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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第八章:反撃の時間
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14-素人仕事はすぐバレる

 リニア=モルレットの過去。それはもしかしたら、とてもありふれたものだったのかもしれない。貴族にとってはごく普通な、どこにでも掃いて捨てるほどある没落譚。だがそれでも、本人にとってはかけがえのない、命を賭けるべき動機なのだ。

 『界渡りの連合』に関する対策会議の翌日、俺たちは早速調査に乗り出した。エントランスで待っていると、まず厚着のハルが現れた。


「おはよう、相変わらず冷えるな。今日は大雪が降るそうだ……」

「寒いの苦手なんだよな。何かこう、ヌクヌク出来るタイプの魔法ない?」

「んな都合のいいものがあったら、こうも厚着はしていないよ」


 ハルは不機嫌に呟き、俺と同じく壁に背を預けた。無作法だと罵られそうだが、知ったことか。これでも無敵の転移者様なんだ。カッコなんて知るものか。


「八木沢がこの街に現れるとは……いったい何を考えているんだ?」

「案外何も考えてないのかもな。あいつらが何で王都を襲ったか知ってるか?

 この世界を支配したいからだってよ。つまり、この世界を何も知らないんだ。

 ここに攻めて来るのだって、もしかしたらその時の仕返しかも知れないしな」


 あいつらの考えることを、いちいちこっちが考えてなんていられない。


「それにしても、リニアさんがそんな理由で戦っていたなんてな……」

「運がなかったと言っていたが、あまりにも酷いことだったのは確かだよ」


 彼女に降りかかった運命、それは俺のものと概ね同じだった。彼女の父が戦場で死に、家督は叔父が継いだ。ただ、この叔父というのがクズだった。金を投機で溶かし、彼女にはいくらも資産は残らなかった。怒りをぶつけるべき叔父は既にどこかに消えていた。思い出も、何もかも彼女は捨てざるを得なかったのだ。


「二重の意味で、八木沢はリニアさんにとって仇なんだなぁ……」

「そうだな。親を殺した仇、そして家族をバラバラにした仇、というわけか。

 本来ぶつけるべき相手は既に存在しない。やりきれないな、こいつは……」


 ハルはため息をついた。

 室内にいるというのに、息は白く染まっていた。


「暖房、効いてるのか? いや、節約しなきゃいけないのは分かるが……」

「仕方ないだろ。オイルヒーターみたくすぐあったかくなるわけじゃ……」


 そんなことを言っていると、リニアさんが外からやって来た。いつもよりはるかに厚着だ。その下にはあの二刀を携えているのだろう。彼女は朗らかに微笑み俺たちの方に小走りで来た。果たしてその笑みはどこまで本当なのだろうか?


「すまんな、遅れた。それでは、行くとしようではないか」

「まあ、待ってくださいよ。行くったってどこに行く気なんですか?」


 この雪の中外に出るってんなら断固として反対する。吹雪は前日よりも遥かに勢いを増し、この世界を覆い尽くさんばかりの勢いで降っているのだから。


「うむ、まずは王都内を洗おうと思う。何か掴めるかもしれないからな」

「王都の中か……騎士団の外に裏切者がいるかもしれないと?」

「むしろその可能性が高いだろう。貴族は建前上王に忠誠を誓うが民は違う。

 それに、この戦争で間接的に影響を受けているのは貴族ではなく平民だからな。

 流通は滞り、移動は制限され、満足に娯楽を楽しむことすら出来ないのだ。

 不満は蓄積している」


 だからその不満をふっ飛ばしてくれる――自分たちごとだとは知らないだろうが――転移者たちに力を貸す、ということだろうか。筋が通っていないことはないだろう。だが、平民にどれほどの助力が与えられるかは分からない。


「それに、裏切っていなくても手掛かりを掴むことは出来るかもしれない」

「どういうことです?」

「奴らが単独で生きる術を得られるとは思えない。協力者がいるはずだ」


 そりゃそうだ。俺たちは狩猟採集農耕どころか魚の捌き方だって知らない奴もいる。八木沢なんてモロにそのタイプだったはずだ。


「囚われ、協力させられている人がいるかもしれない。それを調べたいんだ」

「なるほど! もし消えた人がいるならその場所を探して行けば……」

「相手の拠点を割り出せるかもしれない。さあ、行くぞ。時間が惜しいからな」


 俺たちは意気揚々と走り出した。

 一歩、あいつらに近付いている感覚があった。




 しかし、結論から言えばそれは気のせいだった。俺たちは人通りの少ない王都で、懸命に情報収集を行った。その結果、行方不明になっている人がいるのは分かった。だが、彼らの行方は知れず、また失踪した地点でさえまったくバラバラだ。これではダークに襲われ死んだと言った方がまだ説得力があるだろう。


「はぁー……なんていうか、上手くいきませんね。どうすりゃいいんでしょ?」


 そうは行ったが、ある意味で俺はほっとしていた。もし調べて拠点が分かったら、リニアさんは一も二もなくそこに行ってしまうだろう。相手に一切怯むことなく、仇を討つために。それは死へと続いている道だと確信出来る。


「こりゃ、ホントに全部足で調べる必要が出て来るんじゃ……」

「何を言っている、久留間。この情報があれば十分だろう?」


 思わず俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。

 これで十分って、どういうこと?


「でもリニアさん、俺たちが手に入れたのって失踪者がいるってくらいじゃ」

「だからそれで十分なのだ。そうだな、暖かい場所に行こう。それから地図だ」


 リニアさんはその辺の商店で適当な地図を手に入れ、喫茶店に向かって行った。俺はまったくワケが分からない。ハルは何かに気付いたようだったが。


「こういうのは図にした方が分かりやすい。こいつでやってみるか」


 リニアさんは調査の途中で取っていたメモを取り出し、地図と交互に見ながら記入を始めた。不愛想な地図上にどんどんキュートなマークが増えて行く。


「奴らは単純なミスを犯した。人材を調達するのに遠出をしなかったことだ」

「……あ! あー、なるほど。つまり、こういうことですね……!」


 王都の農業従事者が言っていた失踪者、そのポイントを記入していくと面白いことに、それは同心円状に並ぶのだ。つまり、これは……


「この真ん中の辺りから出てきた、ってことになる……」

「確証はない、だが可能性はある。行って調べてみるだけの価値はな」


 リニアさんは笑った。彼女を称賛する気持ちがある一方で、やはり分からない方がよかったのではないか、と思ってしまう。調べる価値はある、と言っていたが調べるだけで済むだろうか? 彼女の激情を押さえることは出来るのか?


(……もしそんなことになったとしたら、俺はこの人を絶対に守る)


 俺はこっちの世界に来て初めて、リニアさんに大分助けられた。ここのところまともに話をする機会もなかったが、シオンさんやレニア、ファルナ、ハルと同じく、この世界に来た俺を救ってくれた人だ。だから、俺も彼女を助けたい。

 復讐の手伝いをする。そして彼女を生かし続ける。それはかなりキツい。だが、やり遂げられなければここにいる意味はない。絶対にやり遂げてみせる。俺はその思いを新たにして、席を立ち移動を始めたリニアさんに着いて行った。


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