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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第二章:世のため人のために力を使う? んなワケないじゃーん!
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02-戦闘狂の唄

 多良木の状態がゆらりと揺れ、消えた。残像を残しながら接近し、繰り出されたパンチを左の盾で受け止める。対戦車ミサイル(ヘルファイア)の直撃にも耐えると博士は嘯いていたが、そんなものを真正面からぶん殴っても多良木は一向に堪えない。


「まあまあ、待ってくれよ多良木くん。いきなり殴りかかって来るな」

「何だよ、手前は。俺の知り合いに手前みてえなコスプレ野郎はいねえ」


 むむ、やはりこの姿では信じて貰えないか。音声変換はされていないが、俺と多良木はそれほど交流があったわけではない。声だけで分からないなら変身を解除するしかないが、こんな状況で変身は解けない。シャドウハンターが殺そうとして来る中では。


 多良木の背を這うようにしてなぎ払われた剣が盾と衝突、凄まじい衝撃が俺を襲う。ギリギリのところで踏み止まるが、瞬間多良木が軽いステップを踏み俺の側面に回って来た。肩の力だけで剣を振るい、懐に潜り込んだ多良木を迎撃しようとするが、多良木は両腕で俺の腕を止める。何たる胆力、これが与えられし者(ギフテッド)の力か。

 多良木が振り上げた膝を、俺は避けられなかった。頸椎に蹴りを打ち込まれ、痺れるような衝撃が駆け巡った。体勢を崩した俺を前に、シャドウハンターは剣を鞘に戻す。


変射抜刀(へんいばっとう)


 シャドウハンターが鞘から剣を引き抜く。あまりの力に大気が逆巻き、歪んだ光が複雑な像を作り出す。それは上段を狙っているようであり、下段を狙っているようである。相手の視覚を撹乱し確実な一撃を打ち込む技、万全の体勢ならともかく今は避けられない。

 胸甲に剣が打ち付けられる。斬撃の反動を利用してシャドウハンターは回転、袈裟掛けの斬撃を繰り出す。視界と甲冑から火花が舞う、シャドウハンターは踏み込み、とどめの剣を逆袈裟に振り上げた。俺は衝撃で吹き飛ばされ、太い木の幹に叩きつけられた。


「ってててて……マジ痛ェ。やってくれやがったな、この野郎」

「いつまでも貴様に負けてばかりではない、ということだ。

 そのダメージ、決して軽いものではないだろう?

 飄々としているが必死で痛みに耐えている、お前はそういう男だ」


 ご明察。正直これ以上戦うのが面倒なくらい痛い、それくらいいいものを貰ってしまった。シャドウハンターは強い、多良木も強い。


 ああ、何だか楽しい(・・・・・・)


 痛みをこらえて立ち上がる。全身をアドレナリンが駆け巡り、危険な熱が体を満たす。マスクの下で俺は笑った、こんな高揚感を味わったのはいつぶりだろう? 向こうの世界で俺は死んでいた。無駄な力を持て余して、日々を無為に生きて来た。そんな俺に戦う力を与えてくれたのは博士で、戦う意味を与えてくれたのはディメンジアだ。

 ずっと楽しんでいたい。もっと楽しみたい。俺は戦うのが大好きだ。


「……つっても、やらなきゃいけないことがあるんでな。

 楽しんでられねえ」


 そうだ、俺の後ろには守らなければならない人がいる。助けを求めている人がいる。そんな人を放っておけるほど冷血じゃない、と思う。だったら、俺は持てる限りの力を持って戦わなければ。大丈夫、こいつらならきっと耐えてくれる(・・・・・・・・・・)


 俺はホルスターから増設アダプタを取り出した。シャドウハンターが反応するが、奴との間には十分な距離がある。あいつが作ってくれた距離が。スイッチを倒しファイターROMを外しセット。更にシーフROMを取り出し、もう一つのスロットにセット。


「バカな、その力を使うというのか!? その傷で――!」

「知ってるか、シャドウハンター?

 ヒーローってのは多少のリスクは呑まねえといけねえらしいぜ!

 難儀なもんだよなあ、オイ!」


 多良木が動いた。

 疾風の如く掛け、雷光の如く鋭い蹴りを繰り出す。


「デュアルROMシステム、起動。こっからは俺のターンだぜ」


 だがその前に俺はアダプタをセット、ボタンを押した。0と1、蛍光グリーンの嵐が俺を中心に吹き荒れた。物質世界すら揺るがすほどのファズマエネルギーの奔流を受け、多良木が吹き飛ばされる。風に乗って清涼なフルートの音が響く。


「何だァ、手前は……」


 多良木は空中で器用に身を捻り、木の幹を蹴って着地した。


「いいね、あんたらやっぱり。やり合っていて楽しい連中だ」


 口の端をニヤリと歪め、俺は一歩踏み出した。シャドウハンターが一歩後ずさる。奴は知っている、俺が持っている最強の力のことを。デュアルROMの力を。


「もっと楽しもうぜ。せっかくここまで来たんだから、さ」


 二つのROMの力を並列稼働し、最大限まで力を発揮させる。それによって誕生した新たな力。分厚い緑色のローブの上から青いピンポイントアーマーを身に着け、剣弓二刀を武器とする新たな力。瞳が狂暴な赤へと染まる。ジョブ:ストライダー、ここに顕現。


「楽しみてえ、だあ? ザケたこと抜かしやがって、手前!」

「待て、多良木! そいつは――」


 多良木は身を低くして駆け出し、魚雷めいて跳ね上がり蹴りを繰り出す。ファイターならば反応出来なかっただろうが、いまは違う。剣でそれを受け止め、反動で後方に跳んだ多良木の胴体にファズマシューターを打ち込んだ。胴体に当たると光の矢は弾け、衝撃を伝播させる。空中に赤いアーチを描きながら多良木が飛んで行く。


「あっ、ヤベえ。ちょっとやり過ぎちまったか?」


 多良木は大の字になって地面に転がった。だが驚異的なタフネスと精神力で立ち上がる、口の端から血を流し、よろよろと立ち上がるそれは見ようによってはホラーだ。


「まあ、転移者ってのは結構死ににくいって聞いたんだ。

 なら大丈夫だよな?」


 指先でファズマシューターを回転させながら2人に歩み寄る。シャドウハンターが動き出そうとするが、機先を制して膝の辺りに矢を撃ち込んだ。シャドウハンターは驚異的な反射神経でそれに反応するが、代わりに一瞬の隙を晒した。

 左足で踏み込み、右で回し蹴りを打つ。ファイターの強化筋力とシーフのしなやかな動作性が合わさっているからこそ成せる技だ。シャドウハンターの側頭部を打つ、だがそれだけでは終わらせない。蹴り足を戻しシャドウハンターの左腕に絡め動きを封じる。剣を左手に持ち替え、逆手で振り下ろす。脳天を一撃だ。


 しかしシャドウハンターは自ら倒れ込んだ。こっちの体勢も崩れるのはマズい、絡めた足を外し前転、二人と距離を取り向き直る。やっぱりいいな、これ。


「恐るべき敵だ、ファンタズム。だが……失望したぞ!」

「いきなり出て来て何言ってんだよ。敵に失望されても一向に構わんぞ」


 なんで転移者とディメンジアがタッグを組んでいるのは知らないが、あいつらの性質からロクなことはしないだろう。あいつらはここでも潰しておくに限る。俺はボタンを押し込む、『パワー&スピード!』とやたらとハイテンションな機械音声が響き渡る。

 全身からバチバチと電光が迸る。実のところ、デュアルROMシステムは不完全で、特に絶縁処理がしっかりされていない。なので漏れ出したエネルギーが電気に変換されると中の俺もビリビリ来る。だが、これはこれでいいものだ。


 収束した霊力は弓銃に集中、放つ。超音速で飛翔した矢がシャドウハンターを捉える。シャドウハンターは剣と籠手で矢を受け止めようとするが、叶わない。甲高い破砕音が響き剣が砕け、続けて装甲が砕けた。シャドウハンターが吹き飛んで行く。

 続けで踏み込み、エネルギーを収束した剣を振り上げる。狙いはもちろん多良木、安心しろ、ミネウチだ。強化脚力によって生み出されたスピードに多良木は反応出来ない。


「そうは、させて、堪るかァーッ!」


 シャドウハンターは渾身の力を振り絞り、跳んだ。俺と多良木の間に割り込み、彼の体を抱えた。シャドウハンターの背中を峰が打つ、骨を何本か砕く生々しい感触が手に伝わって来る。シャドウハンターと多良木は斬撃の衝撃で吹っ飛んだ。


「アッ……! おまっ、待ちやがれオイ!」


 茂みに消えて行ったシャドウハンターを追おうとするが、爆音と煙が辺りに充満した。シャドウハンター7つ道具の1つ、スモークボムだ。熱を含んだ気体が視覚を阻害し、シュウシュウと水が蒸発するような音が聴覚を遮る。追跡は不可能だ。


「仕方ねえか……手傷は負わせた、そう簡単に立ち上がれねえだろ」


 変身を解除し、村へと戻って行った。入り口では中西さんと門番二人がまだ待っていた。彼らは恐る恐る、と言った様子で俺に話しかけて来た。


「あ、あんた。あの化け物どもは、その、どうなったんだい?」

()れなかったけど、手傷は負わせた。しばらくは動けないはずだ」


 門番たちの瞳に驚愕の色が浮かぶ。

 中西さんは声を上げて喜んだ。


「あ……ありがとうございます、久留間さん! これで村も助かります!」

「俺がやったことが人のためになってよかったよ」

「お疲れですよね? 宿は取ってあるんです、今日は休んでください」


 中西さんは俺を促し、村の中に入って行こうとした。俺は頭を掻き、門を潜った。シャドウハンターと多良木、あいつらの目的はいったい何だったのか? この村を襲ったにしちゃ、何だか様子がおかしかったが……中西さんの件とも関係があるのか?


 まあ、疲れたのは確かだ。デュアルROMは未完成なので肉体への負荷が強い。栄養を補給して、さっさと寝よう。あいつらを追い掛けるのはそれからでも遅くないはずだ。


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