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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第八章:反撃の時間
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12-ハイテク要塞の入り口は結構ローテク

 俺とシャドウハンターは2人で黙々と山道を歩いた。元々口数の多い男ではないし、雪で足を取られるので無駄話をしていられるような状態ではない。とはいえ、このむっつりした男といつまでも一緒にいると考えると気が滅入る。


「しばらくすれば、アイバルゼンを見下ろせるところに着くはずだ」

「了解。人の足でしか登れない場所とは、面倒なこったねぇ」


 動物、例えば馬でも使えれば速攻で奇襲を掛けられるだろうに。一の谷の逆落とし、ってな具合に。何てことを言ったらシャドウハンターにキレられた。貴重な軍馬を無駄にする作戦など許容出来ん、と。シャレの分からん奴。


「俺たちが出て行った時と、見た目の上では大差はなさそうだな」

「ああ。だが見てみろ、出歩いている人間がほとんどいない。兵士ばかりだ」


 それに、少しばかりのダーク。人型のダークが市内で睨みを利かせ、四足獣型のダークが巡回し、鳥型のダークが空から村を見下ろす。万全の警備態勢だ、こっそり近付いて行くには骨が折れるだろう。と、思ったところでシャドウハンターは電磁迷彩を発動させた。バチバチと電光を伴いながら彼の姿が消える。


「ええ……ちょっと待てよシャドウハンター。それやられると……」

「着いて来なくてもいい。村の様子を確認して来るだけだからな」


 そう言って彼は音もなく走り去っていった。あの状態になったら、ちょっとやそっとで見つけることは出来ない。俺は諦めて待つことにした。


「……とは言えなあ、シャドウハンター。この寒空の下俺を1人にするのか?」


 滅茶苦茶寂しいうえに、そもそも寒い。体を動かして最低限の体温を確保しつつ彼を待つこと1時間。すっかり俺が凍えたタイミングで帰って来やがった。


「常駐している兵士は4人。ダークは20から25体。これだけなら問題ない。

 だが恐らくは転移者が西方側の仮設宿舎に閉じこもっているのだろうな。

 そちらの警備は村とは比較にならないほど厳重だ。すぐに対応する気でいる」

「面倒だなぁ。その規模なら速攻で行けば案外何とか……」


 ダメか。俺たちだけならともかく、村人の安全が保障出来ない。


「収穫と言えば、村のリーダー格と接触することが出来たことくらいか」

「マジか。元気だった、あのオッサン? 協力を取り付けられれば……」

「そこまでは望み過ぎだ。だが何らかの役には立つだろうと考えている」


 何かあったらめっけもん、くらいだな。相手は俺たちのような超人ではなく普通の人間なのだ、それが当たり前だ。最低限の斥候任務は終わった。


「それじゃあ、次元城の確認に行くか。そっちが本命なんだからな」

「どちらの方が重要、というのではない。どちらも等しく重要な場所だ」


 シャドウハンターは偽装を解き、山際に沿って歩き始めた。まったく、生真面目な奴だ。俺は聞こえないように苦笑しながら彼の後ろに着いて行った。

 鳥型ダークの監視をかわしつつ山頂へ。ダークを倒せばどれほどの情報が相手に伝わるのか分からない。こいつらが始末しても問題ないと分かればかなり楽になるのだが……どこかで兵士を捕まえて尋問するべきだろうな。


 しかし、少なくとも分かったことが1つだけある。ダークは足跡を認識出来ないか、その意味を理解出来ないということだ。もし分かっていれば追われている。


「さーて、楽に進めるのはここまでだ。どうするんだ、シャドウハンター?」


 山頂の小屋付近に2人、巡回しているのが2人。それぞれ武装しているが、ダークを伴ってはいない。全員に行き渡らせるほど普及してはいないのだろう。


「お前はそこで待っていろ。兵士たちを無力化して来る」


 電磁迷彩を作動させ、シャドウハンターは駆け出した。あれでは足音を消せないはずだが、それでもそこに存在することさえも匂わせない見事な走り方だ。兵士たちが作った道を使い足跡を消すのも忘れない。こうなってしまうともはやあいつの独壇場。俺は岩に背中を預け、欠伸をして仕事が終わるのを待った。

 湖の周りを巡回している2人が小屋から目を離したタイミングを見計らい、玄関前の2人を倒す。異常に気付かれる前に巡回の1人を打ち倒し、それに気付いた最後の1人が狼狽しているうちに最大速度で接近、昏倒させる。お見事。彼は速攻で兵士を縛り上げ、1人だけをズタ袋に詰めて持ち出して来た。


「さすがはディメンジア最強の戦士にして殺し屋。鮮やかなものだね、ホント」

「俺は戦士であって殺し屋ではない。その評価は甚だ遺憾だぞ、久留間」


 岩陰から身を乗り出した俺を、シャドウハンターはジロリと睨んだ。まったく、怖い奴だ。あれで片手を失っているというのだから信じられないな。


「それで、どうやって次元城に向かうんだ? 湖の底に沈んでいるんだろ?」


 俺は寒々しいほど青い湖面を覗き込んだ。何らかの迷彩を使用しているのだろうか、そこにあるはずの次元城は俺たちにさえ姿を見せようとはしなかった。


「変身しろ、久留間。潜るぞ」

「何だって? すまん、シャドウハンター。もう一度言ってくれないか?」


 俺の聞き間違いでなければ潜れと言ったように聞こえたはずなのだが……


「何か、こう、あるだろ? ワープポータル的な、その、何かが……」

「そんなものがあるはずはないだろう。そもそも設置する暇もなかったはずだ。

 物理的に隔絶されているのだから、俺たちも物理的に向かうしかない。行くぞ」


 シャドウハンターは息を吸い込み、そして見事な姿勢で湖面に飛び込んだ。ハイテクなのにこんなところはアナログなのか。俺は覚悟を決め飛び込んだ。


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