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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第八章:反撃の時間
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14-闇に選ばれた男

 覚悟を見た。受け入れ、そして後押しした。

 それでも。


 ハルはそれでも、何故押し出してしまったのかと自分を悔いた。立ち昇る黒煙、火炎の反動で弓なりに体を逸らし、だらりと四肢を投げ出しながら飛んで行く。彼女の体には、すでに頭がなかった(・・・・・・)。火炎弾の反動で吹き飛んだのだ。


(生きろと……それでも生きろと、言うべきだったのではないのか――!?)


 ハルは歯を噛み締め、力なく崩れ折れながらも雪を叩いた。この世界で初めて出来た友だちを、みすみす死なせてしまった己の無力を悔いながら。


「……ゼロ距離であれだけの威力の魔法を撃つとは。捨て身というわけか」


 ハルは弾かれたように顔を上げ、黒煙の向こう側を見た。黒煙の向こう側から出て来たのは、八木沢六郎。しかし、彼の姿はそれまでのものとは違っていた。

 全身を覆う鎧は、蒼穹を思わせる吸い込まれそうなほど、寒々しいほどの青だった。腰には豪華な装飾の施された両刃剣が掛けられており、その姿は勇壮なる騎士か、あるいは伝説に語られる高貴な勇者の如きものであった。


「何だ、それは……!? それが、お前の戦闘態(ウォーフォーム)の力なのか……」

「戦闘態であろうとも至近距離で、しかもあれほどの威力の魔法を受ければ死ぬ。

 だが、僕は単なる転移者ではない。転移者よりも進んだところにいるんだよ。

 これは蒼穹鎧(ガイアギフト)、神より与えられし最強の鎧。魔法の力では僕を傷つけられない」


 ハルは瞬時にいくつもの魔法陣を作り出し、手加減なしの攻撃をいくつも叩き込んだ。だがどれも結果は同じ。火炎弾は鎧に当たると同時に霧散し、風の刃は傷一つ付けることも出来ず、複合魔法でさえ八木沢に害を及ぼすことは出来ない。


「僕は神にも等しい存在になった。誰も僕に勝つことは出来ないんだよ。

 力の差を理解して――僕にひれ伏せよ、ゴミども!」


 八木沢は何の力も込めていない裏拳でハルの頬を打った。それでもハルには、首が千切れるかと思うほどの衝撃が感じられた。彼女の体は裏拳の一撃で3mばかりも浮き上がり、家屋の屋根から落ちてできた雪溜まりの上に落ちた。


「……ッハッハッハ! 凄いぞ、僕は凄い! これが僕の本当の力なんだ!

 向こう側の世界は間違いだったんだ、僕はこっちで生まれるべきだったんだ!

 間違いが正されたいま、恐れるものなんて何一つありはしないじゃないか!

 僕はこの世界の神なんだ!」


 八木沢は狂気に満ちた笑みを浮かべ、陶酔するように哄笑を上げた。


「誰が生きるも誰が死ぬも僕次第! 僕を崇め奉れ、下等なクズども!

 お前たちは僕に傅く、だけどそれはとても幸せなことなんだよ!?

 僕がお前たちの価値を――」


 八木沢の言葉はそこで切れた。突然舞い上がった雪が彼の視界を塞ぎ、撃ち出された岩石が彼の顔面を打ったからだ。戦闘態の身体能力、そして蒼穹鎧の力を持つとはいえ、物理的な力を受けて、そしてショックで八木沢は一瞬言葉を失った。


「……は? 何を、しているんだ。お前は?」


 震える声でそう言うのが精いっぱい、という様子だった。ハルはゆっくりと立ち上がり、挑発的なファイティングポーズを取った。


「クソ喰らえだ、ゴミ野郎。

 お前を崇めるならその辺の石を部屋に飾った方がマシだ」


 八木沢の顔が憤怒に染まるのを、ハルは幻視した気がした。


「……なら、死ね! お前は神の世界に不要なんだよォーッ!」


 八木沢の両腕から闇が生じる。ハルはそれを真っ直ぐ見据えた。


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆


 広場が見える位置、そこで俺は八木沢を見つけた。両腕には闇が収束している。もはや迷っている時間はない、俺は八木沢に跳びかかり、蹴りを叩き込んだ。側頭部を打ち抜かれ、八木沢は奇妙な格好をしながら水平に飛んで行った。


「ッ……! ハル、無事か!」

「武彦! 私は、何とか。けど、リニアが……」


 見れば分かる。雪の中に倒れているのは、首を無くしたあの人だ。


「すまない、武彦。私は、あいつを止められなかった……」

「仕方ない。ハル、気に病むな。リニアさんが死んだのはお前の……」

「私のせいだ! 私があいつの背中を押してしまったからッ!」


 ハルは泣いていた。様々な感情がないまぜになった複雑な表情で。


「力づくでも止めりゃあよかった! 復讐なんて下らないと嘯けばよかった!

 そうすれば、あいつが死ぬことだってなかった……! 殺したのは私なんだッ!」

「違うよ、ハル。それは違う。お前はリニアさんの心を守ったんだ」


 あの人がどんな思いを抱いていたのか、俺には分からない。今わの際に何を思ったのかなんて分からない。それでもそれは絶対に、ハルのせいじゃない。


「望んで死んだんなら。そうするしかもう他に道がなかったってことだろう。

 そう言うことにしておけ。そうしなけりゃ、俺たちはやっていけないんだから」


 八木沢が立ち上がる、奇妙な鎧を纏った男が。この前王都で戦った時とまた格好が違っている。そう、殺したのはハルじゃない。こいつなんだ。


「ハル、下がってろ。村人を頼む。俺はこいつを殺して、全部終わらせる」


 俺は構えを取った。ハルは泣きながら頷き、走り去っていった。


「僕を殺すだと? 不遜に過ぎるな。僕が何者か知ってのことか?」

「知らねえし、知るつもりもない。俺が知っているのは1つだけだ、八木沢。

 手前はここで殺さねえと、もっと多くの人を傷つけるってこと。それだけだ」

「僕はこの世の神。この世で最も強き者。故に――」

「笑わせんな。手前が向こうで銃を持っても同じセリフを吐いただろうぜ」


 これ以上のやり取りなんて耐えられない。でも言わずにはいられない。


「手前はただのいじめられっ子で、んでその奥底にあるのはいじめっ子だよ。

 自分より弱い奴を虐げるのが楽しいだけだろ? 神だのなんだの、取り繕うな」

「……不遜な物言い! 久留間ァッ! お前、何様のつもりだ!」


 闇の詰めを振りかざし、八木沢が突進してくる。青の鎧からは恐ろしい力を感じる。せり出す闇からも威圧感を覚える。そして何よりも、迸る闇よりも暗い八木沢六郎の精神性に戦慄を覚える。奴は俺とは違う意味でイカれている。


 傷つけられたわけではない。

 世間から疎外されてきたわけではない。

 それでも八木沢は己の精神性だけでここまで歪んでみせた。

 危険すぎる心。


「何様だと言うつもりもないが、向こうじゃヒーローってのをやっててな!」


 ここで殺す。俺は突っ込んで来る八木沢に拳を叩き込んだ。


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