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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第二章:世のため人のために力を使う? んなワケないじゃーん!
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02-クエスト1、村を救え!

 また3日を掛けて、俺たちはエラルド領主の屋敷があるバルオラ村に戻って来た。帰りはハルの話を聞いたり、リニアさんとの思い出話を聞いたりしたので、結構楽しかった。ここに来るまでの間の苦労を、彼女は滔々と語ってくれた。

 村を横断する道路を抜け、小さな堀を越えると屋敷の全景が見えて来た。相変わらず立派な邸宅だが、どこか慌ただしいようにも見えた。


「おや、どうかいたしましたか?」


 アルフさんから案内されて馬車から降りながら、シオンさんは手近にいた者に話しかけた。声を掛けられたレオールさんは作業を中断し、主に向き直る。


「これはこれは奥様。申し訳ありません、お出迎えも出来ませんで」

「何か緊急の件があったのでしょう? それならば仕方ありません」

「面目次第もございません。実は、屋敷に新たな転移者が現れたのです」


 応接間に通されたという転移者に会うために、シオンさんと俺、ハル、それからリニアさんは着替えも早々にそちらに向かった。何が起こってもいいように、とのことだ。シオンさんが応接室のドアをノックすると、驚いたような声が聞こえて来た。


「……うん? ハル、この声に聞き覚えある気がするんだけど」

「女の声だったな。すまん、顔を見てみないことには何とも……」


 扉が開かれ、その姿が目に飛び込んで来る。

 俺は直感が正しいことを知った。


 そこにいたのは、薄汚れた白いナイロンのシャツに身を包んだ少女だった。かつてはまだ下手な化粧を施していた顔は擦過傷と土、そして血に汚れ、服にもいくつかのほつれや傷が見て取れる。しかし、それでも彼女が可愛らしい女の子であることに変わりはない。

 緩くフワフワとした長い髪――整髪料の色が残っている――、くりくりとした大きな目、赤々とした唇。ハルとはタイプの違う女の子のことを、俺は知っている。


「……中西さん!? あなたも、こっちの世界に来ていたのか!」

「えっ……久留間、くん? それから、あなたも……」

「世木春馬だ。無事でよかった、中西さん」


 彼女は俺たちの事を見て困惑しているようだった。無理もない、生きているとさえ思っていなかったのだろう。彼女の名は中西(なかにし)桜花(おうか)、俺のちょうど真後ろの席にいた女性だ。ハルはぶっきらぼうに問いかけた。


「今までどこにいたんだ、中西さん? 一年もの間どうやって……」

「こっちの世界に来て何も分からなくて。迷っていたら親切な人に拾われたの」


 彼女は1年前こっちの世界に転移して来た。彼女を保護してくれた老夫妻は快く彼女を受け入れた。彼女も畑仕事などを行い、村のために働いて来た。


「平和な日常が続いていたんです。でも、それが、あんなことに……」

「落ち着いて、中西さん! ショックだと思うけど、話してくれないか?」


 中西さんは嗚咽を漏らしながらも頷いてくれた。

 話を総合すると、こうだ。


 ある日、黒づくめの連中が村を襲って来た。彼らはダークのようだがダークではなく、白い仮面をつけて変な叫び声を上げるおかしな連中だった。男衆が村を守るために立ち上がったが、まるで歯が立たなかった。彼女は保護してくれた老夫婦に促されて村から脱出した。助けを呼んできてくれ、と頼まれて。


「ダークじゃない怪物、か。どうやってそれを見分けたんだ?」

「私にはダークか、ダークじゃないかは分かりません。

 でも、日常的にダークを見ている村の人たちには見分けられるそうです。

 私に言えることは、それくらいなんです……」

「大変な目に遭ったな、中西さん。シオンさん、どうにか出来ますか?」


 ダークか、それに類する怪物が出たとなれば一大事だ。もしかしたら兵士を派遣してくれるかもしれない。しかし、予想に反してシオンさんは首を横に振った。


「バルオラの防衛戦力はそれほど多くはありません。他所にはとても」


 バルオラには常備軍がない。仮に戦争になれば民衆から志願兵を募る、あるいは武装神官ギルドから傭兵を募らなければならないのだという。彼らが保持している戦力はアルフさん、それからレオールさんなど、取り敢えず戦える人を含めても片手で数えられる程度しかない。だからこそ、村々には自治と自衛が求められるのだが……


「とは言え、放置しておけないのも事実です。

 リニア様、正式な依頼として本件を武装神官ギルドに発注いたします。

 正体不明の襲撃者に襲われた村を助けなければ」

「あい分かった。ではあとで一筆いただこう。とはいえ、すぐに人が集まるか」


 リニアさんがちらりと視線を俺の方に向ける。心得たものだ。


「分かりました、ならば俺が村の救援に向かいましょう。

 すでに俺は武装神官の一員であり、出歩いても問題はないでしょう?」

「そういうことだ。して、娘。お前はどこの村からここまで来たのだ?」

「南に少し行ったところにある、ハプトンという村にです」


 どれほど歩けばいいのかは分からないが、整備されていない山道を歩くのはさぞつらいことだっただろう。心中を察する、必ず助け出さなければ。


「あの、私も行かせてください。道案内くらいは出来ると思いますから」

「自分の村は自分で取り戻したい、と。その意気やよし。構わんな?」

「出来ることなら危険には晒したくないけど……分かりました」


 俺は中西さんに手を差し出した。彼女は俺の手を取って立ち上がり、そしてよろけた。倒れかけた彼女の体を支えると、甘い香りが漂って来た。


「まだお疲れのようですね。出発は明日にした方がいいでしょう」

「でも、こうしている間に村のみんなは傷つけられているのに……」

「いま行っても倒れて迷惑がかかるだけだ。体力を回復しな」


 ハルのぶっきらぼうないい口をきいて、中西さんは弱々しく頷いた。彼女はメイドさんに促されて客室へと送られた。シオンさんはため息を吐く。


「苦しい道のりになると思いますが、よろしくお願いします。久留間さん」

「もちろんです。苦しんでいる人を助けるのが、俺の仕事ですからね」


 来る前に女神様とやらに言われた言葉を思い出す。この世界を救ってくれ、と。何をもって救いになるかは分からないが、まずは出来ることからだ。シオンさんとリニアさんは退席し、応接室には俺とハルだけが残った。彼女は舌打ちした。


「何だか怪しいな、あの女。何かを隠している気がする」

「オイオイ、それはちょっと穿ち過ぎなんじゃないのか?

 いくら中西さんがお前よりモテるからって嫉妬はよくな待て待て待て!

 すぐに魔法陣を書くのはやめろ!」


 俺を殺しかけたのにまだこんなことをしようとするか、この娘は。


「まあ、中西さんが胡散臭いのは俺も分かってるよ。警戒していく」

「気を付けろよ、取って食われるようなことになったら洒落にならん」


 この警戒の仕方はパラノイアチックな気がするが……まあいい、ツッコミ入れないでおこう。気にするべきことはもっとある、彼女が遭遇した敵についてだ。


(白い仮面、まさかね……あいつらがこんなところに来ているはずがない)


 だがその外見は、どうしても次元帝国ディメンジアを想起させた。


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