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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第八章:反撃の時間
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13-人の気持ちが分からない奴はなんでキレるのかも分からない

 リニアさんは部屋に入るなり片膝を突き、恭しく頭を下げた。


「お久しゅうございます、教皇猊下」

「最後に会ったのは就任の日だったか? まあいい、掛けたまえリニアくん」


 教皇はやたらと装飾が多くゴテゴテした出で立ちでありながら、それを感じさせない軽やかさでこれまた華美な黄金装飾の施された椅子に腰かけた。リニアさんは立ち上がり、彼の対面に座る。俺たちには席を勧めてくれないらしい。


「レニア様に、ファルナ様。こうして直接お会いするのは初めてことかな?」


 ニヤリ、と教皇の唇が歪んだ。2人はその姿に威圧感と恐怖を覚えたようだ、最低限の挨拶だけをして目を逸らす。醜悪なわけではないが眉目秀麗というわけでもなく、失礼な言い方になるが取り立てて特徴のない顔立ちの男だ。体格も、ルックスも、声の高さでさえすべてが平均的。『普通な』という形容詞を形にすればこんな男になるかもしれない。

 だが目の前にいる男は紛れもなく、この世界を支配する一大宗教のトップだ。


「さて、語らいたいが私もそれなりに忙しくてね。本題に入ろうじゃないか」


 まるで『お前と話している時間はない』とでも言うような口ぶりだ。きっと本心からそう思っているのだろうが。リニアさんは意を決して口を開く。


「我ら七天教会、野蛮なる西方侵略者との戦列に参戦すべきと愚考します」

「まさしく愚考だな。我々は武装中立、王国と西方の間に立つ者なのだぞ?

 で、あるならば片方に肩入れし、片方を滅ぼすようなことが出来るはずはない。

 そうなれば我々の正当性は消滅し、お前の言う野蛮な侵略者と変わらなくなる。

 律さねばならぬのだよ」


 リニアさんが言うことも予想がついていたし、回答もあらかじめ用意していたのだろう。言い終わらないうちから教皇は持論を、教会の方針を語った。


「しかし、西方は一切の宣戦布告もなく侵略行為を仕掛けて来ているのです。

 西方は国家として承認され、教会法に縛られる者となったのです!

 罪人を裁かず何が法か!」


 リニアさんは激した。教会法とやらが何なのかはよく分からないが、要するに利害が絡み過ぎる国際法を当事者間でなく第三者によって制定しているのだろう。イメージとしては現実の国連とか、そう言う感じ。あまり役に立ちそうにはない。


「教会法はあくまで理念法。現実的な対処を行うためのものではないよ」

「従わぬものを異端者として処罰しておいて、よく言われる……!」


 身を乗り出し、噛みつかんばかりの勢いでリニアさんは教皇に詰め寄ろうとした。俺はその肩を掴んで引き戻す、これ以上はいけないだろう。


「左様。分からぬようだな、リニア。法など我々の胸三寸よ(・・・・・・・・・・)


 そう言われて、今度こそリニアさんは言葉を失った。


「執行を決めるのは我々だ。王国でも、お前でもない。七天教会だ」

「虐げられている民を救うために、我々は存在するのではないのですか!?」

「そう言う考え方も出来る。だが傷付き倒れるための奥には幾千万の民がいる。

 感情で救う救わぬを決めていたのでは、より多くの民を助けることは出来ない。

 我々の利益を守ること(・・・・・・・・・・)が民を守ることに繋が(・・・・・・・・・・)()


 あまりの物言いに、リニアさんは反論することすら出来なくなった。


「王国は明らかに教会の影響力を排除しようとしている。

 助ければ死期を近付けるだけ。

 何、我々も王国を見捨てようというのではない」


 にこりと微笑み、教皇セプタは悪辣な本性を露わにした。


「新王が頭を地にこすりつけ懇願するのならば、考えてやらんでもないさ」


 そう言うと、教皇セプタは壁に掛かった時計を確認した。


「それでは、階段の時間はこれで終わりだ。有意義な時間だった、リニア」


 教皇はたっぷりと侮蔑、そして嘲笑が混ざった視線をリニアさんに向けて微笑んだ。そして併設された自動ドアから出て行った。追い掛けようとするが、ドアは何らかの認証がなければ開かないようになっているらしい。俺が前に立ってもうんともすんとも言わなかった。別に何を言えるわけでも、考えているわけでもないが。


「教皇、猊下。あなたが、そのようなことを……」

「何期待してたか知りませんけど、そんなもんですって。しょうがないよ」


 予想していなかったわけではない。所詮人間、自分の利益を守れなければ動くわけがないのだから。だが予想に反して、リニアさんは激しく反発した。


「仕方がない!? 仕方がないだと!

 いまこの瞬間も飢えと寒さに苦しめられ、命を奪われている人がいるというに!

 それを仕方ないと嗤うお前はいったい何だ、久留間! 何様のつもりだ!?

 ふざけるな、仕方ないなど……そんなことがあるワケあるか!」

「ちょっ……!? ちょっと、落ち着いて下さいよリニアさん。俺は一般論を……」


 リニアさんは激しく起こり、地面に両手を叩きつけて立ち上がった。そしてエレベーターに乗り込む。彼女に置いて行かれたらここから出られない、慌てて俺たちもエレベーターに乗る。凄まじく気まずい15秒間が流れた。

 扉が開くなりリニアさんは肩を怒らせてエレベーターから降りて行った。入る時にいた連中はいまもいて、彼女に侮蔑的な視線を投げつける。入ってきた時と違うのは、彼女がそれに対して明確な反応を示した、ということだ。戦巧者に睨まれ、彼らはバツが悪そうに視線を逸らした。彼女は俺たちに挨拶もせず出て行った。


「久留間ァ、お前がキレさせたんだ。ちゃんとフォローしておけよ」

「いや、そりゃもちろんだけどさぁ……なんでキレたのか分からねえんだよ」

「だったら私も着いて行ってやる。そうだな、話をする時間くらいはある」


 そう言ってハルはリニアさんの後を追った。子供たちの世話を多良木に任せて俺も続いて行く。小さな雪の塊が外に出た途端、俺の首筋に張り付いた。


「冷たッ。降って来たなぁ、さっさと連れ帰さなきゃ風邪ひくぞ」


 リニアさんの歩みは意外にも早く、俺たちはさっそく彼女の姿を見失ってしまった。さて、どうするべきか。と思ったがハルは迷いなく進んで行く。


「リニアさんがどこ行ったのか分かるのかよ、ハル?」

「あの人が王都でどこかに行くならば、あそこしかないってくらいにな」


 降り始めた雪は激しさを増し、視界すら覚束なくなってくる。嫌な夜だ、何もかもが覆い尽くされ、消えてしまう。まるでこの世界そのもののようじゃないか。


ブックマーク200を越えました。

皆様、本当にありがとうございます……!

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