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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第九章:天より来たる滅びの使徒
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15-喪失の傷

 バイソンの周辺が陽炎めいて揺らめく。炎はエロアイオスに近付くにつれて勢いを減じて行く。だが、その度に身の内から赤々とした炎が溢れ出した。


「しゃら……くせえんだよ、クソッタレが!」


 バイソンはエロアイオスにタックルを仕掛けた。攻撃を予測していなかったエロアイオスはまともにそれを喰らい、バイソンが彼の腰に絡み付くのを許した。地面の土が焼け焦げ、草木が燃え上がる。近付くことさえも出来ない状態だ。


「貴様……! 我が否定出来ぬほどのエネルギーだと……!?」

「そんな力……! よせ、バイソン! 限界を超えて力を使えば――」


 このままではバイソン自身が燃え尽きてしまう。そして、そんなことは彼女自身が一番よく分かっていたようだ。バイソンは一瞬俺の方を見て、笑った。次の瞬間彼女の体が白く眩く輝き、やがて限界を超えた。夜空に瞬く星の如きエネルギーを彼女は解放し、それをエロアイオスに叩きつけた。


 閃光、爆音、衝撃。


 俺は衝撃波を受けて吹き飛ばされた。天使は熱フィールドに飲み込まれ消えた。中心点にいたエロアイオスがどうなったかは分からない。吹き飛ばされ、背中から壁に叩きつけられた。壁を破壊してもなお止まらず、俺は100m近く吹き飛ばされ地面をゴロゴロ転がる羽目になった。ファンタズムのセーフティが作動する。


「くっ……!? バイソン、バイソン! 返事をしろよ、バイソン!」


 0と1の風の中、装甲が風化していくのを感じる。一定以上のダメージを受けた場合、装甲を自壊させ衝撃を殺すことになっていると博士から説明を受けた。だが使うのは今回が初めてだ。それほどのエネルギーが放出されたのだ。


「バイソン……まさか、命を賭けてあいつを道連れにしたのか……!?」


 なぜだ、どうして?

 そんなことをしなくたって、俺は……


 あいつに勝つことが出来ていたか? エロアイオスの力は俺の想像をはるかに上回っていた。果たして俺はあいつの力を上回ることが出来ただろうか? バイソンの言った通りだ。俺は本当の意味で危機を経験していない。だからどうしても、あいつらよりも危機に対する嗅覚が鈍い。敵の実力を見誤った……!

 爆心地ではいまなお黒煙が立ち昇り、空気中の水分が蒸発するシュウシュウという音が聞こえて来る。膨大な熱のせいで近付くことはおろか、状況を観察することさえも難しい。痛みに呻いている場合じゃない、変身しなければ……


 そんなことを考えていると、蒸気の中で影が動いた。

 俺は身構える。


「お、のれ……我を、ここまで痛めつけるようなものが、この世界に……」


 破壊の痕から出て来たのはエロアイオスだった。肉体は焼け焦げ、ケロイド状に溶けている。特に顔面の状態は酷く、焼け爛れて眼球が露出した左半分はもはや正視に耐えなかった。左腕も爆発によってか吹き飛んでおり、それ以外にも痛々しい傷がいくつも刻まれている。

 だがエロアイオスは生きている、こうして。


(命を賭けても届かない……!? こいつは、本当にいったい)


 俺はファンタズムROMを砕けるほど強く握り、セットしようとした。エロアイオスはそれに気付き、舌打ちを一つして腕を振り払った。彼の体が光の粒子に飲み込まれ、そして次の瞬間には消えた。意識を研ぎ澄ますが、周辺にエロアイオスの気配はない。不利を悟って逃げた、ということか。勘のいい奴。


 そのまま俺はしばらくそこに立ち尽くしていた。ここで起こった事実を理解し、飲み込むためだ。だがどうしても、俺は俺のやったことを認めることが出来なかった。俺のせいでバイソンが死んだということを認めたくなかった。


(あいつの言う通りだった……! たった2人で来るべきじゃなかった!

 次元城から応援を求めるべきだった……他人の力を借りるべきだった!

 そしてその代償を、俺じゃなくてバイソンが払ってしまった……!

 言い訳の余地もない、俺のせいだ……!)


 すべてを認めた時、全身からすっと力が抜けた。俺は膝から地面に崩れ折れ、両手をついて項垂れた。どう消化すればいいのか、心が追い付いて行かない。


「……戻ろう、戻らなきゃ。あそこに戻らないと……」


 エロアイオスはまだ死んでいない。あいつが生み出した天使の脅威もある。知らせなければ、俺の仲間に。これ以上被害を広めるわけにはいかないのだ。あいつが死んだのは俺の責任、どうやったって挽回なんて出来ない。だからせめて。


「あいつが死んだことを、決して無駄にはしない……!」


 許しが欲しかった。

 誰かにそれが正しいと言ってほしかった。


 けれども、一番欲しい言葉を与えてくれる人はいない。

 俺のせいで死んでしまった。


 ファンタズムに変身し、走り出した。目指すはエラルド、俺の仲間たちが待つ地。けれども彼らは俺を受け入れてくれるだろうか? 仲間を殺し、のうのうと生き残った俺を許してくれるだろうか? 分からない、分からない。


(……ああ、そうか。あの人は、これを抱えて生きていたんだろうか……)


 俺の脳裏に浮かんでくるのはシオンさん、そしてワードナで出会った西方の元司令官。彼はずっと1人苦しみ、花を手向けて来た。それは自らのせいで命を失った人々に対する食材だったのだろう。シオンさんは味方の、そして敵の命を奪い平和を維持して来たという事実にずっと苦悩し、それでも生きて来た。


 彼らはきっと俺よりずっと強い。

 俺はこの痛みに耐えられそうにない。


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