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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第九章:天より来たる滅びの使徒
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16-悲しみに暮れる暇すらなく

 居住区に作られたバーには、すでに何組かが入っていた。カウンターではホワイトマスクの1人が慣れた手つきでステアしている。この世界の人々は未だ味わったことのない酒とつまみに大層満足しているようだ。自由だな次元城。


「アタシは適当なのちょうだい。アンタはお子様だから……」

「酒は飲まんよ。みんなに止められてるんだ、逃げちゃいけないってな」


 結局俺は出されたジュースでイーグルと乾杯することにした。周囲の喧騒から空間ごと隔絶されているように、俺たちの周りは静かだった。バイソンを追悼するために設けられた一席だったが、よかった。考えをまとめる時間を貰えた。


「バイソンはアンタのことを、命を賭けて助けた。無駄にしないでちょうだい」

「分かってるよ、イーグル。引きずるつもりはないけど、忘れるつもりもない」


 ギュッ、とグラスを強く握り締める。考えよう、答えはある。俺よりも強い敵が出てきた、ならばどうする? これまでのように力押しで勝てる相手ではない。博士の支援が期待出来ない以上、ファンタズムの強化は不可能だろう。

 なら、いま持っているものを使うしかない。幸い基本形態であるノービスに加えて俺には10の選択肢がある。敵の力を見極めればまだまだやれるはずだ。仲間との協力で、更に攻撃パターンは増えるだろう。戦える、あの化け物天使とも。


「……ねえ、アンタ。あの天使って言うのはどういう相手だと思う?」

「何だよ、藪から棒に。考えたって仕方ないだろ、敵のことなんざは……」


 そうは言うものの、さすがに俺だって気にならないわけじゃない。


「神の眷属。あいつは確か、そう名乗っていた。すべてを否定する、とも」

「神の眷属、かぁ。陽光と宵闇って2人の神とは違うっぽいわねえ、それは」

「俺も多分違うと思うけど、どうしてそう思うんだ? イーグル?」

「仮にその2柱の仕業なら、わざわざ転移者なんて呼ばなくても……」


 そうイーグルが言った時、俺は不意に怖気を覚えた。俺だけではない、イーグルや他の住民たちも恐怖に震えた。何が起こっている、何かが起こっているのは間違いない。俺とイーグルは駆け出し、外が見えるテラスへと向かった。


「アンタも感じたのね! なんていうか、おかしな気配だったわ!」

「何だかワケが分からないが……まさかあの天使どもか!?」


 考えてみるとあの時感じた奇妙な威圧感に、さっき感じた圧力は似ていた気がする。テラスの扉を乱暴に開け、地平線の彼方を見る。俺の想像は当たっていた。


 宵闇の世界。稜線の向こう側から卵型の眩く輝く天使がいくつも現れる。そして、その中心にいるのは人間的な姿をした異形。エロアイオスとは違う、あいつは少なくとも翼を背負っていなかったはずだ。そしてあれほどデカくない。

 もしかしたら、あれはもっと近くにいるかもしれない。だが俺たちの視覚が正しければ、あれは天使と並んでいるにもかかわらず天使よりも3倍は大きかった。少なくとも体長3m、あるいはそれ以上の異形。尋常ではない。


「クソ、時間をほとんど置いてねえ……! イーグル、あいつを!」

「落ち着きなさい。ここがどこだと思ってんの? 天下の次元城よ――!」


 イーグルはパチン、と指を鳴らした。すると、次元城が怪しく脈動し、静脈めいた青々とした光が城全体を駆け巡った。同時に、城が極めて不満げな咆哮を上げて振動した。重い音を立てて城が動き、砲身がその姿を現した。


「派手にやるわよ。やっておしまいなさい!」

『やるのは私だ。黙っていてくれ、イーグル』


 城を掌握しているタートルの不機嫌な声が聞こえて来た。砲身が唸りをあげ、黒煙が舞う。鼓膜をずたずたに引き裂く様な轟音が辺りに轟く。発射されたのは圧倒的な大質量、ディメンジアの科学力を使って練り上げた暴力の塊。無骨な金属塊は音速を遥かに超える速度で天使に向かって飛来し、着弾。爆発した。


「っげ……! 俺たちがあれだけ手こずった天使が一撃かよ……!」


 やはり単純な破壊力ならば質量弾による攻撃が一番だ。天使は卵型の体の真ん中にぽっかりと穴をあけ落ちて行った。落下の途中で天使の体は光の粒子へと変わり、中心を歩く巨大異形へと吸い込まれて行った。奴が作っているのか?

 異形は一対の巨大な翼を広げた。翼は徐々に解け、黒い糸が何重にも折り重なった蜘蛛の巣めいた形になった。翼は砲弾から身を守る障壁となり、空中でいくつもの砲弾が爆発して消えた。恐るべき迎撃能力だが、分かったことがある。あいつはエロアイオスのように攻撃を無力化するような能力を持っていない。


「今度こそ行くぞ、イーグル! あいつを放っておいたんじゃ……」

「砲弾が効かないわね。分かったわ、まずはあいつを排除しないとね!」


 イーグルは翼をはためかせ、空に舞い上がった。俺は手すりを蹴り跳躍、イーグルが伸ばした足を掴んでともに飛んだ。片手でファンタズムROMを取り出し、ベルトにセット。巨大異形を睨み、飛来する天使を睨んだ。


「今度こそ、守らせてもらうぜ。レッツ・プレイ……変身!」


 0と1の風の中ファンタズムへと変わる。シーフROMを取り出し交換、再変身。軽快なラップミュージックと共に装甲が変質し、ジョブ:シーフへと俺は変身した。出現したファズマシューターを構え、天使たちに向けて放つ。

 ファズマの矢は寸分違わず卵型の胴体に着弾するが、しかし貫けない。相手の防御力もかなり高いようだ。接近し、直接撃ち込まねばなるまい。そんなことを考えていると、網状に展開された黒い翼の一筋がこちらに向かって伸びて来た。ほとんど無防備な背中を打たれ、凄まじい衝撃に襲われる。思わず手を放してしまい、地面に落下してしまった。


(っそ……! だが、一撃で死ぬほどの威力じゃねえ!)


 ゴロゴロと回転し衝撃を殺しながら立ち上がり、巨体へ向かって突撃する。小刻みなステップを踏み空中から俺を襲う翼を避け、ファズマの矢を巨体に放つ。圧倒的質量差を前にすればファズマの矢も豆鉄砲同然ということか、直撃を喰らったはずなのに巨体は身じろぎすらしない。ガラスめいた目が俺を見た。


「消えないか。エロアイオスに聞いていた通りですね」


 やや女性的な異形が俺を睨んだ。次なる敵を前にして、俺は身震いした。恐怖によってではない。今度こそ殺す、その決意を込めた武者震いだ。


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