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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第八章:反撃の時間
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14-どんな大きな力を持とうとも

 予測していたよりも美河の動きは速かった。恐らくは重力によって自分を打ち出しているのだろう。垂直方向に力を掛ければ人を押し潰し、水平に掛ければ打ち出したり、押し倒したり出来る。応用性の高い恐ろしい力だ。

 ROMをファイターに変更。突き出された拳を盾で受け止め、弾き飛ばしたところに剣を振り下ろした。剣と甲冑がぶつかり合い、火花が舞うが、浅い。戦闘態の肉体は爆発の衝撃によってダメージを軽減することが出来るのだ。


「効かない、そんなもの! 私たちは無敵なんだ!」


 横合いから何本もの縄が現れ、俺に襲い掛かって来た。バックジャンプでやり過ごすが、足元に違和感。着地と同時に地を強く蹴り垂直跳躍。足下の雪にいくつもの線が刻まれた。従来通りの見えない縄を使うことも出来るわけだ。なぎ払われた縄が民家の壁にぶつかりそれを粉砕、それでも止まらず柱をへし折り民家を易々と倒壊させた。そこから見えて来るのは人々の奴隷的待遇。


「かかった! 空中で身動きは出来ないだろうッ、死ねーッ!」


 美河が勝ち誇った声をあげた。同時に、俺の体が後方から押し飛ばされる。重圧の力だ、その先にいるのは美河の本体。彼女は右腕に反発するエネルギーを収束させていた。俺を押し潰す腹積もりだろう。

 空中でROMをマジシャンに変更。デスメタル調の激しい音楽が流れ、装甲が変質する。同時に不可思議なファズマが俺の体を上方に持ち上げた。ジョブ:マジシャンはファズマの扱いに長けており、そのエネルギーを放出するのが全ジョブ中で一番得意だ。美河の拳は狙いを外し空を切る。そして大きく体勢を崩す。


「相手にならねえって言った理由が、そろそろ分かったか――!?」


 杖を閃かせ魔法陣を生成、収束させた魔法の矢を美河の両肩に向けて放った。1つ1つの威力は低いが、収束させればノービスのストレートパンチくらいの威力にはなる。悲鳴を上げる美河、倉石は俺を見上げて縄の鞭を振り回した。


 予想通り。ROMをクレリックに変更、再度ボタンを押し込む。『ホーリードメイン!』の機械音声が流れ出し、俺の周囲に半透明のエネルギーフィールドが発生する。それは見え透いた罠である直接攻撃、そして見えない縄を防いだ。

 自由落下に身を任せ、メイスをグルグルと回転させる。魔法矢の衝撃をこらえ、顔を上げた美河。俺はその顔面に容赦なくメイスを振り下ろした。彼女の首が肩の半ば辺りまで沈んだ。だが戦闘態の生命力はその程度の負傷を意にも介さない。彼女は首の筋力で俺を弾き飛ばし、重力波で俺のことを更に吹き飛ばした。


「やっぱ一筋縄じゃ行かないな。縄使いが相手、ってだけに……」


 ザザザ、と轍を作りながら雪上に着地。さすがは戦闘態、恐るべき戦闘能力だ。何よりリニアさんとハルを待たせている、これ以上時間は使えないだろう。

 続けざまに放たれた縄の攻撃をホーリードメインでやり過ごしつつ、俺は増設アダプタを取り出した。ファイター、そしてシーフROMをセット。ドメイン解除の寸前でROMを交換。清涼なフルートの音が流れ出し、ジョブ:ストライダーが顕現した。メイスが剣に変わり、左手にファズマシューターが出現する。


 両手を広げ構えを取る。美河が力を発動させ、倉石が縄を解く。そして一斉にそれを叩きつけて来た。地面を強く蹴り、爆発的な推進力を持ってして水平に跳ぶ。重力波が、見える縄が、見えざる罠が地面を、雪原を抉る。だが2人は一瞬だって俺のスピードに対応出来ない。ストライダーの全力を見ることは出来ない。


(当然だ、こっちだって痛い思いしてるんだぜ! リスクを取ってンだ!)


 ジグザグにステップを踏み2人を撹乱、バラバラに分散した攻撃はいたずらに辺りを破壊し、俺が隠れる隙間を広げる。広がった隙間に体をねじ込み、美河の懐に潜り込む。順手に持った剣で美河の肋骨から剣先を突っ込んだ。


「ガハァァーッ!?」


 美河は苦悶の叫びをあげる。そこに心臓があるのかどうかは分からないが、かつてあった場所を貫かれたことによる精神的な動揺もあるのだろう。目の前に現れた俺を押し潰すことさえもせず美河は呆然としている。倉石もだ。

 剣の柄を両手で持ち、思い切り振り払う。美河の体が持ち上がり、投げ飛ばされる。飛ばした先にあるのは、倉石が展開した縄の結界だ。


「――!? だ、ダメ! 早苗、避けてーッ!?」


 滅茶苦茶に振り回した縄の動きを本人でさえ制御出来ていないのだろう。必死で倉石は叫ぶが、しかし美河は身動きを取ることさえも出来ない。そのまま縄の結界に向けて飛んで行く、その四肢に強靭な縄が巻き付いた。目に見えるものも見えないものも彼女の体を捉え、四肢を思い切り引っ張り引き千切った。爆発四散。


「お……前はァーッ!?」


 倉石は両手に縄を巻き付け殴りかかって来た。ゴロツキがチェーンを撒きつけているようだ。体勢を低くし拳をかわし、胸に銃口を押し付け発砲。ファズマのゼロ距離射撃を受けて倉石の体が浮かび上がる。その場で反転し、俺は彼女の腹に後ろ回し蹴りを叩き込んだ。彼女は自分が破壊した村を滑って行く。


「先がつかえてるんだ。サクっと行くぜ、倉石」


 ボタンを押し込み、突進。『スラッシュ・ストライク!』の機械音声が流れ、刀身にファズマが収束する。よろよろと立ち上がる倉石は死が迫っていることにさえ気付かない。立ち上がると同時に目を丸くし、ただ刀身を見た。


 切っ先を甲冑に突き込む。大砲が発射されるような激しい音が響き、倉石の体が再び水平に吹っ飛んで行く。死んでいない、まだ。かなりタフだ、ならばもう一度。ベルトのボタンを押し込む、『シュート・ストライク!』の機械音声。ファズマシューターの銃口に力が収束する。俺は倉石目掛けてそれを解き放った。

 球電めいた物体が倉石に向かって、彼女を追いこすほど素早く飛んで行く。倉石知美は球電に巻き込まれ、悲鳴を上げながら爆発四散した。


「っそ、余計な時間取った……! あいつらは大丈夫だよな……」


 すぐにやられるような連中ではない、だが……俺は村を見回した。


 全員が逃げ切れたわけではない。戦いの余波に巻き込まれ、何人もの村人が死んでいる。俺も含めて、転移者は他人の命など何とも思っていない連中だ。それがかつてのクラスメイトであろうとも、何の躊躇もなく殺すだろう。

 特に八木沢六郎は他人に対して屈折した思いを抱いているように思える。急がなければ。俺は駆け出し、先行した2人を追った。


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