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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第九章:天より来たる滅びの使徒
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16-初めてではない遭遇

 重い足取りで数時間かけてノースティングから脱出し、次元城へと向かった。入口で多少止められたが、バイソンの死と新たな敵の出現を告げたところあっさりと通された。次元城の主、次元皇帝の待つあの謁見の間へと。


(……気が重い。あいつが死んだって、知らせねえといけないなんて……)


 彼らの返答を考えると、更に気が重くなる。俺のことを恨んでくれれば、それはそれで楽だ。だが直感的に、そんなことにはならないのではないかと思う。


「……待っておったぞ、久留間武彦。さあ、話を聞かせて貰おうではないか」


 巨大椅子に鎮座した次元皇帝は、あの威厳溢れる声で俺に問いかけて来た。俺は出来るだけ物怖じしないように、堂々と話を始めた。ノースティングで見たことのすべてを、そしてバイソンが命を賭けて俺を助けてくれたことを、すべて。


「……そう、あの子がね。まさか、って思ったけど本当なのね……」

「それが戦場の倣いだ。どれほどの強者であろうとも、死は平等に訪れる」


 イーグルも、タートルも同僚の死を悲しみながらもそれをフラットに受け入れている。彼らは本物の戦士だ、だから感情に流されない判断が出来る。そしてバイソンも。そうすべきだと彼女が判断したのだと、彼らもまた判断した。


「あなたが生きて帰って来られてよかったわ。バイソンも浮かばれるでしょ」

「……そうだろうか。俺は、あいつの命を奪ってしまったんじゃ……」

「ちょっと待った! 待った、ナシよ。それはナシ、分かってちょうだいよ」


 イーグルは俺の前で×を作った。

 表情には若干の怒気が浮かんでいる。


「そう思うのも無理はないわ。でも、それを言葉に出しちゃダメ、ダメよ」

「責任を感じるのは分かるが、責任を逃げ道にしないことだ。久留間武彦。

 人は責任を言い訳に、自らを甘やかすことが出来る生き物だからな……」


 ……ある意味、責められるよりも辛いな。

 これが俺の背負うべき罰、か。


「しかし、新たな化け物とはな。ダークやマーブルとはまったく違うと?」

「ああ、あいつらとはまったく違った。外見も、力も。それに……」

「エロアイオスとやらね。あの子を退けるなんて、いったい何者なのかしら」


 あれもまた、神なのだろうか? 陽光と宵闇、そのいずれも奴は敵として扱っていた。まったく別の第三勢力がこの世界に現れた、ということなのか?


「久留間武彦、その怪物のデータを見せてもらいたい。いいかな?」

「データ、って言われても。あいつの外見も口頭で説明出来るくらいしか……」


 言うと、タートルは光り輝くLANケーブルめいた触手を俺に向けて来た。アダプタに当たるところは平べったい金属になっている。


「これでキミの記憶と意識を読み取る。言葉に出来なくても覚えているはずだ」

「……まあ、俺の脳みそ引っかき回したりしないなら、別にいいですけど……」


 タートルは微笑み俺の頭にケーブルの先端を当てて来た。瞬間、脳みそを掻き回され、平衡感覚を揺さぶられるような凄まじい感触を味わた。思わず悲鳴を上げてしまったくらいだ。脳を侵される、というのはこういうことを言うのか!


「っぐ、ええええ!? キ、ツ……な、何だよこりゃマジで……!?」

「初めてはやはり厳しかったか。まあ、慣れてもらうしかないだろうな」


 タートルは涼しい顔をして言って、ケーブルを城の端子に差し込んだ。俺から引きずり出した記憶データを何かに投影しようとしているのだろうか。数秒後、ARディスプレイが中空に現れそこに映像と文字が映し出された。

 俺が見た平坦な怪物、エロアイオス。そして卵型の怪物、天使。一同はエロアイオスの、正確には天使の姿を見て身を固くした。何かを知っている?


「こいつら……タートル、覚えてるでしょう? この城を……」

「忘れるはずがない。忘れていいはずがなかろうよ……!

 次元城を撃墜したのは(・・・・・・・・・)この化け物だ(・・・・・・)


 天使が、次元城を撃墜した?

 あんな小さな化け物が、こんなデカい城を?


「もちろん、アタシたちの前に現れたのはもっと大きな天使だったわ」


 卵型の化け物と城が対峙する、か。想像するだにシュールな光景だが、真面目に言っているのでウソだとか誇張とかではないだろう。そうなると、天使は少なくともこの世界の神の眷属ではないということになる。宵闇は陽光によって幽閉され、陽光はわざわざ近付いて来るものを迎撃する意味がなさそうだからだ。


「これが2つの神のものでないとすれば、すなわち神の目的とは……」


 次元皇帝は口を開きかけたが、しかしすぐに沈黙してしまった。


「どうしたんだ、何か知っていることとか、あるのか?」

「いや、いい。私の想像に過ぎない。現実のことであるかも分からん……」


 次元皇帝は息を吐き、イスに深く腰掛けた。

 深い疲労の色が浮かんでいる。


「少し休ませてもらおう。考えるべきことも多くある、今回はこれで解散だ。

 久留間武彦、明日もここに来てくれるか? 話したいことがあるのでな……」


 そう言うと、次元皇帝は両目を閉じた。いきなり話が終わってしまった。


「陛下はお休みになられたようだ。では、仕方があるまいな」


 タートルはいち早く部屋から出て行ってしまった。俺とイーグルは取り残されてしまった。どうすべきか、考えているとイーグルが声を掛けて来た。


「これからやることがないんなら、付き合ってくれないかしら?」

「……え? いや、別にないけど。何か……」

「あの子の追悼をね。1人で飲むのは味気ないから、一緒にいてちょうだい」


 ……そういうことなら。俺は頷き、謁見の間から出て行った。


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