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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第九章:天より来たる滅びの使徒
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15-慢心の代償

 エロアイオスを名乗った女の体が宙に浮いた。足下から20cmくらいの位置で浮遊しているのだ。変化した彼女の肉体は中性的なものになり、腰のくびれや胸のふくらみはありつつも筋肉質な、少なくともほんの数秒前までは有り得ないものへと変化した。何より、あれほど印象的な肉体でありながら凹凸はまったくない。


「エロアイオスだと? アンタいったい……何者なんだッ!」


 バイソンは問いかけるふりをしながら炎の輪を瞬時に作り出し、投げつけた。エロアイオスは手をかざす、すると飛来していく炎の輪が段々と萎んで行き、彼の1m手前まで来た辺りで完全に消え去った。バイソンもさすがに目を剥く。


「ワケ分かんねえ相手だが、加減は出来ねえな。レッツ・プレイ、変身!」


 ROMをセットし変身。エロアイオスは俺たち2人を見る。


「そうか、なるほど。お前たちがあ奴らの考えた対応策(・・・)というわけか」

「……なんだと? ワケ分からねえな、何言ってやがる」

「だとしたら儚い努力だ。人間如きをいくら呼び出したところで神の眷属たる我は――」


 回答する気がないならばいい。俺も返答を聞くつもりはない。俺は踏み込み、エロアイオスに殴りかかった。しかし、近付いて行くにつれて違和感を覚える。


(なんだ、これは? 俺のスピードが……低下しているのか?)


 じわじわと俺の動きが遅くなっている。拳に籠もる力が段々と減衰していく。違和感を覚えつつも、俺は拳を振り抜いた。いつもと比べればもどかしいほど遅く、悲しくなるほど弱々しい。エロアイオスは片腕で俺の拳を受け止めようとした。振り下ろした拳はエロアイオスの体を下へ、下へと引っ張っていく。


(真正面から受け止めようってか? バカだぜアンタ――!)


 がら空きになった胴体に、逆の拳を叩き込む。エロアイオスの体からサンドバッグを叩くような重い音がした。しかし浅い、エロアイオスはなお健在だ。


「……減衰したエントロピーの中にありながらこの威力か。驚嘆に値する」


 エロアイオスは拳を握り込みボディーブロー気味に拳を振り上げる。受け止めようとするが、速い。いや、俺が遅いのか。防御が間に合わず脇腹を殴られる、直撃を喰らったのはいつ以来だっただろうか?

 側方に跳び攻撃から逃れようとする、がそれすらも遅い。ゼリーの中を泳いでいるような感触を覚えながらも、俺は懸命に体を動かした。エロアイオスの半径3mから脱した瞬間、スピードが元に戻る。俺は一気に距離を取った。


「気をつけろ、バイソン。何だかよく分からんが動きを遅くされちまうぞ」

「私の攻撃が無力化されたのは、そう言う理由か。厄介な相手だな、こいつは」


 白蛇めいた真性態(トゥルーフォーム)へと変わりながらバイソンはつぶやいた。これまで見て来なかったタイプの能力。どういう性質を持っているんだ、こいつは。


「エロアイオス、つったな。何者だ、ラーナ=マーヤとやらの手下か?」

「否定する。我はラーナ=マーヤを殺すためこの世界に遣わされた」


 ならば宵闇の眷属ということか? だが、こんな奴がいるのならばわざわざ俺を呼び出す意味が分からない。転移者の力をも遥かに上回っているような、そんな予感がある。考えている間にエロアイオスは手を振った、光り輝く手を。

 キラキラとした光の粒子がエロアイオスから流れ出し、それが彼の周辺で形を取った。現れたのは卵型の体と頭上、胴体、そして足下で回転する天使の輪(エンジェルハロ)を持つ異形。輪の周辺には尖った矢じり型の錘がいくつも浮遊しており、サメの歯やチェーンソーを思わせる。生物として有り得ない存在だ。


「こいつらはいったいなんだ……!? 天使だとでも言うつもりか!」

「然り。光と闇の秩序を打倒し、真なる天の法をもたらす者なり」


 言うが早いか、異形の天使たちが俺たちに向けて近付いて来た。その数4、手勢の数からするとまったく問題にはならない。しかし問題は質だ。

 エンジェルハロが威圧的に回転しながら俺たちに迫る。風が逆巻き大気が歪む。何たるスピード、そして力。俺は手甲で刃を受け止め、バイソンは側転で避けた。予想外に強い力、弾き飛ばされそうになる。そうはいくものか。ホルスターからファイターROMを取り出し交換、再変身。剣と盾が現れ、重厚な音楽が流れる。


 左手の盾で天使を叩き引き離し、右の剣でエンジェルハロごと天使を両断しようとした。だがエンジェルハロの硬度は予想以上に高い、ファイターでも一撃での切断は不可能だった。その時、頭上と足元のエンジェルハロが俺を挟み込むようにして変形した。かろうじで避けられたものの、トラ鋏めいた姿に戦慄する。


(食いつかれれば大ダメージは避けられねえ、こいつは……)

「よそ見をし、考え事をしている暇はあるのかね? 少年よ!」


 考えている暇はなかった。エロアイオスが天使の影から俺に回り込んで来たのだ。段々と俺の体を動かすエネルギーが減衰しているような気がする。普段であれば問題なく避けられるような拳の直撃を喰らい、俺は地面を転がった。


(ぐうっ、どういうタイプの能力だ? まるで分からん……)


 相手の能力を推察しようにも、エロアイオスはそれを許さない。絶え間のない連打、更に天使との連携によって俺の集中力をじわじわと削いできている。このままではやられる、どうにかしてバイソンと合流し、連携しなければ……


 そんなことを考えていると、空にバイソンの白い腕が飛ぶのが見えた。


「――バイソン! バカな……」

「これで片方取ったり! 懺悔し後悔するがいい、命は無意味である!」


 エロアイオスの肩越しにバイソンを見た。

 その唇は、三日月のように歪んでいた。


「ははっ、手も足も出ねえや。こりゃあ、私は死んだなぁ……」


 周囲の大気が逆巻く。白い体が赤に染まり、身の内から炎が溢れ出す。バイソンは炎と化した。あれも能力の一部? そんなはずはない。


「……だが、負けっぱなしで終わるわけにはいかねえんだよ!」


 残った右腕で天使の胴体を殴る。刃によって切断されるがお構いなし、何故なら切断された腕さえも燃え尽きるほど凄まじい炎を彼女は纏っているからだ。眼前に立天使が炎に焙られ、黒焦げ、そして燃え尽きる。何という熱量。


 バイソンは自身の身すらも焦がす炎を纏い、エロアイオスに突進した。


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