けんかするほど、仲がいい?
絵里香と紫苑。ようやく名前を呼び合う仲に!
それでも二人はケンカばっかりで、今日も今日とて言い争っているようで・・・
「春はあけぼの、やうやう白く成りゆく……この後に続く単語は?」
えっと、なんだっけ。
だんだん白くなっていくんでしょ? ってことは白くなるものだよね。
ふみゅう……なんか場所だったような気が……
「分かった! 谷際、だっけ?」
僕が自信たっぷりに言うと、途端に教科書が頭から降ってくる。
「いっだ!」
「山際だ、ドアホ。この問題、さっきもやっただろうが。同じ問題を間違えるとか、どんだけバカなんだお前」
教科書を丸めて何回も僕の頭をたたくのは、言うまでもなく紫苑だ。
彼は長い髪を一つにまとめ、舌打ち交じりでこちらを見ている。
「ったく、話にならねぇ。そんなんでよくもまあ古典には自信あるとかいえたなあ、この嘘つきめが」
「べ、別に嘘はついてないよ! 古典じゃいつも三十点台は突破するもん!」
「それでもたった三十しか取れねぇんじゃねぇか。それくらいで、ない胸張ってんじゃねぇよバーカ」
「むむ胸は関係ないでしょ! バカバカバカ!」
こんな風になったのは、僕がバカだからではない。
ゴールデンウィーク明けにある小テストで出るところを、紫苑に教えてもらおうとしたのがきっかけだ。
いつもならヒナに頼んで、平和な学習時間を過ごしていたはずなのに。
今日が土曜日だということを利用し、紫苑が徹底的に叩き込もうと張り切ってしまったのである。
結果、この始末……うう、ヒナのところに行きたい。
「これだからバカは困るんだよ。もう一度小学校からやり直してきたらどうだ」
「小学校は古典なんて習わないもん」
「今の時代はつめこみ世代と言って、中学で習うようなことの基本をちょっとでも教えようとしてんだよ。それくらい知っとけ」
ふうん、そうなんだ……
って、なんで異国出身の紫苑が知ってるの!?
この人、マジで何者なんだ……
「しっかしよくもまあこんなんで三十も取れるよな」
「うるさいなあ、ほっといてよ」
「こんなのに付き合ってた関澤とかいう奴の気が知れん」
なんか、すっごいいわれようなんですけど!
ヒナは優しいから、僕と友達になってからずっとそばにいてくれる。
親友って素晴らしい! それに比べて……
「……なんだよ」
「あんたさあ、僕が撫子国王女の血を継ぐ者ならもうちょっとくらい優しくしてくれてもよくない? 僕の方が偉いわけだし?」
「俺がいつどこで何時何分地球が何回まわった時にお前を認めた? 言っとくがお前が王女候補だというのも認めてねぇし、敬意を払うつもりもない。優しくしてほしいんなら、それ相応の態度で示すんだな」
くぅぅぅぅ、やっぱりむ・か・つ・くぅぅぅぅぅぅ!
「呉羽紫苑! 今日という今日は、その態度を治してもらうんだからああ!」
「いって! 物を投げつけてんじゃねぇよ、この性悪女!」
「ひっどい! 最初に言ってきたの、そっちじゃん!」
物を拾っては投げ、拾っては投げを繰り返しながら僕と紫苑とでもめあう。
色々なものが交錯する中、自分の部屋の本棚からたくさんの漫画が降ってきた。
彼がやってきたのは、そんな時だった。
「失礼いたします。紫苑、絵里香様はいらっしゃいますか?」
リビングのドアがゆっくりと開く。
ゆっくりと視線を向けたそこには、桔梗さんが立っていた。
いかにも何か不思議な生き物にあったかのような、不思議そうな顔をしてこちらを見ている。
「おやおや。これはまた、ずいぶんと仲睦まじいことですね」
桔梗さんの言葉で、はっと我に返る。
僕は自分が置かれている状況を、ようやく把握した。
本棚から落ちて散らかった本、押し倒すように倒れている僕。そして僕の下に、もう一人……
「絵ぇ里ぃ香ぁ……!」
「ぎゃあああああああああああああああ!!!」
あまりの恐怖に、僕は叫び声を上げるしかなかった。
「本っ当に申し訳ありませんでしたっ!!!!」
勢いよく頭を下げながら、彼に向かって謝罪する。
それでもなお、紫苑は眉間にしわを寄せたままだった。
我ながら、なんてことをしたんだろうとだんだん恥ずかしくなってくる。
恥ずかしいようなよくわからない感情が頭の中を渦巻く。
逆に、桔梗さんは誰から見てもわかるくらいご機嫌でにこにこしていた。
「そんな謝ることではないですよ? お二人の仲が良くて、私は嬉しい限りです」
「変なこと想像してんじゃねぇよ、桔梗。ぶっ殺すぞ」
「いいではないですか。仲良きことは美しき哉という日本のことわざもありますし」
「あのなぁ……」
紫苑の怒りはなおも収まることはなく、相変わらず桔梗さんを睨みつけている。
にしても、桔梗さんを見るのは久しぶりだ。
あの意味不明な発言を残して、すぐに消えちゃうんだもん。
紫苑に負けないくらいよくわからない人だなあ。
「それより、ここに来た目的は何なんだよ。そんなことをわざわざ確認するために来たのか」
「絵里香様にやるべきことを伝えるだけのつもりで来たのですが……。お二人の仲も確認できてうれしいです」
「僕にやるべきこと?」
「前にもお話しした通り、あなたは撫子国の最後の砦です。撫子国復活のために、やらなければいけないことがあります」
うげっ、そんなのしなきゃいけないの? めんどくさっ。
な~んか嫌な予感しかしないんだけど……
「撫子国を復活させるには、四つの希少種である花が必要になります」
う~んと、まずなんで花なのかを聞きたいのは僕だけなのだろうか。
「その花は特殊なものばかりで、取るのも困難な場所にあるといわれています。その花はすべて絵里香様にしか取れないようになっていまして」
ふうん、そうなんだ。
「つまり、それを取りに行けば撫子国が蘇る。そういうことだな?」
「さすが紫苑ですね、その通りですよ」
え? ん? ちょ、ちょっと待って。
いまいち状況が把握できてないんですけど?
なのに何? このやることは決まったみたいな顔は!
「あ、あのぅ……つまりどういうことでしょうか~?」
「お前、まさか話聞いてなかったのか?」
「いや、聞いてたけどよくわからないというかなんというか」
「聞いてたのにわからないとか、お前の脳は動物以下だな。さすがバカの脳は一味違う」
「ど、動物以下ってどういうこと!? そこまで僕バカじゃないっつうの!」
「まあまあ絵里香様、落ち着いてください。私と紫苑がついていれば、すぐに終わりますよ」
終わる? な、なにが?
「今から取りに行くんですよ、四つの花を」
!?
(続く!?)
読んでくださっている皆々様、ありがとうございます!
次回からようやく、ファンタジーっぽい展開になります!
謎に包まれた紫苑のこと、そして新キャラも続々出てくる予定なのでお楽しみに♪