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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第九章:天より来たる滅びの使徒
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16-暁に散る

 次元城、立つ。

 その異常を前にしてアスパイトスでさえも言葉を失った。


「あれは……陛下専用の攻撃ユニット! ディメンジョンイーターじゃない!」

「し、城が立ってる……ってか、ロボになってるのか(・・・・・・・・・)……!?」


 そう。いまや次元城は天守閣を頭にし、尖塔を肩当てや膝当てとしながら一対の腕と足を持つ直立人型戦闘兵器と化していたのだ。正直、これにいったい何の意味があるのか分からない。通常の攻撃形態じゃダメだったのか?


『愚かなりし侵略者よ! 私の部下を痛めつけてくれた礼は高くつくぞ!』


 次元城が、跳んだ。数千トンをゆうに超えるであろう巨体でありながら、その動きは軽やかであった。拳を振るい飛来する天使を叩き壊し、足を振り上げ踏み潰す。しかも砲門はなお健在、至近距離で放たれる弾幕にはさすがのアスパイトスでさえ対応出来なかった。一瞬にして戦場の様相が様変わりしたのだ。


「す、すごい……こ、これならあいつにだって勝てるんじゃ……」

「……退くわよ、久留間くん。ごめんなさいねッ!」


 しかし、イーグルは俺の首根っこを掴み飛翔した。通常態の羽根は損傷したが、真性態の翼は尚も健在。いきなり高度数百メートル上空まで飛び上がった。よく見るとフライングソーサーがいくつも浮遊していた。


「イーグル!? どうして逃げる、あれと一緒に戦えば絶対……」

「次元城強襲形態(アサルトフォーム)の稼働時間はね、どれだけ長く見積もっても30分程度なの。

 見てみなさい、あいつらを。それだけの時間で殲滅出来る?」


 イーグルは稜線に目を向ける。俺もそこを見て、戦慄した。現れたのは何体もの天使、そして新たな異形。1体や2体ではない、うじゃうじゃいる。


「あっ……あれだけの戦力が、ここに集中しているって言うのか……!?」

「陛下は対策を考える時間を稼ぐため、その身を犠牲にしてくれたのよ……!」


 ギリッ、と歯を噛み締める音が聞こえて来た。この場で一番苦しんでいるのはイーグル、そしてタートルだ。どういう気持ちでこれを見ているんだ?


 城が闇の中に立つ。

 それはディメンジアの墓標なのかもしれない。


■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


 次元城謁見の間。ここは王の御坐であるとともに、次元城の中枢でもあった。アースタートルも有線接続によって次元城の機能の一部を使うことは出来る。しかしすべての機能――封印された戦闘形態――を使うことが出来るのは皇帝だけだ。

 生きている民は逃がした。だがコールドスリープ中の民を逃がす余裕はなかった。犬死に、無理心中、玉砕。様々な言葉が皇帝の脳裏に浮かんでは消えた。後悔も何もかも死んでからすればいい。次元皇帝は1人の戦士に戻った。


「来るがいい、天使どもよ。天に背きし悪魔の力を見せてやる」


 次元城は彼の意に従い動く操り人形だ。生身の肉体よりも素早く、力強く、そして強靭に。次元城が太い腕を振るう。エンジェルハロを回転させながら近付いてきた天使がグシャグシャに砕け、吹き飛び岩肌に叩きつけられ爆散した。

 重々しい足取りで進みながらも、次元城は暴威としか言いようのない火力を放ち続けた。これまでは距離の関係で防がれていた攻撃だが、次元城自体が近付いてきたことでその暇がなくなった。アスパイトスは、しかしなおも余裕を保つ。


「不細工な瓦礫の塊。壊して差し上げましょう、あなたたちの希望を」


 羽根を解き、糸の連撃を繰り出す。次元城の周囲を黒い糸が包み込む。糸は次元城を、イーグルの羽根と同じように崩壊させた。しかし。


(……分解速度は遅い。質量が違い過ぎるからであろうな……)


 細い糸では十分な分解速度を確保出来ないらしい。敵は強力な能力の持ち主ではあるが、しかし無敵ではない。その事実は次元皇帝の心を少し慰めた。


(とはいえ時間もない! 速攻で決めさせてもらうぞ……!)


 背部ブースターを作動させ、巨体を一気に前方に押し出した。それにはさしものアスパイトスも鼻根を寄せる。大質量の突進は巨体のアスパイトスをも弾き飛ばし、飛ばした先には次元城の巨大腕が待っていた。ガードを固めるが、しかし真正面から突っ込んできた質量を受け止め切れない。アスパイトスは吹き飛ばされた。


「ガハァッ……! これは、この世界に来た転移者は……!」


 吹き飛んで行くアスパイトスに狙いを定め、皇帝は一気に攻勢を仕掛けた。複数の砲門が同時にうなりを上げ、大質量の砲弾が迫る。糸の結界は砲弾の大部分を絡め取るが、しかしすべてを止められはしない。その内1発がアスパイトスを撃ち、脇腹を深くえぐり取った。そこから零れ出すのは光の粒子、ただそれだけだ。


(生命体ではない。だとするならば、ドローンのようなものなのか?)


 次元皇帝は自らの軍で運用するホワイトマスクのことを思い出した。量産型の戦力でありながら、これほどの力。生かしておけば禍根が残るだけだ。次元皇帝は絶え間なく砲弾を発射し、アスパイトスを物理的に圧倒しようとした。

 と、そこに割り込むものがある。それはアスパイトスと同じ顔をした、それよりも少し小柄な異形だった。顔つきも、体つきも、背負っている翼の色さえも同じ。それが3体、アスパイトスの前に現れた。次元皇帝は推論の正しさを知った。


「やはり、いくらでも使い捨てられる量産戦力ということか……!」

「然り。そして我々はこの世界の何者よりも優れているのだ」


 翼の槍が次元城に迫る。次元皇帝は守りを固める。電磁防御フィールドを発動させるが、それは薄紙の如く儚い防御壁だった。翼の槍はお構いなしに城を蹂躙し、内部で解け、致命的な損壊を広げていく。押し広げられた隙間から天使が侵入し、エンジェルハロが城を傷つける。皇帝の視界を赤色のアラートが乱舞した。


「抵抗は無意味だ。すべては滅びる定めにあるのだから」

「……そうかな。私が生き、私が考える限り、無意味なものなどない!」


 次元皇帝は最期の抵抗を試みた。小型砲塔を展開し、周囲に弾をばら撒いたのだ。無意味な攻撃、アスパイトスはそう考えた。だが現実は違う、これまでとは比べ物にならないほど小さな威力であるにも拘らず、砲弾は天使を貫き爆散させた。


「脆弱部位を探らせてもらった。これは有意なデータだ、役に立つ」

「バカな、ここから生きて帰れぬ貴様がそんなものを持っていたところで」


 これ以上の会話は必要ない。次元皇帝は防御を解き、背部ブースターを展開した。もちろん、この挙動はアスパイトスも一度見ている。冷静に崩壊の網を広げ待ち受ける。この質量をあのスピードで打ち出せば、止まれない。次元皇帝は自ら死に向かっている。だが現実はアスパイトスの想像をあっさりと凌駕した。


 次元城の軌道が突如として変わる。隠しブースターがその体を上方に押し上げたのだ。次元城は網を避け、アスパイトスの頭を取った。見上げた彼が最後に見たのは、自らに向かって振り下ろされる巨大な足裏だった。次元城はアスパイトスをあっさりと踏み潰し、爆発四散させた。だがここまでだ。


「……残りは頼んだぞ。愛しき我が臣民たちよ」


 次元城に攻撃が殺到する。すでに崩壊を始めていた次元城は、断続的な攻撃によって最後の一線を越えた。巨体が光り輝き、エネルギーが噴出する。

 次元皇帝が選んだ最後の一手、それは城のエネルギーを暴走させることによる自爆だ。閃光と爆音が響き、爆発は辺り一帯のものを残さずなぎ払った。


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆



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