、俺の意図を完全に理解しているわけではないようだった。それでも、俺の隣に寄り添ってくれている。それがたまらなく嬉しかった。


「これからこの世界は、どうなってしまうんでしょうね……」


 レニアの口調には純粋な不安が浮かんでいた。これからどうなるかなんて、俺には分からない。だけど、俺がやらなきゃいけないことは決まっている。


「キミのことは俺が守る。例え、どんなことになったとしても……」


 レニアは俺を見上げ、そしてやはり不安そうな表情をした。失望されただろうか? けど、それが俺に出来る精一杯だ。キミが大切に思っているものを、この世界を、俺は全力で守り抜く。俺にはそれだけしか出来ないのだから。


 俺たちはしばらくそうしていた。レニアが小さくくしゃみをして、そろそろ戻らなければいけないかと考えた時、風景に変化が生じた。


「あっ……! 久留間さん、あれ、あの揺らめいているものは……」

「あれは、馬車隊の篝火? ってことは……みんな、無事で帰って来たのか!」


 俺は嬉しくなったが、しかし油断するわけにはいかない。何らかの偽装である可能性だってあるのだから。王都の防衛隊もそれを考えていたのか、警戒感をありありと表に出したまま出て来た。カラカラと車輪が回る音がして、そして……


「エラルド領騎士、レオール=ガナッシュだ! 開門を願うッ!」


 太鼓めいた張りのある大声が聞こえて来た。

 レオールさんだ、生きていた。


「レオールさん! 生きていたんですね……! よかった、本当に……!」

「死にかけたがなぁ、何とか生きてる。あの方のところに行くにゃ早い」

「レオール、さん。お帰りなさい。よく、帰って来てくれました……」


 レオールさんはしゃがみ、レニアの髪をくしゃくしゃと撫でた。村であった時と比べると何人かが欠けている。あの戦いで死んだのか、それとも。苦い思いを抱きながらも、俺はもう1人の影を探した。いなければいけない人間の影を。


「シャドウハンター! お前も無事だったんだな……」

「……何とかあの天使を撃退することは出来た。そちらは、どうだった?」


 シャドウハンターは激しい戦いを想像させる、壮絶な格好で言った。


「……シャドウハンター。イーグルと、それからタートルが。殺された……」

「……俺のところに2人が来た。薄々と感じてはいたが、しかし……」

「済まねえ、シャドウハンター。俺のせいだ。俺が、迷ったりして……」

「そうだな。お前のせいだろう。でなければ2人が死ぬことは有り得ない」


 シャドウハンターは突き放すように言い、立ち上がった。


「慰めて欲しいなら他の者を当たれ。俺にはやることがある、そうだろう?」


 はっきりとした否定の言葉。だが、こいつから出て来る言葉ならこれくらいの方が気持ちいい。慰めてもらう時はもう終わりだ、これから先は行動あるのみだろう。そして、これがシャドウハンター流の激励なのかもしれない。


 俺は頷き、傷ついた仲間たちを王都の中へと先導していった。


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