12-村を守るためならば村をぶっ壊しても構わない
爆発。爆炎。煤煙。
辺り一帯を光と音が満たし、破壊した。
「何だ、これは!? まさか、住民たちが俺たちに攻撃を……!?」
狼狽した兵士の懐に潜り込み、顎先に拳を叩き込む。首が90度曲がる、常人なら一撃で命を落とすか、よくても意識を失う攻撃。だが歴戦によって鍛えられた兵士はそれを受けても意識を失わず、闘志も萎えさせなかった。
横合いから鳥型のダークが突進を仕掛けて来る。追撃を行おうとしていた俺はその動作を中断し、裏拳でダークを迎撃。背後に視線を回すと、次の矢が見えた。事ここに至っては追撃を諦めなばなるまい。側転を打ち矢を回避、兵士に向かって言った矢は獣型のダークが受け止めた。剣持ちの兵士はよろよろと後ずさった。
「ジャック! 悪いな、お前に助けられることになるとは……」
「言いっこなしだ、ジョン! まずはこいつを倒すことからだ!」
剣を持った兵士、ジョンと弓を持った兵士、ジャックが互いに言い合う。名前の判別がついたのはありがたいが、ジャックとジョンでは大して意味はないかもしれない。と、ここで集合したダークたちが散開しようとしているのが見えた。村人の反乱が起こったいま、それを鎮圧しようとしているのかもしれない。そうは行くか。
「余計なこと考えられないようにしてやるぜ。こいつでな!」
マジシャンROMのスイッチを押し、交換し再変身。デスメタルめいた恐ろしい音楽が流れ、0と1の風が装甲を変質させる。十字杖とローブ、ハットに身を包んだジョブ:マジシャンがここに誕生。杖を振るい、魔法の矢を放つ。
「こいつ、報告にあったファンタズムとやらか!?」
兵士たちは魔法の矢を避け、受け流す。さすがは歴戦の勇士だ、ダークはそうはいかないようだ。矢に撃ち抜かれ爆発四散。彼らは身を固めた。
「どうやら、こいつを放っておくことは出来ないようだな……」
「全力でこいつを倒すぞ、ジョン。それでこの反乱は終わりだ」
ジョンは剣を両手でしっかりと構え、ジャックは次の矢を番えた。ダークたちは俺の周りをグルグルと回り、牽制して来る。これでいい、こいつらを釘付けにすることが出来れば。俺は杖を回転させ、魔法陣を描いた。
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シャドウハンターは走りながら大腿部のサイバー・ホルスターに内蔵した大型拳銃を抜いた。かつてサイバーアームには大型火器が取り付けられていた、いまはない。追加されたとある機能のせいで容量を使っているのだ。だが戦闘能力には幾分の遜色もない、彼はサイバーアイで照準を付け、ダークに銃弾を放った。
重金属徹甲弾は数に限りがある。次元城のテクノロジーならば生産することは出来る、だがかなり比重の重い金属を使う必要があり、この世界の技術では採掘することが出来ない。残された弾は合計で1000にも満たないだろう。
(一発とて外さん。来るならば来い、化け物どもめ!)
弾丸は人型ダークの防御を貫き、頭部を損傷させた。獣型ダークよりも速く動き、殺傷した。空を飛ぶ鳥型ダークも残らず撃ち落とされた。一瞬にして20発の弾丸を撃ち切ったシャドウハンターは弾倉を落とし、交換した。
(いまのところは余裕。このまま敵の戦力を削り……)
そう思ったところで彼は立ち止まる。前方700m地点にある敵の拠点から飛び出してくる影があるからだ。速い、時速100kmは軽く超えている。
(……そう簡単に事が進んでくれるわけはあるまいか!)
シャドウハンターはブレードを抜き、立てた。襲撃者がなぎ払った剣とぶつかり火花が散り、衝撃がシャドウハンターを押し戻す。極めて強い力だ。
背後の村で爆発が起こる。策は成った、あとはそれを達成するのみ。
「村人を逃がすため……いや、あわよくばこの村を奪還しようと言うのか?」
道着の少年、草薙良治は刀を正眼に構えシャドウハンターを見据えた。ただならぬ力をシャドウハンターは草薙から、そして刀から感じていた。そもそも王国で作られている剣の大半は西洋剣と同じ、幅広の両刃剣。しばらくの間エラルド領に滞在していたが、片刃の刀を目にした事はついぞなかった。
(あの刀、奴の能力で作られた物なのか?)
ならば単なる武器ではなく、何らかの特異能力を持っている可能性が高い。しかも彼には戦闘態がある。接近戦においては無類の強さを誇るだろう。
「お前たちを倒す。反乱は鎮圧され、それで終わりだ。行くぞッ!」
草薙が踏み込み、最小限の動作で刀を振り下ろした。シャドウハンターはそれを受け流し草薙の側面に回る。反撃に転じようとするものの、鋭くなぎ払われた刀がその邪魔をする。側転を打ち、刀身に這うようにして回避しつつ距離を取る。
片膝立ちになりながら拳銃を連射。頭、脇腹、右足を狙って放たれた弾丸は、しかし草薙の刀によって容易く受け止められる。大口径弾の直撃を受けてもなおヒビ1つ入らない刀、やはりこの世のものではない。
草薙は即座に反転し、袈裟掛けに刀を振り下ろした。シャドウハンターはそれを避けようとする、だがそれは次なる攻撃への布石。不安定になったところに、すぐさま返された刀が襲い掛かった。シャドウハンターの正面装甲上で火花が舞い、彼の体が水平に吹っ飛んで行く。甚大なダメージ、しかし草薙は顔をしかめる。
「その体、鉄か? それに……ふん、衝撃を軽減する能力があるようだな」
シャドウハンターは吹き飛びながらも鮮やかな動作で立ち上がり、草薙を睨んだ。彼のサイバーボディは反応装甲となっており、爆発によって衝撃を分散させることが出来る。それでも体幹には無視出来ぬダメージが蓄積していた。
「まあいい。切れるまで切るだけのことだ、王国の戦士よ……!」
侮蔑に満ちた草薙の視線。それをシャドウハンターは鼻で笑った。ここにいる転移者は1人だけ、そしてもう1人が様子を伺っているのを彼のレーダーセンサーは捉えていた。こちらが草薙だけで押さえられるならば村の方の救援に回るつもりなのだろう。そうなれば村人の脱出は極めて難しくなってしまう。
「俺を侮っているようだな、ガキども。すぐそう出来なくしてやる」
シャドウハンターは左腕のハンドヘルドコンピューターを操作した。その時初めて、草薙の表情が違和感に歪んだ。単なる転移者ではないと気付いたのだ。
(さて、ぶっつけ本番の大博打。どうなるか見ものだな……!)
OSインストール完了。バイオメトリクス認証クリア。ワンタイムパスコード入力。厳重過ぎるロックをクリアし、シャドウハンターはプロセスを開始した。向こうの世界で切り札になるはずだったものを。
「ファズマコート、スタート……変身……!」