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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第八章:反撃の時間
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12-悪戯心を働かせて

 その日は一旦休むことにして、俺は次の日から行動を開始した。

 排除した兵士たちを探しに来る様子はない。どうやらしばらくの間、彼らには単独任務が命じられていたようだ。それは俺たちにとって都合がよかった。陸に上がった俺は目深にローブを身につけ、アイバルゼンの村に降りて行った。


(情報収集で一番いいのは、やっぱり現地に行くことだよな……)


 村全体が柵で覆われているわけでも、電子セキュリティが敷かれているわけでもない。問題はない、何も。あったらあったでプランを変更するだけだ。

 シャドウハンターは腕の付け替え作業でしばらく動けない。付けた後のリハビリも必要だという。つまりこの作戦の成否は俺の双肩にかかっていると言っても過言ではないのではないだろうか? 責任重大、ガンバルゾー。


 ダークの知覚力は非常に鈍い。と言うより、個を認識するのが非常に苦手であるようだ。遠くから来る集団を見つけることは出来るのに、雪上迷彩を使った俺1人を見つけることが出来ない。俺は鳥の警備を掻い潜り村へと入った。


(活気がねえことおびただしいな。全員家に押し込めてるのか?)


 村には人通りがなく、出歩いているのは巡回のダークのみ。鉱山も動いてはいないようだ。雪深いというのもあるかもしれないが、これはいったい?

 そんなことを考えながら歩いていると、バーの看板を見つけた。そこだけは明かりが灯っており、中から人の気配がする。窓の外から確認してみるが、西方の兵士などはいないようだ。ちょうどいい、情報収集するなら酒場がいいだろう。


 扉を開くとベルの音が鳴り、室内にいた人々が一斉にこちらを見た。兵士たちが入って来たと思ったのだろうか? それにしても嫌われてるな。俺は開いている席を探すふりをしながら店内を見回した。あまりみんな酔っていないようだ、酒瓶が置いてあるテーブルさえも珍しい。兵士たちが没収してしまったのか?


「いらっしゃいませ。お客様、ご注文はいかがなさいますか?」

「えっと、村長を探してるんだ。ここには来るんですか?」


 そう言って俺はそっとエラルドの紋章を見せた。

 バーテンダーの顔色が変わる。


「おお……! た、助けに来てくださったんですか?」

「シィッ、どこで聞かれているかも分からない。落ち着いて下さい」

「大丈夫ですよ。村の方に気を使えるほど、向こうの戦力は多くない」


 バーテンダーは薄く笑いながら、あまり理解出来ないことを言った。


「ええ? でもここを取りに来たんですよね、西方の連中は。それなのに」

「あのまだら色の怪物、覚えてますか? あれに邪魔されてるんですよ」


 邪魔をされている、という表現が正確かどうかは分からないが、ともかくあの化け物どもの襲撃に手勢を割かざるを得ない、ということだろう。マーブルは女神が作り出した化け物、と言うことは転移者を優先して狙うはずだ。


(……うん? そう言えばあの時、ハルが言ってたけど……)


 黒い剣によって暴走状態に陥っていた時、俺はダークを召喚した(・・・・・・・・)らしい。だがダークは男神が作り出した物、ならばなぜ女神がその力を……?


「ま、いいや。とにかく連中はこっちに気を使ってられねえんだな?」

「ああ。でも最低限、こっちを押さえるためにダークが投入されているんだ。

 こっちを押さえられないから、鉱山も稼働させられないらしい」

「本末転倒だな、それって」


 それでも数はそれほど多くない。

 これなら、やれるのではないか?


「……なあ、バーテンダーさん。村長さんに伝えて欲しいことがあるんだ」


 そこでいくらか話をして、俺はバーを出て行った。外に出ると雪が降り出していた、これなら視界を撹乱することが出来るだろう。詰めをしっかりやる必要はあるが、どうにかすればこの村を解放することだって可能かもしれない。


 険しい山道を登って湖へ。ダークに警戒したが、この雪では向こうもこちらを見つけられないらしい。頭は言いが融通は効かない、ということか。

 気温が落ち、湖はナタデココの浮いたジュースのようになっていた。完全に凍結する前に戻らなければ。ファンタズムに変身し、俺は湖に飛び込んだ。エアロックを抜けて医務室へ。まだシャドウハンターが休んでいるはずだ。


「よっ、お疲れさん。どうだい、新しい腕の調子は?」

「良くも悪くもない。まだ動かしてもいないのだからな……」


 そう言ってシャドウハンターは新たな腕を見た。まだ包帯でグルグル巻きにされているが、この下には機械的なアームがあるのだろう。神経に直接接続するタイプのものであり、生身の体に馴染むまで時間がかかるのだそうだ。


「それで、村を見て来たのだろう? なにがあった?」

「ああ、そうそう。あの村を解放するための作戦を考えたんだけどさ……

 そう言うのは得意じゃないんだ。だから知恵を貸して欲しいなー、って」


 俺はバーテンダーと話した作戦についてシャドウハンターに説明した。彼の表情がどんどん歪んでいるのは、俺の作戦があまりに愉快だからだろうか?


「出来ないことはないな。ただ、相手の戦力を完全に把握する必要がある。

 それに、村人の逃走ルートも確保しておく必要がある。行軍速度が鈍るからな。

 端的に言えば無茶極まりない作戦だが、相手が格下ならチャンスはあるだろう。

 しっかり考えれば、な」

「スゴイ勢いで俺の作戦が否定されてる気がするんだけど、気のせいか?」

「気のせいではない。ノリと勢いと思い付きだけのバカな作戦だからな」


 ヒドイ。

 ここまで言われる謂れはないのではないだろうか?


「決行のためにしばらく時間が必要だ。俺も動けるようになったら動く。

 それまでの間、情報を収集しておけ。失敗すれば村人は全員死ぬぞ」

「……分かってる。俺だってそんなことをさせたいわけじゃないさ」


 シャドウハンターは俺が考案した作戦を実施するにあたり、確認しておかなければならないことを説明した。相手の人数、巡回パターン、練度。それから味方がどの辺りにいて、どの程度の早さでこちらに到着するのか。


 幸いまだ時間はある。

 村だけでなく、向こうの拠点を調査する時間が。


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