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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第八章:反撃の時間
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12-浮上! 時を駆ける城

 シャドウハンターは己の神経系の制御が徐々に効かなくなってきているのを理解した。HMD上では警告メッセージが躍る、その原因は不明。しかし明らかに闇色の霞、ファズマ関わっていることは明らかだった。


「ヌゥーッ……! 致し方、あるまい!」


 最後の力を振り絞りハンドヘルドを操作、ファズマコートを強制的に解除した。彼の全身を覆っていた装甲が音を立てて崩れ、彼は元の姿へと戻った。


「……? 何をしているんだ、お前。血迷ったか?」

「ふん……貴様ら程度の力ならば、あの力を使うまでもないと判断したまで!」


 不利を悟られぬように、シャドウハンターは精一杯虚勢を張った。だが、生体部分から脂汗が流れる。呼吸が乱れる。全身が不自然に軋む。虚勢を維持するのも楽ではない。幸い敵はシャドウハンターの不調には気付かなかったが。


「まあいい、そちらから力を手放してくれるというのならばなッ!」


 赤糸威を纏った草薙良治が驚くべきスピードで突進を仕掛けて来る。防御を固めようとしたシャドウハンター、だが何かがそれを止めた。横目で見ると、剣がサイコキネシスによって掴み取られていた。シャドウハンターは剣から手を放し、避けようとした。だが間に合わない。鋭い袈裟切りが胸部装甲に叩きつけられた。

 何度このやり取りをしただろう、とシャドウハンターはぼんやりと思った。水平に吹っ飛んで行く自身の視界、銀色の物体が飛んでくるのが見えた。身を捻り、精一杯の抵抗をするが致命傷を避けることしか出来なかった。脇腹にブレードが突き刺さり、彼は平原にあった岩塊に縫い付けられた。HMD上で赤い表示が乱舞する。


「何だ、こいつ? 人間じゃあない……のか? おかしな体をしているな」


 シャドウハンターは痛覚を遮断し、覚醒作用のあるコンバットドラッグを注入した。意識を保ち、ブレードの柄を持ち、無理矢理自分の体から引き抜く。


「悪いが、この程度で殺されてはやらん。俺は少ししぶといぞ……!」

「ならば、死ぬまで殺すまでのことだ。ここに来たことを後悔するがいい!」


 草薙は上段に剣を構え、地を蹴った。爆発的な加速、回避も反撃も防御も不可能。シャドウハンターは覚悟を決めた。敵と刺し違える覚悟を。


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆


 村の脅威を排除し、俺は西方の拠点へと向かった。シャドウハンターの安否は気になるし、作戦を達成するには転移者を確実に足止めする必要がある。いずれにしろ俺たちは働き詰め、戦うって大変だ。けれども仕方がないとするか。


「おおッ……!? 何だ、思ってたよりヤバい感じかあれ……!?」


 平原を走る俺が見たのはシャドウハンターが鎧を纏った男にふっ飛ばされる瞬間、そして彼を追って彼のブレードが飛来していく瞬間だ。シャドウハンターは突き刺さった剣を引き抜きよろよろと立ち上がる、完全な満身創痍だ。


「しょうがない、頑張って命助けちゃいますか……!」


 ROMをシーフに交換、再変身。最大戦速で赤糸威の男に突進を仕掛けた。全く予想外だったのだろう、無防備な側面を取られ男は弾き飛ばされた。当たった時に分かったことだが、結構力が強い。真正面から当たればこっちが弾かれる。


「お前は……!? なるほど、報告にあったあれか!」

「あれとかそれじゃなくてファンタズムって呼んでくれないかなぁ?」


 ROMを再交換、ファイターに変身する。

 俺は横目でシャドウハンターを見た。


「よう、相棒。生きているかい? やっぱり頼りになる仲間は必要だろう?」

「貴様が頼りになると思ったことはない。命を拾ったことは事実だが、な」


 シャドウハンターは尚も減らず口を叩く。

 素直になれない困った奴め。


「1人転移者が増えたところで、お前たちを取り巻く状況は変わらないよ?」


 周囲の草原からガサガサと草木を倒すような音が聞こえて来る。それは周囲から殺到して来たダークが立てる音だった。どうやら敵はこちらを脅威と判断し、排除に全戦力を投じる気になってくれたようだ。これでいい、好都合だな。


「いくら転移者だろうが、この数を相手には一溜まりもあるまい!」

「それは分からねえけど、こっちもまともにぶつかり合ってやる気はないよ」


 そう。最初からまともにぶつかり合う気などない。俺は指を鳴らした。


「――なっ、バカなーッ!?」


 ちょうど俺が指を鳴らしたのと同じタイミングで、村の住居が爆発した。炎が立ち上り、黒煙が村を包み込む。爆発は連鎖していき、宵闇の静寂をも切り裂いた。空は赤々とした炎に照らされ、さながら流血しているかのようだった。


「これは……!? バカな、村人ごとお前たちは……!?」

「そんなわけないじゃないか。ただ村をぶっ飛ばした(・・・・・・・・)だけだ」


 この村を捨ててもらうこと。それが俺が考え出した作戦。この村にあるすべての物資を焼き払い、内地へと移ってもらうこと。当然、反対意見は多くあった。この村は彼らの人生のほとんどすべてであり、それを捨てられなかった。

 ただ、最後には西方への嫌がらせという名目が勝った。自分たちを虐げた連中に、ほんの少しでも仕返しが出来ればよかった。どうせここに残しても西方に利用されるだけの物資、ならば敵に打撃を与えられるだけ有効な使い方だ。


「計画最終段階終了、っと。さっさと退くぜ、シャドウハンター!」


 密かに取り出しておいた増設アダプタにシーフROM、そしてファイターROMをセット。爆炎に気を取られているうちに再変身した。


「しまっ――!?」


 トリガーを引き斬撃を拡張、草薙と禰屋を牽制する。一瞬生じた隙を突いてシャドウハンターの体を抱え、全力で駆け出す。道を塞ぐダークはシャドウハンターが始末してくれた。この上ないくらいの大成功、思わず笑えてしまう。


「ちっ、気安いことだな。ここから生きて出られるかも分からんぞ?」

「平気平気。村が爆発した程度であんなに狼狽するような連中なんだぜ?

 これから起こることを見たら、きっと倒れて悶えて失禁してくれらぁッ!」


 甘い見通しなのは分かっている。

 だが、きっとそうなってくれると思った。


「くそッ……!? 逃がさん、逃がすか! 貴様ら、この落とし前を――」


 拡張斬撃を切り抜けた草薙が叫ぶ。

 だが、そのトーンはすぐに小さくなった。


「バ、カな……こんな、そんなことがあり得るはずはないだろう……!?」


 予想通りたっぷり驚いてくれたようだ。山の向こう側から現れたフライングソーサーを見て。メカニカルアームで回収される途中、俺は奴らの表情をもう一度見返した。驚きのあまりそこから動くことすら出来ないようだ。


 なぜなら彼らの眼前で、次元城が浮上を始めたのだから。


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