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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第八章:反撃の時間
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14-光を纏いし闇の者

 顔面に拳を叩き込む。硬い、あの青い鎧は想像以上の防御力を持っているようだ。動きは素人そのもの。攻撃は激情を優先させ、防御は恐怖心からか必要以上に俊敏。そんな素人にこれだけの破壊をもたらせる力を与える神が恐ろしい。


「クソッ、クソッ、クソッ! 僕は、神に選ばれた、真の神だぞッ!」


 八木沢は両腕の爪を振り下ろした。十字に振り下ろされた爪を避けるのは容易かったが、爪の軌跡に残った黒い靄を避けることは出来なかった。いや、避けようとさえ思っていなかった。だが霞が俺の体に触れた瞬間凄まじい衝撃が伝わって来た。装甲上で火花が舞い、俺の体が後方に吹き飛ばされて行く。


「アァァァァァァーッ! し、死ね! 死ねェーッ、久留間ァーッ!」


 八木沢は大振りに爪を薙いだ。爪を構成する闇のエネルギーがそこから溢れ出し、3つの三日月状刃が俺に向かって飛んで来た。格闘ゲームとかではよく見られるタイプの技だが、実際に飛んでくるとたまらない。無理矢理着地し、右手に意識を集中させる。指先がファズマの輝きを帯びる、俺は飛んで来る刃に合わせて手刀を振り上げた。力と力がぶつかり合い闇の刃が砕ける。腕にびりびりと衝撃が伝わって来た。


「アァァァァァァーッ! なんでだよ、何で死なないんだよお前ーッ!」


 駄々っ子のように叫ぶ八木沢の全身から黒い靄が立ち昇り、それが本人を中心にして球形に広がって行く。倒壊を免れていた家屋もまとめて吹き飛ばされ、1つの村が消えた。俺は両足に力を込め、圧倒的な暴威をやり過ごした。


「何で死なねえかって!?

 当たり前だろうが、死にたくねえからだよ!」


 暗黒フィールド展開後、立ち上る炎のように揺らめいていた爪の勢いが減じたのを俺は見逃さなかった。爪、霞、フィールド、構成しているのはすべて同じものだ。ならば大掛かりな攻撃の後には必ず減衰するタイミングがあるはずだ。そしてあれだけ広範囲にエネルギーを撒き散らす攻撃、連発は出来ないだろう。

 最初の一撃で八木沢を吹き飛ばしてしまったから、エネルギーをチャージする時間を与えてしまった。こいつの力を攻略するために必要なのはデカい一撃ではない、休憩する暇も与えないほど激しい至近距離での打撃戦だ。


「うるさい! お前たちに行きたいと思う権利があるとでも!?」


 八木沢は近付いて来た俺を殺すため、爪をなぎ払う。だが雑。頭を少し下げるだけで急所を狙ったあからさまな一撃は空を切った。俺は伸び切った腕を左腕で掴み、右腕で肩をロック。更に俺の方に八木沢の肘を乗せ、てこの原理で力を加えた。圧倒的な膂力を持つ八木沢だが、作用点に込められた力には耐えられなかった。


「ッギャァーッ!?」


 へし折った。痛みに呻きながらも左腕で殺そうとする、俺はその一撃を脇をすり抜けかわした。八木沢の呼吸は荒く、涙声が混じっていた。


「痛いか? 痛いようにやった。痛みに苦しんでから死ね」


 八木沢は爪を引き戻し、背後に回った俺を見ずに爪を振り払った。姿勢を低くしてそれをかわし、足払いを仕掛ける。自分の回転と側面からの衝撃を受け、八木沢はあっさりと転倒した。何が起こっているかさえ分かっていないだろう。

 立ち上がろうとする八木沢、俺は残った左肩を思い切り踏みつけた。骨のへし折れる音と感触、八木沢が悲鳴を上げた。彼の体を踏みにじりながら俺は全体重をかけて膝を胸に落とした。くぐもった悲鳴を上げながら八木沢は跳ねる。

 もちろん、上から押さえつけられた八木沢は身じろぎすることも出来ない。足をバタバタさせて抵抗するが無駄なこと。俺は八木沢の顔面を殴りつけた。


「ぐへっ!? や、やめろ! 痛い、やめろ、やめてくれ!?」


 情けなくも高圧的な抗議を行う八木沢。俺は容赦なく何度も拳を振り下ろした。変則的なマウントポジションを取り、彼の行動を阻害しながら。青い鎧は堅牢だが何度も攻撃を受けて耐えられるような作りだろうか? このまま殴り続ければ分かる。俺は無心に拳を振り下ろした。誰かの恨みを代弁するなどおこがましい。


 これは俺の怒りだ。俺の恨みだ。

 晴らさせてもらうぞ、八木沢。


「ッギッ! や、やめ……止めろって言ってるだろ、久留間ァーッ!」


 八木沢の全身から黒い霞が立ち上る。先ほどのようにこいつを球形に放出し、俺を弾き飛ばそうというのだろう。そうは行くか、俺は首根っこを掴んだ。

 闇のフィールドが展開される。霞が鎧とぶつかり、凄まじい衝撃が走る。弾き飛ばされそうになるが、しかし俺は八木沢の首を手すり代わりにして耐える。八木沢は俺を弾き飛ばそうと力を込めるが、その度俺も掴む力を強める。


「アギッ……! がっ、やめ……!」

「止めねえ」


 極限の我慢比べ。装甲がヤスリに掛けられたように削れて行くのが分かる。八木沢の首を掴む力を更に強める、ミシミシと骨の軋む音が聞こえて来た。数秒間の攻防、先に音を上げたのは八木沢だった。全身に掛かる力が不意になくなる。

 パッと手を放し、顔面に拳を打ち下ろす。ファンタズムの膂力、スピード、そして重力がすべて合わさり八木沢に降り注ぐ。フィールド展開によって一時的にパワーを減じた八木沢はそれを防ぐことが出来ない。攻撃の圧力を受けて鎧が損壊し、醜いへこみがいくつも出来る。八木沢はもはや意識を喪失しかけていた。


「これでとどめだ。死んじまいな――!」


 ベルトのボタンを押し込む。『フリーダム・ストライク!』の機械音声。右手にファズマが収束する。拳を振り上げ、八木沢の顔面に振り下ろそうとした。


 しかしその瞬間、天が眩く輝いた。気を取られた一瞬のうちに何者かが俺の眼前に現れ、手掌を俺の胸に当てて来た。まるで杭打ち機で打たれたかのような衝撃。一点に集中された威力を喰らい、俺は水平に吹っ飛ばされた。


「悪鬼羅刹に、地上に顕現せし若き神を殺させるわけにはいかないな」


 体勢を立て直し、俺は攻撃者を睨んだ。


 それは、後光を纏った男だった。古代ギリシア人めいてトーガを身に着け、頭には月桂樹の冠。五分に分けられた縮れたロングヘアの隙間からは優しげな眼と甘いマスクが覗く。逞しい筋肉と豊かな胸毛。直観的に理解することが出来る。こいつが……


おお(・・)……おお(・・)神よ(・・)!」


 こいつが陽光の神。俺たちが倒すべき敵の1人。


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