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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第八章:反撃の時間
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12-ペナルティは主人公補正で無効化できる

 あれだけの人数の村人をすぐに逃がすことは出来ない。追撃を受ければ幾人もの死人が出るし、防衛のために多くの手を割かれることになる。

 そこで考案したのが、次元城を利用した村民全員の一斉退避だ。


「ッハッハッハ! やったな、あいつらの顔見たか? 痛快だぜありゃあ!」


 エレベーターでエントランスに上がると、そこには多くの人がひしめいていた。彼らを一応監視するのはホワイトマスクたち。事前に説明はしておいたがほとんどの人は状況を理解し切れていないらしく、おろおろと周りを見回していた。


「タートルと合流するぞ。無理な飛行、どれだけのリスクがあるか……」


 生真面目なシャドウハンターはすぐさま動き出した。次元城は次元高校の最中で撃墜されこの世界に来た。飛行機能のすべてが死んでいるわけではないが、何があるか分からないとアースタートルは最後まで使用を渋っていたのだ。


「タートル。状況の確認がしたい、少し、時間を……」


 書庫に入った瞬間、シャドウハンターは言葉を失った。俺も続いて室内に入り、状況を理解した。アースタートルは何本ものケーブルを首筋の端子に接続し、ベッドに横たわり白目を剥いている。初見だとちょっと引くくらい酷い。

 俺たちが言葉を失っていると、ARモニターが中空に現れた。そこにいくつかの文字が羅列されるが、しかし俺は彼らの言葉を理解出来ない。


「……現在次元城と直結し、維持に専念している。

 耳は聞こえているので、質問は事由にしてくれて構わない、か。

 すまんな、無茶をしてもらったようだ」


 シャドウハンターは殊勝に頭を下げる。新しい文字列がすぐに印字された。『気にするな』ってところか? 何となく想像出来る、微笑ましい場面だな。


「……何をニヤついている? 貴様の無茶には付き合い切れんそうだぞ」

「うげっ、んなこと言ってんのかよ。勘弁してくれよ、本当にさぁ……」


 俺の提案がなかったら、村人ごと全員死んでいたかもしれないんだぜ?


「まあいい、現状の確認だ。次元城の方はどうなっているんだ、タートル?」


 そう言うとARが刷新される。今度は俺にも分かるよう同時通訳風だ。


『次元城の飛行機能はいまのところ正常に動いている。

 ただ、積載量が想定している120%強になっている。

 長くは保たないぞ。早く着陸出来る場所が必要だ』

「うーん、やっぱ無茶させちまったか。でもまあ、仕方なかっただろアレ」

『無論必要性は理解している。だが当然、着陸する場所も確保しているな?』


 そう言われて俺は言葉に詰まった。参ったな、次元城が収容出来るほど巨大で、しかもある程度の深さを持った場所なんてそうそうあるわけが……


「……ワードナ。いまはほとんど人が住んでない。移住にはうってつけだ」


 正確に言えば、まだ戦後処理も済んでいない。村には死体が溢れかえり、破壊されている場所も多いだろう。だが食料があり、土地がある。ダークたちは物を食べないので、彼らが作り出した食料が無駄になっていないことだけが救いだ。


「しばらくは次元城で匿ってもらえるか? 準備すれば、降ろせるはずだ」

『心得た。それはそうと、シャドウハンター。話しておきたいことがある』

「ファズマコートのことだな」


 ファズマコート?

 そう言えば何か、新兵器があると言っていた気がする。


「……あっ! ってことはなんだ、お前らまで俺のパクってるのかよ!?」

「後追いになってしまったがな。だが目を付けたのは俺たちが先だぞ」


 シャドウハンターは事も無げに言った。チクショウ、この野郎ども。


「だが失敗だな。今回実戦で使用したが、ファズマのコントロールを失った。

 まだまだ改良の余地はありそうだ。少なくとも長時間使用出来る程度の……」

『その事だが、シャドウハンター。あれは機械的なトラブルではなさそうだ』


 シャドウハンターが黙り、タートルの方を見た。何を言っているのかよく分からなかったが、合流した時彼は新兵器を使っていなかった。これまでの話を総合すると、実戦で使用している最中に何らかの不具合が生じたのだろう。


「全身のサイバネティクスの制御を失った。電子的なトラブルではないと?」

『ファズマコートを解除した途端、コントロールが回復したのは確認した。

 色々な原因はあるだろうが、それでもやはりしっくりこないんだよ。

 シャドウハンター、どう思う?』

「……そう言えば、あの時何か『声』を聞いた気がした。怨嗟に満ちた声を」


 その言葉を受けて、アースタートルは音声データの再生を始めた。先ほどの戦いのものらしいが、しかし戦闘音と3人の声しか聞こえるものはない。


『サイバーイアの録音機能に、そのようなものは記録されていないな』

「だが確かに聞いた。機械の俺が言うのも何だが……背筋が凍るような声を」


 声か。俺もよく聞いている。もしかしてあれか?


「俺も聞いたことあるぞ、それ。何かよく分からねえ低い、あれだろ?」

「……何だと? お前もあれを聞いて、あれを感じているのか?」

「博士が言ってたんだけど、確か……あれは死人の声、らしいんだよな」


 ファズマはこの宇宙を満たすエネルギーだ。だがそこには純化し切れなかったエネルギー、いわば残留思念のようなものがあったという。そのせいでファズマは実用化することが出来なかった、と博士は言っていたような気がする。


「何人か心的外傷を負ったとかで、プロジェクトが中止になったらしいな。

 ああ、そうそう。電子機器がよく分からん理由でショートしたこともあるらしい」

「お前……そんなものを聞いて何故無事でいられるんだ?」

「え? だってささやいて来るだけだろ。鬱陶しいけど特に何もねえしなぁ」


 恨み言を言って来るだけだし、俺は特に問題なかった。シャドウハンターは黙ってしまう。何だ、こいつも思っていたよりも繊細な奴だったんだなぁ。


「……ともかくファズマの副作用を無力化するまで戦闘運用することは出来ん」

『こちらでもどうにか出来ないか探ってみるよ。

 それと、キミたちはこれからどうするんだね?

 我々と一緒に来てくれるか?』


 村人やディメンジアの人々とともにワードナに向かい、彼らの定着を手伝うか、それとも一度バルオラに戻り、彼らの受け入れ態勢を整えるか……


「一度バルオラに戻ろう。これはみんな見ているはずだ、混乱が起きているかも」

「だろうな。向こうには何も話を通さずにこんなことをしてしまったのだ」

『ならばフライングソーサーを使うといい。徒歩よりはマシだろう』


 実際のところ徒歩とそんなに変わらないのだが、わざわざ好意で出してくれるのだ。ありがたく使わせてもらおう。それにここで終わりってわけではない、あれが使えれば出来ることの幅は大きく広がる。俺たちは格納庫に向かった。


「……やはりお前はイカれていたのだな、久留間」

「はぁ? いきなり何言ってんだ手前。喧嘩売ってんのか?」

「……ふん、行くぞ。来たくないのならば話は別だが、な」


 シャドウハンターは鼻を鳴らして歩き出した。


 まったく、何なんだこいつらは?

 俺はシャドウハンターに続き、格納庫へと向かって降りて行った。


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