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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第八章:反撃の時間
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12-愛するものを取り戻すための戦い

 女神の襲撃から一夜が明けた。山から吹き下ろす風が容赦なく俺たちを包み込む。神だなんだと言っても、この世界はそんなものの影響など受けない。


 ひとまず、レニアたちが女神の血族だという話はあの日応接室に集まった人間だけが共有しておくことにした。『宵闇』と言えばこの世界では蛇蝎の如く嫌われている、公表すれば何が起こるか分からない。ナーシェスさんもこの時期に妙な反発を起こしたくないと秘密にしてくれるそうだ。終わっても言わないだろうが。

 2人の対応方針が決まったら、今度は現実的な脅威の対応を話し合うことになった。これはかなり多い。西方開拓者連合、『界渡りの連合』、そして女神。女神は戦闘で手傷を負ったのでしばらくは出てこないのではないか、と判断した。もちろんそんな保証はどこにもないが、どんな力を持っているかさえも分からない敵に対策などしようがない。いずれにしろ出たとこ勝負(・・・・・・)になってしまうのだ。


「おはようございます、久留間、さん。寒くない、ですか?」

「ああ、おはよう。好きなんだ、真っ白な雪を見るのがね」


 テラスで涼んでいるとレニアが現れた。

 顔色は若干よくない。


「綺麗、ですね。でも……望んでいない人も、いっぱいいるんですよね……」


 レニアは雪の絨毯が敷き詰められた裏庭を見てうっすらと微笑んだが、すぐに視線を落した。この美しさがあっても人は争い続ける。そう言いたいのだろうか。


「気にすることはない。価値観が違うって、ただそれだけのことさ」


 俺は俯くレニアの頭をポンポンと叩き、柔らかい髪を撫でた。


「でもいつか分かる時が来る。そのために……戦わなきゃいけないんだけどさ」


 俺は視線の向こう、アイバルゼンを見据えた。

 取り返すべき俺たちの領土を。




「これからの方針として1つ提案がある。アイバルゼンを奪還しないか?」


 そう言い出したのはシャドウハンターだ。ナーシェスさんは当然糸を問うた。


「どう言うことかな? やはり、キミの主人を解放したいということかな?」

「それは当然、ある。だが問題は、それよりも実際的なところにある」


 シャドウハンターはかつての戦いで失った左腕、その付け根を撫でた。


「ディメンジアを解放することが出来れば、戦力を大幅に拡充出来るだろう。

 1つは主戦力たるホワイトマスクと飛行用ヴィーグルを取り戻すことで。

 もう1つはいまも水底で戦っているアースタートルを解放することで、だ。

 私の腕も取り戻せるやもしれん」

「そうか……時々忘れるが、アンタはサイボーグなんだよな」


 多良木が妙に感心したようなことを言った。最近はかつての非人間的な冷酷さはなりを潜めており、黙っているとその辺の農夫と見間違えそうになる。


「それに、もしかしたらそれ以上のものを手に入れられるやも知れぬ……」

「それ以上のもの? えーっと……試作型の生物兵器とか?」


 記憶にある限りでは10m級の大型生物兵器を使ったこともあったはずだ。余裕を持ってぶっ殺すことは出来たが、戦力の拡充に間違いはあるまい。


「……いや、そうではない。このことはもう忘れて貰えないだろうか?

 私としても不確定的なのだ。余計な希望を抱かせたくはないからな」


 歯の奥に物が挟まったような言い方だが、仕方あるまい。


「ハル、西方に行った転移者って何人くらいいるんだったっけか?」

「確か……10人。織田が寝返ったというのならば、11人ということになる」

「何だかんだで何人か死んだからな。残りは多くても8人、か」


 よほどのことがない限り、違う場所に同じ人間は存在出来ないだろう。と、なると王国軍と交戦している鹿立、古屋、それから正体不明のもう1人も除いていいだろう。後織田くんも。と、なると生き残っているのは4人くらいか?


「全員がアイバルゼンにいるわけはねえ。となると、多くても1人2人か」

「ならばこちらの戦力でも十分に対応可能だな」


 ハルと多良木はやる気だが、俺はちょっと躊躇ってしまう。


「油断は出来ないかもしれない。実はな……」


 俺は王都に行った時に見た転移者の新たな力、戦闘態(ウォーフォーム)について話した。さすがに膨らんでいたやる気が萎んでいくのが分かる。


「ウォーフォーム、か。私たちにはそんなものはないが……」

「もしかしたら、向こう側に付いた連中だけの特典だったりしてな」


 苦笑しながら言うが、ナーシェスさんは得心したように手を叩いた。


「転移者ってのは『陽光』が召喚したんだよね? 少なくとも女神の認識では。

 と、なると『宵闇』の女神、その血族を守る我々は彼らの敵ってことだな」

「私たちを殺すために『陽光』の神があいつらに与えたってことですか?

 確かにそれは納得出来ないこともないですね……忌々しいことですけど」


 ハルはお手上げだ、と言わんばかりに両手をあげた。


「例え敵がどれほど強い力を持って行ようとも、我々に後退は許されないぞ」

「分かってるよ、シャドウハンター。とはいえ、慎重に行かないとマズいな。

 下手に動けば次元城だって危険に晒されるかもしれないわけだし……」


 俺たちはしばらく話し合い、頭を捻り、知恵を絞り出し合った。その結果として決まったことは、アイバルゼンに向かうのはまず俺とシャドウハンターだけだということ。斥候任務をこなし、勝ち目があると踏んだら全軍が向かう、というプランだった。攻める側はより大きな兵力が必要になる、その見極めを行うのが俺たち。責任は重大だな。


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