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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第九章:天より来たる滅びの使徒
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15-雄弁な裏切り者はあんまり役に立たない

 名もなき寒村に囚われていた人々は解放された。死傷者多数、もはやその正確な数さえも分からない。それでも、助け出された人は多い。そう思いたい。


 そして、囚われていたのは力を持たない村人だけではなかったようだ。


「あいつは恐ろしい男……機嫌を損ねて殺されたのは1人や2人じゃない」


 テレポーターの女、成沢明菜はツルツルとした白い肌を恐怖で青くしながら言った。これまで多くの行為に関わって来た極悪人だが、それは八木沢に命令されて仕方なくやった、というのだ。責任を押し付けている気がしなくもない。


「やれと言われたから自分に罪はない、とでも言いたいのか? お前は?」


 俺の意志は多良木が代弁してくれた。彼はいま怒っている、子供たちを守るために待機している間にリニアさんが死んだからだ。彼にとってもリニアさんは師匠であり、友人であった。それを無慈悲に殺した者たちへの恨みは相当だ。


「だって、仕方がないでしょう!? あいつに逆らった殺されてしまうわ!」

戦闘態(ウォーフォーム)を手に入れてから、その横暴さに拍車が掛かったことだろうなぁ。

 でもな、成沢。それとアンタがいろいろやらかしたことはほとんど関係ない」


 ノースティング、そして王都。様々な場所を引っかき回してくれた。橡のように(一応は)改心し、こちらに協力してくれたわけでもない。成沢は俺の一言を受けてがっくりと肩を落とすが、同情心など一片も湧いてこない。自業自得だ。


「さて、捕虜にしたはいいがどうするか。正直お前に利用価値はない」


 尋問官として派遣されたバイソンは低い声で言った。成沢はビクリと肩を震わせる、それがハッタリではないと思わせるだけの威圧感が彼女には、そしてこの部屋にはあった。この部屋は尋問や処刑のために使われる場所であり、煉瓦敷きの上にはいくつもの拷問器具や鈍い切れ味を誇る刃物が展示されたりしている。


「お前はテレポーターであり、監視は困難だ。事実これまで追跡を逃れて来た。

 お前から収集出来る情報は、現状においてほとんど意味を持たないだろう。

 危険性だけが高くて役に立たない捕虜は見せしめに殺し、士気を高めるに限る」

「ま、待って! 私を、転移者を殺そうっていうの!? やめて!」


 自分の価値は理解しているらしい。

 だが、残念だったな。


「捕虜への尋問は自由だ。そしてその最中に死んだ場合の規定は存在しない」


 喉の奥に何か引っかかったような音が聞こえてきた、もちろん成沢から。


「八木沢のことを教える、私の力のことも! だから、どうか命だけは!」


 そんな無様な姿に、多良木もさすがに呆れたようだ。

 鼻を鳴らして俺を見る。


「まず見たいのは力だ。お前の戦闘態、どんな風になってるんだ?」


 明菜は困惑した様子で俺を見て、意識を集中させた。2、3秒待っているとその雰囲気が苛立ったものになる。5秒経つ頃には態度に出ていた。


「どういうこと!? わ、私の戦闘態が発動出来ない……!?」

「やっぱ自在にスイッチを入れたり切ったりすることが出来るみたいだな」


 俺たちの仲間に戦闘態が発動せず、敵ばかりが力を持っているのはこういう理由か。そして敵の手に囚われた成沢からも力を奪っておいた、と。


「テレポート能力だけになればただのザコだ。殺してやる必要もないだろ」

「ふん、まだ利用価値は見いだせるということか。だが裏切らんとも限らん」

「も、もう二度とあいつのところには戻りたくない! だって、だって……!」


 成沢はそのまま泣き出し、八木沢の下で行われた屈辱的な行いについて話し始めた。あまり気持ちのいい話ではなかったので、俺はその場を多良木に任せて去った。八木沢は想像していた通りの、あるいはそれ以上の下種だったみたいだ。


「あ……久留間、さん。おかえりなさい。お怪我は、ありませんか?」

「ああ、大丈夫。俺に怪我はないよ。心配してくれてありがとう、レニア」


 部屋に戻ろうと歩いていると、レニアが話しかけて来た。俺の心配をしてくれるとは、優しい子だ。だが傷付いているのは俺ではない、絶対に。


「ああ、そうだ。ハルがどこに行ったか知ってるかな、レニア?」

「ハルさん、は。昨日からお部屋にこもって、出て来ていません……」

「俺は大丈夫だから。励ますんならハルの方を励ましてやってくれ、レニア。

 あいつはリニアさんと4年も付き合ってた、傷ついているのはあいつの方だ。

 頼むわ」


 そう言うと、レニアはこくりと頷いて踵を返した。レニアの姿が完全に視界から消えたのを確認して、俺はため息を吐いた。大丈夫、傷ついちゃいない。


「転移者の尋問、進み具合はいかがですか? 久留間さん」


 生真面目な声が聞こえて来たので驚いた。彼が話しかけて来るとは。相変わらず折り目正しく、皺ひとつない格好のオルクスさんがそこに立っていた。


「途中で出て来ちゃったんで。それに、あんまり役に立つかどうかも……

 八木沢に組していた連中は全員倒したし、あいつも逃げちまいましたし」

「それもそうですね。で、彼女はこちらで利用出来そうでしょうか?」

「好き勝手動ける裏切り者を抱えておける度量があるんなら、ですね」


 王国側は『界渡りの連合』に協力者がいると考えていたが、結論から言えばそのアテは外れた。彼らは周囲の農民を脅迫し、奴隷化することで生計を立てていた。エラルドでの件からその程度の事は予測出来たはずだが、甘かった。


「それはそうと、兄さんがお呼びです。会議室に行ってください」

「あっはい。伝言役なんてさせちゃって、ホントに悪いですね……」

「いいんですよ、私もこの先に行く予定がありましたからね」


 オルクスさんは眼鏡のツルを押し上げて言って去って行った。本当にそれだけだったみたいだな。あの人の勤勉っぷりには頭の下がる思いだ。

 さて、王を待たせるわけにはいかない。俺は会議室へと急ぎ、ノックを3回して部屋に入った。意外にも、会議室にいたのはドラコさんだけだった。


「ご苦労だった、久留間くん。キミのおかげで王国の民が救われたよ」

「ありがとうございます。それで、今回はいったいどんな御用なんです?」


 俺の問いに、ドラコさんは微笑みながら言った。


「キミには一度、エラルド領に帰還してもらいたいんだよ」


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