いざゆかん、撫子国を救うため
撫子国を救うため、いよいよ活動開始!
四つの花をとりに向かう先とは・・・
五月に入ると、みんなが楽しみにしているものがやってくる。
それが、ゴールデンウィーク。
毎年その時期になると休みがわんさかあり、僕達学生にとっては有意義に過ごせるものだ。
それなのに……それなのに……
「明日からゴールデンウィークだよな。その期間をかけて取れるだけ取っていくぞ」
って言ったんですよぉぉぉぉぉぉぉぉ!
信じられますか、皆さん! 貴重なゴールデンウィークを、意味わからない花を取りに行くのにつかわれるんですよ!
ああああ、僕の休日がああああ!
「なんだかご不満の様子ですね、絵里香様」
思っていたことが口に出ていたのか、気が付くとそばに桔梗さんがいた。
相変わらずの優しげな笑みで、こちらを見据えている。
「やはり貴重な休みをつぶされるのは、嫌でしたか?」
「そ、そんなこと、ないとは言えませんけど……」
「紫苑は言い出すと聞かない性格ですから。それに、めったに体験できませんよ。宇宙旅行なんて」
う、宇宙旅行だとぉ????
「ちょ、ちょっと待ってください。桔梗さん、僕は今からどこに連れて行かされるんですか?」
「花を取りに行くんですよ」
「そうじゃなくて! その花っていうのはどこに……」
「決まってんだろ、宇宙だ」
今までの会話を聞いていたのか、紫苑が割って入ってくる。
持っていた小さなノートをパンと閉じると、フンと鼻で笑った。
「まさかお前はめったにない希少種の花が地球にあるとでも思ってたのか? 四つの花はすべて異星にある。それを取りに行くっつってんだよ」
「ほ、本当に宇宙に行くの!? でもどうやって?」
「そこはぬかりなく、私に考えがあるんですよ。おっと、どうやら来たみたいですね」
へ??
僕が反応に戸惑っている中、何やら変な音が聞こえる。
どどどと何かが近づいてくるような、何か嫌な感じな音。
聞いたことある音だなとか思って、窓を開けたらまあびっくり!
なんと、汽車が空を飛んでいるではありませんか!
ていうかこんな大げさな登場の仕方で大丈夫!? 警察に通報されるんですけど!?
「お待たせいたしました、桔梗さん。またあえて光栄ですわ」
運転車両からきれいな女性が、ぬっと出てくる。
童話の中からお姫様が出てきたような素敵なドレスのような服に、端正とした顔立ち……
少女は僕をみると、くすっと笑って見せた。
「ごきげんよう、撫子国王女絵里香様」
「ほえ?? えっと、初めまして?」
「ずいぶん大きくなられたのですね。とても素敵な女性になってくれて、私はうれしいです」
この言い方からすると、僕のこと知ってるのかな?
小さいころの記憶はあいまいで、よくは覚えてないんだよなあ。
「こちらは、カトレアといって宇宙汽車・アマギの運転手にございます。私の古き友人の一人で、絵里香様とも面識があるんですよ?」
「もっとも生まれたばかりの頃ですから、覚えていらっしゃらないかとは思いますけど」
はへ~にしてはきれいな女性だなあ~
こんな人はなかなか見られないぞ。
「桔梗さん、そちらの方は?」
「ああ、この方が以前お話しした呉羽紫苑です。撫子国出身の」
カトレアさんが不思議そうに紫苑を見つめる。
紫苑は相変わらずの態度で、彼女に言った。
「あんたの話は桔梗から聞いた。今回はよろしく頼む」
「こちらこそ。しかし、見かけない顔ですね。撫子国にはよく行きますが、あなたのような方は一度も……」
「それだけ成長期ってことですよ。さあ紫苑、絵里香様。汽車にお乗りください」
今、桔梗さんがはぶらかしたように見えたのは僕だけだろうか。
紫苑は何も言わず、無言で汽車へと乗り込んでいく。
慌てて僕は準備をしていたバッグを手に持ち、そっと乗り込んだ。
汽車の中は、まるで新幹線の中のようだった。
どこもかしこも金色で、きらきら輝いている。
赤い色のソファもふかふかで、とても座り心地がいい。
見渡す限り座席が広がっているのに僕達だけってなると、ここを満喫してるみたいでちょっといい気分になる。
汽車に乗って宇宙旅行かあ。なんかすごいことになっちゃったなあ。
本格的に撫子国を蘇らすのはいいけど、何すればいいのか全然知らされてないんだよなあ。いまだに。
「では発射いたします」
カトレアさんがそういうと、汽車の汽笛が音を立てる。
その時、全身がふわっと浮いたような不思議な感覚に襲われた。
そうっと窓からのぞいてみると、どんどんどんどん町が遠ざかっていく―
「ほ、本当に飛んでる……」
あまりの景色に、思わずつぶやいてしまう。
かつて誰かが言った、地球は青かったっていう言葉。
あんなに苦労して見に行った宇宙を、いとも簡単に僕は見ることができている。
これが……宇宙なんだ……
なんか、すごいワクワクしてきたんだけど!
「汽車が飛ぶだけで喜ぶとは、まるでお子様だな」
呆れているような声が隣からして、むっとする。
僕と少し離れた隣の席には、言うまでもなく紫苑がいた。
何とも有意義そうな体系で、本を読んでいる。
「お子様じゃないし! 宇宙なんて初めてなんだから、興奮すんのは当たり前でしょ!?」
「そうやってむきになるとこもお子ちゃまだな」
「なにをぉ……ふんっ。いいよね、紫苑は。どうせ撫子国にいる間も、いろんな国に行ったりしてたんでしょ!?」
「……そうだな」
いつもより張り合いがない返事で、思わず僕は彼を見る。
紫苑は本を開いたまま、窓の外を眺めていた。
何だろう、今の……いつもならむかつくほど張り合ってくるのに……
「絵里香様、紫苑。つきましたよ」
桔梗さんに言われ、思わずえっと声が出る。
時計を見てもまだ十分ちょっとしかたっていない。
それなのについたって、早くない? 列車のスピードってそういうもんなの!?
「最初の星は、砂漠の星です」
さ、砂漠だとぉ!?
(続く・・・)