表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第八章:反撃の時間
108/245

12-闇の闘士シャドウ

 目の前でそれと相対した草薙良治は、それが放つ異様な気配に戦慄した。魔素ではない、ダークとも転移者とも違う。明らかにこの世のものではないが、それゆえにすさまじい力を秘めているということがよく分かった。


「なるほどな、これがあいつが使っていた力か……!」


 0と1、立ち上る蛍光グリーンの障壁の中シャドウハンターはつぶやいた。彼が身に着けていたのは、漆黒のフルプレートだった。胸元にはディメンジアの紋章が刻まれており、そこから銀色のエネルギー・ラインが四肢と頭に伸びていた。


「その姿……何者だ、貴様。そのような力は報告には上がっていなかったぞ」

「戦場は常に変転する。現在は容易く過去となり、未来に浸食されて行く」


 ヘルムのスリットが赤く輝いた。変身完了。

 眼前に現れた強敵に、草薙は本能的に戦闘態を発動させていた。彼の体が赤いオーラに包み込まれ、全身を赤糸威鎧めいた装甲が包み込んだ。鬼めいた恐ろしいマスクの向こうから純粋な瞳がシャドウハンターを睨む。一瞬の静寂、そして爆発。両者はほぼ同時に地を蹴った。

 コンマ1秒の間に20mはあった両者の距離は0まで縮まっていた。剣と剣とがぶつかり合い、火花を散らす。押されたのは草薙だ、戦闘態を発動させてなお、シャドウハンターの力は彼を上回っていた。舌打ちし草薙は一歩引き下がる、シャドウハンターはそれを追い剣を振るう。いくつもの光が閃いた。


(これがファズマの力、ファンタズムの力! なるほど、これなら!)


 剣を袈裟掛けに振り下ろしながらシャドウハンターは体当てを仕掛けた。草薙は尖ったショルダーアーマーの一撃を受け、火花を散らしながら吹っ飛んで行く。見事な空中制動でぐるりと回転、刀を地面に突き刺し着地した。


「強いな、貴様。これほどの力を持った奴と終ぞ出会ったことがない」

「来い。貴様の力はそれだけではあるまい、全力をもって掛かって来い」


 シャドウハンターは切っ先を向けた。

 それを見て、草薙は自嘲気味に笑う。


「残念だが、当てが外れたな。俺に出来ることはこうして戦うことだけだ。

 俺の剣に乗っているのは俺の力だけ。特別な力など存在しないのさ……!」


 剣を振るうことだけに特化した力。草薙は正眼に構え突進を仕掛けて来た。力はいまのシャドウハンターには叶わない、だがスピードはいまの彼よりも速い。シャドウハンターは素早い打ち込みをギリギリのところで捌き、致命傷に届かぬ攻撃を鎧で受け止めながら反撃の機会を伺った。だが、敵の隙は少ない。


(ならば無理矢理にでも隙を作るしかないな……これでッ!)


 シャドウハンターはブレードのトリガーを引いた。ファンタズムの力を研究し、実用化したものだが、あれほど趣味的なものではない。シャドウハンターのHMDに表示が流れ、刀身にファズマが充填された。草薙がピクリと震えた。

 充填されたファズマを受け、刀身の周辺が陽炎めいて揺らめいた。シャドウハンターは両手で剣をしっかりとホールドし、なぎ払った。青い炎の如き軌跡を描きながら剣が草薙に迫る。防御のために掲げた剣をあっさりと弾き飛ばし、返す刀で振り払った剣が草薙の甲冑を抉った。悲鳴と火花が散り、草薙が吹っ飛ぶ。


「これで終わりだ! 喰らえィッ!」


 シャドウハンターは尚も攻撃の手を緩めず、剣を上段に構え振り下ろした。青い炎が刀身から分離し、草薙に向かって飛んで行った。水平に吹っ飛ばされる草薙の体に追いついた炎の剣が草薙に叩き込まれる。草薙は追撃を受け満身創痍になっているが、仕留めるまでシャドウハンターは油断しない。手首を返しもう一撃。

 しかし、追撃は草薙を捉えなかった。拠点から半透明の何かが伸び、草薙の体を包み込んだ。草薙の体は物理法則を無視して沈み込み、炎の刃を逃れた。地面に叩きつけられ、バウンドした草薙はその衝撃で意識を取り戻した。


「くっ……! 禰屋か、すまんな。やられるところだったぞ……!」


 剣を突き立て草薙は立ち上がる。満身創痍と言った感じだが、その目から闘志が消えることはない。危険な状態に突入してしまった、とシャドウハンターは判断した。こうした死にかけの獲物ほど最後の最後まで油断ならないのだ。


「あまり突っ走るなよ。我々は一蓮托生、キミの命は我々の命でもあるのだ」


 拠点の方からゆっくりと人型が歩み寄って来る。奇術師めいた出で立ちの男だ。仕立てのいいロングコート、その下にはジャケットとシャツ。たるみのないネクタイ。更にシルクハットと長いマント、皮手袋。場違いな印象が強い。

 ただし、そのすべてはモノトーンだった。白と黒だけの色彩の中、フルフェイスマスクだけが異彩を放っていた。三日月のように開かれた真っ赤な口元、水色のティアドロップ模様、爛々と輝く黄金の瞳。背中には黄金に輝く後光を背負っている。アイバルゼンに現れたもう1人の転移者、禰屋光弘だ。


「倒すべき敵がそちらから現れてくれるとは。幸運、というべきなのだろうな」

「さあ、どうだろうな? キミが俺に倒される可能性もあるかも……」


 禰屋はクツクツと笑いながら近付いて来る。シャドウハンターは剣を構え、接近に警戒した――と、その時。彼の肉体と精神に異常が起こった。


(((殺せ、殺せ、殺せ! 殺せ、殺してしまえ!)))


 突然、シャドウハンターの脳に圧倒的な殺意が叩きつけられた。思わず呻き声を上げてしまうほど強烈な思念。攻撃を警戒したが、そうではない。


(これは、まさかファズマの力なのか……!?)


 彼の全身を覆う装甲が不吉に波打ち、黒い靄を生じさせた。徐々に体の自由が利かなくなってくる。スリットに隠れた瞳が、闇色に輝いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ