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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第八章:反撃の時間
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14-『界渡りの連合』殲滅作戦

 それから4日、俺たちは時間をかけて準備をした。4日、それが村人たちの体力と忍耐の限界点だ。それを越えれば彼らは死ぬか、あるいは無謀な行動に出るだろうと彼は言っていた。だから、その前にすべての準備を整える必要があった。

 幸い、周辺からある程度の戦力を拠出することが出来た。これもドラコさんの威光ゆえだろう。『界渡りの連合』が抱えている戦力がそれほど多くないのも幸いした。転移者は4人、どう頑張ったって村人全員をカバーは出来ない。騎士や兵士は村人の保護を主に行ってもらうことにして、俺たちが転移者の相手をする。




「プランは分かってるよな? 俺がテレポーターを押さえて拘束する」


 恐らくテレポーターも戦闘態(ウォーフォーム)を持っているだろう。だが不意を打てば十分行けるはず。ファンタズムの力を持ってすれば、制圧することはそれほど難しくないだろう。テレポーターを押さえれば大分逃げやすくなる。


「そいつを押さえ、村に突入し、一気に終わらせる。そういうことだな?」

「八木沢が出てきたらそっちは俺に任せてほしい。2人は残りの連中を」


 リニアさんが露骨に渋い顔をしたのが分かった。だが、戦力的にはそれが一番であるはずだ。俺は八木沢の持つ即死能力が通用しないが、2人はそうではない。生身であんな物を喰らえばどうなるかなど火を見るよりも明らかだ。

 俺たちは遠方から狩猟地点を監視していた。狩猟、採集は1日1回、必ず昼時に行われる。逃走を感知してテレポーターが出張って来る、その時が勝負だ。


 雪の寒さを感じながら、その時を待つ。そして時は訪れた。あの時俺と話した村人が走り出したのだ。他の連中には発狂して無謀な行動を取ったように見えたのだろう、狂ったように叫んで彼を止めようとしている。それでいい。

 俺は立ち上がり、ファンタズムROMを取り出しセット。


「レッツ・プレイ。変身!」


 ベルトのボタンを押し込む。同時に村人の眼前が歪んだ。彼は情けない悲鳴を上げながら倒れ込んだ。0と1の風が俺を包む、同時に女が1人現れた。


「ここから逃げようなんて……どうやら愚かな人はまだいたみたいね?

 あなたたちはここから逃げられない、たっぷりと教えてあげたのに……」


 そこに現れたのは、線の細い少女。椿のようにツルツルとした触り心地の良さそうな肌が特徴的だ。湯上り卵肌、って言うんだったっけか、あれは。名前は成沢(なるさわ)明菜(あきな)、俺たちと同時期にこの世界に転移して来た少女だ。戦闘態へと変身し、強靭さとしなやかさを併せ持った長い腕を振り上げた。


「愚かさの代償は死をもって払うことになっているの。残念だけどあなたは」

「っらぁっ!」


 駆け出し、飛び上がり、首筋に蹴りを入れる。彼女の首がほぼ直角に曲がり、凄まじい速度で射出(・・)される。太い杉めいた樹の幹に激突した彼女は戦闘態を解除。白目を剥いて昏倒し、降って来た雪に埋もれた。何秒か待つが出てくる気配はない。


「っし、沈められたな。ハル、指示を出してくれ。パーティの時間だ」

「お前、転移者以外にそれやったら死ぬって分かっててやってるよな?」


 ハルはどこか呆れ顔になりながらも印を描いた。眩い閃光が彼女の手元に収束し、空高く舞い上がった。天で舞い弾ける、作戦開始の合図だ。


「聞け、俺たちは王国騎士団!

 悪鬼羅刹に囚われし、善良なる民であるあなたたちを救いに参った者だ!

 すぐに仲間が到着する、彼らの誘導に従って脱出するんだッ!」


 一度こういう大音声を上げてみたかったのだ。ハルは露骨に侮蔑的な視線を俺に向けて来る。いいだろう、別に騎士じゃなくたってこういうことを言っても。相手を安心させるためには権威に頼るのが一番だ。そうだろう?

 俺の目論見通り、最初は何が起こっているか理解出来ない様子だった人々も鬨の声めいた大音声を上げ、そして走り出した。我先にと正気の世界へと逃げ出して行ったのだ。そのうちいくらかは俺たちの方に近付いて来た。


「まだ村に囚われている人たちがいるんです! 非力な女子供たちだッ!」


 と、そんなことを言って来た。そんなことをする必要もないだろうに、人質を取っていたのか。リニアさんの表情がまた一段と険しくなったように見えた。


「安心して下さい、俺たちが必ずあなたたちを救い出しますから」


 そう言うと彼はパッと笑顔になり、走り出した。期待に応えてやらなければならない。俺が先頭に立ち、ハルとリニアさんが続いて村の中心へと向かった。


「さーて、鬼が出るか蛇が出るか……そろそろ出て来る頃だと思うが」


 ヒュッ、と風を切るような音が聞こえた。姿は見えないが、何かある。俺は反射的にバックジャンプを打ちそれをかわした。いくつもの線が雪に刻まれる。


「どうして避けられるんでしょうね、見えないはずの攻撃を……」


 出て来たのは風紀委員の2人、美河早苗と倉石知美。いまの2人はさしずめ圧政官といったところだが。俺は構えを取った。


「この村を解放しに来た。ついでに、お前らも潰しに来た」

「ようやくこの世界で生きていくか手を手に入れられたのにむざむざ放すか!」


 2人の体が闇に包まれ、変身した。美河の方は甲冑に天秤の絵を刻んだ軽装鎧だ。昔見た映画に出て来た、古代スパルタ戦闘服に似ている。つまり防具に当たる部分がほとんどない。代わりにマッシヴな肉体が協調されている。とは言っても、そこに女性的な特徴はほとんど残っていない。ただただ恐ろしい肉体だ。


 倉石の方は自身の能力を反映したかのように、何本もの縄を編み合わせて作った足軽鎧めいたものを身に着けている。どちらもそうだが、防御力よりも機動性を重視した出で立ちだ。同じ戦闘態でも姿形に特徴が現れる。

 ただ一点、鬼めいて恐ろしい形相と赤く輝く瞳を除いては。


「お前たちはここで死ぬ! 私たちが殺して死ぬ!」


 倉石は腕に巻き付いていた縄を解き、地面にだらりと下げた。そしてそれを鞭のように振り回す。蛇めいて死角を取る動き、どうやらあの縄は自在に動かせるようだ。防御と回避のために俺は身を固めた。その脇をリニアさんが抜けていく。


「ちょっ……!? 待ってくださいよ、リニアさん! 話が――」

「あの男を、八木沢六郎を殺すのは私だ! 他の誰でもないッ!」


 出し抜かれた。そんなことを言っている場合ではない、止めなければ。


「ハル、リニアさんを追ってくれ! こいつらの相手は俺が何とかする……!」


 俺が守らなければならないのは2人だけではない。村に囚われていた村人も戦闘開始を合図として逃走を始めたのだ。この戦いに巻き込まれれば、絶対に死ぬ。あいつらの攻撃を集中させて、尚立っていられるのはきっと俺だけだろう。


「武彦……分かった、こいつらは任せた! あいつのことは任せておけ!」


 ハルが動く。2人はそれを止めようとする。一瞬の隙を突きROMをシーフに変更、ファズマシューターで2人を牽制。ハルの動きをサポート。


「こいつ……! たった1人で私たちを倒すつもりでいるのか!」

「悪いか? どれほどの力を持っていようがしょせんお前らは……」


 プライドの高い2人の心を逆なでするために、俺は慎重に言葉を選んだ。


「与えられた力に酔っているだけの、ザコに過ぎねえんだよ」


 2人の転移者は怒りに任せ、俺の方に突進を仕掛けて来た。


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