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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第八章:反撃の時間
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14-あいつらは世界を敵に回した

 王城、会議室。普段は騎士団の人間しか入ることの出来ない場所に俺たちはいた。すなわちハル、多良木、そしてリニアさんとバイソン。レニアとファルナは別室で待機している。騎士たちが防備する、この世で一番安全な場所で。


「王都に侵入を許したか。まったく、ままならんとは思わないかね?」


 俺たちの応対をしたのは、戻って来たドラコさんだった。朝までは彼に会ってそれでおしまい、と思っていたが、どうやら事態はそうは行かせてくれないらしい。八木沢六郎が再び、それもとんでもない切り札を伴って現れたのだから。

 リニアさんはハルを睨んだ。本来はここにいるべきではないが、事は王国とも協会とも根深い関わりを持つ『界渡りの連合』に関わる話だ。現場に居合わせたことも併せて話を聞きたいと、ドラコさんが提案して来たのだが……


「ハル、お前は知っていたのか? あの八木沢とかいう男のことを……」

「……知り合ったのは、ほんの数カ月前だったがな」


 リニアさんはあからさまに冷静さを失っている。エラルドでの話し合いの時、俺もこんな風だったのかなと思った。これなら他の人が俺を会議から締め出したのも理解出来る。リニアさんは春に噛みつかんばかりの勢いで叫んだ。


「なぜ私にあの男のことを教えてくれなかった!? あいつは父の仇だぞ!」

「分かっている、聞いていたさ! だがどう伝えればいい、あんな奴のこと!

 人一人殺すことなんて、あいつにとって造作もないし躊躇うこともないだろう!

 あんな危険な化け物のところに同僚を、友達を誘えって言うのか!?

 バカも休み休み言ってくれ!」

「私は父の仇を取るためならば命を賭ける。死んでも構わんッ!」

「そんなことは、私は容認出来ないって言っているんだよッ!」


 このままでは平行線だ。俺と多良木が2人をたしなめた。同時に、普段は聞き役に回り相手をなだめるハルとリニアさんがこんなに激しく言い合うなんて想像もしていなかった。リニアさんにとって親の仇というのはそれほど許し難いものであり、そしてハルにとって彼女はそれほど大切な友人だ、ということだろう。


「静まりたまえ。ここで言い合っても仕方があるまい……」


 ドラコさんの静かな喝を聞いて、2人とも取り敢えず言い合うのはやめてくれた。それにしても、とっととあいつらを始末しなければ収拾がつかなくなる。


「これ以上あいつらをのさばらせておくわけにはいかないでしょう」

「その通りだ。だが、彼らの拠点はいまだ我々も発見出来ていないのだ」


 あいつらが現れてから4年、ハルたちが現れてから1年。それだけの期間拠点を隠し続けられるとなると、これはいよいよ面倒な相手だ。考えられるのは何らかの力で拠点そのものを隠しているか、それとも裏切り者が隠しているかだろう。前者ならば物理的に発見できないし、後者ならあってもそれが分からない。


「あいつらを探し出さないと。協力しますよ、ドラコさん」

「何だ、久留間。お前にしては珍しくやる気じゃねえか、オイ?」


 多良木が不審気な視線を向けて来る。

 失礼な、俺はいつでも真面目だ。


「あいつらを放っておいたら王国そのものがダメになる可能性だってある。

 それだけじゃねえ、あいつらのせいでもう無視出来ない被害も出てるんだ。

 生かしておいて一片のメリットもありゃしねえ、さっさと潰すに限るぜ。

 そう思わねえか、多良木?」


 さすがにそこまでは思っていないようで、多良木は渋面を作る。こいつは芯の通ったお人よしだから、一時でも一緒にいた奴を殺すのは良心が咎めるらしい。別にそれでもいい、あいつらを殺すのは俺になる、ってだけの話だ。


「それに対応しなければならないのは奴らだけではない。開拓連合もだ」

「あいつらが攻撃を再開して来たって言うんですか? この雪の中?」

「雪中行軍など珍しいことではあるまい。驚くには値しないことだよ」


 そう言われても、彼らが大きな脅威になることには変わりない。なにせ戦闘態出現後は転移者が1人も死んでいない。織田くんまで向こうに行ってしまったのだから、こちらは戦力ダウンで向こうは大幅な戦力向上を果たしている。


「こちらの転移者も何人か殺されている。もはや予断を許さぬ状況だよ」

「なっ……! こっちの転移者って、いったい誰が?」

「王国騎士団直轄、宮田(みやた)征四郎(せいしろう)。そして青村(あおむら)優奈(ゆうな)が亡くなった。

 比較的西方に近い位置にあった領地についていた野宮(のみや)(ゆう)もな」


 まさか味方がやられるとは。

 戦力ダウンどころの話ではない。


「バイソンくん、そしてイーグルくんは引き続きこちらにいてもらいたい。

 橡くんにも残って欲しかったが、そこまで言うのはさすがに贅沢というもの。

 それから久留間くん、キミにも出来ることなら戦いに参加してほしいのだ。

 この世界を守るためにな」


 この世界だのなんだのは、正直なところどうだっていい。だが、レニアとファルナが俺の方を見上げて来る。行けと言っているようだった。幾とも、行かなきゃお前たちを守ることなんて出来ないんだからな。


「分かりました。ただ、出来るだけ2人の傍にいてやりたいんです」

「分かっている、その辺りのことは考慮しよう。離れる必要はそうないさ」


 俺はほっと息を吐きかけた。だが、それがすぐに間違いだと気付かされた。


「なにせ、キミが行く場所はここからそれほど離れていないのだからね」

「え、どういうこと……って、え? まさか、そんな、まさかですよね?」


 俺たちが俺たちの事情に囚われている間に、世界は尚も進んでいたのだ。


「王国は領地奪還に失敗した。西方はいまもなお、その勢力を広げつつある。

 我々は王都から10Kmも離れない位置にいる連中を叩き伏せる必要がある。

 そのためには、人間の力だけでなくキミたち転移者の力も必要なのだ。

 よろしく頼んだよ、久留間くん」


 圧倒的に不利な状況にあるというのに、ドラコさんはあの時と変わらない笑みを浮かべていた。俺は引き攣った笑みのようなものを浮かべるしか出来なかった。


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