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撫子国王女、育成計画  作者: Mimiru☆
7/26

地球に咲く、美しいもの

突然、紫苑につれられた絵里香。

強引に彼に連れてこられた場所とは・・・

「なかなかの人材じゃねぇか、関澤雛菊って奴。他の女子から聞いていたが、俺の目に狂いはなかった」

食堂から出るなり、呉羽はふっきれたようにいつもの口調に戻る。

さっきのいい人そうなオーラはどこに言ったのか、相変わらずのむかつく口調でしゃべりながら歩いてゆく。

「あんなにいい人材がいるというのに、最後の砦がこいつだというのに納得できん」

「ちょっと、さっきからぶつぶつ何言ってるの?」

「俺は事実を言ったまでだ。俺の誘いを断ろうとしたお前が悪い」

「あのさぁ……さっきのあれ何なの? 僕の時と全く態度違ったんだけど」

「人っていうもんはイメージで決まるんだよ。めんどくせぇけど」

「だったら僕といる時ももうちょい優しくできないわけ?」

「しょうがねぇだろ。人との接し方なんて分からねぇんだから」

ぽつりと言ったその一言に、思わず言葉をつぐむ。

わずかに僕の手をつかんでいる彼の手に、ぐっと力が込められた気がした。

「俺は桔梗に言われた通りにやっているだけだ。何か問題でも?」

「べ、別にそういうわけじゃ……」

「あと、口元についてるぞ。ネギ」

そういわれて、手で口のあたりを探ってみる。

今の今までついていたことに、だんだんと恥ずかしくなってくる。

わずかな悲鳴を上げ、呉羽の手を払った。

「なんで教えてくれなかったの!?」

「今教えてやっただろ。それだけでありがたく思え」

「どうしてそういつも上からなの!? 大体、今からどこに行くわけ!?」

「ここ」

呉羽が指差していったところに、木で出来た看板が掛けられている。

そこには、図書室と書かれて……って……

「なんで図書室!?」

「入るぞ」

「ちょっと人の質問を無視しないでよ!」

「お前の質問なんざ、答えるだけ時間の無駄だっつうの」

む・か・つ・くぅぅぅぅぅぅぅ!

人の貴っ重な昼休みを、まさか勉強でつぶす気か!?

図書室なんて、めったに来ないのに。

昼休みを使ってまでわざわざ勉強する人なんて、めったにいない。

案の定、室内は誰もいなかった。

図書の先生くらいいてもおかしくないのに、変なの。

「それで、何を探してるの? 本」

「そうだな、やっぱ図鑑が一番いいんだろうな」

「図鑑? なんの?」

「これだよ」

呉羽はそういいながら、本棚に入っていた分厚い本を一冊取り出す。

その本は、よく図書室でおいてある「植物図鑑」だった。

すごく懐かしいものが出てきたなと内心感心していると、呉羽は無言で椅子に座り本を開いた。

「な、何してるの?」

「昨日の花壇に植えられていた奴がどれかを、お前に捜してもらおうと思ってな」

「まさか、わざわざ調べるつもり!?」

「当たり前だろ。それにこれは、お前の教育にも関わることだ」

「僕の、教育に?」

そういわれて少しだけ植物図鑑を眺めみる。

どう考えても、教育にかかわるようには思えない。

大体植物のことを調べたとして、テストに出るわけじゃないんだし。

「あのさあ、絶対僕関係ないよね? 君の個人的なことに付き合うほど、僕は暇じゃないんだけど」

「お前、わかってねぇな。俺がこうしてわざわざお前を連れてきたってことは、それなりの意味があるってことだ」

ふ~ん、そんなもんかねぇ。

「俺はお前を撫子国王女にふさわしくするためにここにいる」

ん、知ってるけど。

「植物の生態を学ぶことは、国の状況を知ることにつながるらしい。桔梗が言ってた」

へ~、そうなんだ~。

ていうか、いつ桔梗さんと会ったんだろう。

うちに来たなら、顔を出してくれてもいいのに。

「まあそこまで言うなら、付き合ってあげてもいいけど」

「お前、誰に向かってものを言ってんだよ。もう少し敬意というものを払え」

「人にさんざん上から言ってるくせにそれ!? ひどくない!?」

「えーっと、花壇にあったのはどれだったっけなあ」

「スルー!?」

僕の言葉がまるで聞こえてないように、呉羽はペラペラめくっていく。

早く教えろとばかりに目次の欄を開きながら、指でとんとん叩いている。

ああ、もう。仕方ないな。

とはいうものの、花壇の花なんていちいち覚えてないんだよなあ。

ていうか花の名前なんて、興味さえないのに知ってるわけないじゃん。

えーっと、確か……。

「確かチューリップはあったと思う。春といえばチューリップだし!」

「チューリップ?」

「うん。このページにのってるように、色がたくさんあって春に咲くんだ」

「ふうん」

一見興味なさそうとか思ったが、呉羽はチューリップのページを見つけるとすかさずメモを取り出した。

メモのように見えたのは、以前彼が撫子国について説明するときに持参していた彼用の小さなノートだった。

どこから持ってきたのかシャーペンを持ち出し、びっしりメモをしている。

しかも、ものすごくわかりやすく。

男の子の字ってみんな汚いとか思ってたけど、彼の字は僕の予想をはるかに覆した。

こういうところはまじめなのに、不思議な人。

「チューリップは何属の何科か」

はひ?

「チューリップの和名は?」

はひはひ?

「チューリップが象徴するものとは?」

はひはひはひ?

次から次にかませられる質問のようなものに、僕は目をぱちぱちさせる。

呉羽はものすごく深いため息をつき、片腕を付け……

「まさか全部答えられないとは言わないよな?」

「え、えっと~……」

「地球に住んでるというのに知らないとは、無知すぎる。このバカが」

うう……これには反論ができない……

「チューリップはユリ科のチューリップ属。和名では鬱金香と呼ばれているらしい。一般的に国家や地方公共団体を象徴する花として知られている」

へえ~そうだったんだあ。意外。

ていうか、そんな難しいこと僕じゃなくても知らなくない?

第一、チューリップに和名があったことも知らないし。

「やっぱりお前には物事を知ろうとする追求心がなさすぎる。己の学力のなさを存分に知っててこのありさま……完璧なバカだ」

「そ、そこまで言わなくてもいいじゃん。そういうのは知らなくて当然なの!」

「こんなに美しいものを知らなくて当然とは……お前目が腐ってるな。かわいそうに」

「だからそういうことじゃなくて!」

説明しようとして、やめた。

いくら人がいないとはいえ、図書室では私語は慎むように決めてある。

さすがに大声で怒ったりすれば、今はいない先生も気づいて怒ってくるかもしれない。

仕方ない……今回は大目に見てやる。

「なんだ、いつもみたいに甲高い声は出さないんだな。珍しい」

ふんだ、なんとでもいうがいい。

「他になんかねぇのか?」

と、言われましてもねぇ……

呉羽から図鑑を取り、しげしげと目次を眺める。

どれも僕にとっては聞いたことあるやつばかりで、わざわざ調べようという気にもならない。

と、一つだけ気になるものが目に入る。

確かこいつの名前って……

「花壇にはなかったけど、こういうのもあるよ」

「……シオン……? 俺の名前と同じかよ。パクられた、最悪」

「いやいや、絶対花の方が先に名前付いてるから」

シオン、キク科シオン属の多年草。

別名は「鬼の醜草」、「十五夜草」。

開花期は秋で、薄紫の一重の花を咲かせるらしい。

名前は聞いたことあったけど、花を実際に見るのは初めてだ。

呉羽は感嘆な声を上げながらメモを取っていると、ふと僕に聞いた。

「お前に聞いても無駄だとは思うが、花言葉って何だ?」

「一言多いっつうの。どこの話?」

「ここだよ、みりゃわかんだろ」

彼が指差した文章を見ながら、ああと納得する。

これなら答えられると思いながら、自信満々に話してあげた。

「花に込められた意味みたいなもんだよ。花ってよく誕生日とか人にあげることが多いから、その意味も込めて選ぶ人もいるみたい。チューリップには思いやりって意味があって、このシオンには君のことを忘れないって意味があるってこと」

ふふん、どうだ。思い知ったか!

内心胸を張っていた僕だったが、呉羽はなんも気にしていないようにメモを取っている。

何だか一人で威張っているのがばかばかしくなった僕は、静かになったあたりを見渡しながら小さくため息をついた。

「桔梗も、花の名前なんだな」

「ん?」

「キキョウ科の多年生植物・桔梗。絶滅危惧種らしい。花言葉は誠実、従順」

え!? そんなに珍しいの、桔梗の花!

すっごく有名だから、そこら辺に咲いてそうだとばかり……

さすが桔梗さん、花言葉にぴったりのお人でいらっしゃる。

「花の名前を子供につけるのって多いよね。ヒナもそうだって聞いたし」

「絵里香」

「はひっ!?」

「……だったよな、お前の下の名前」

「そっ、そうだけどっ、それがどうかした!?」

リズムをうつような胸の鼓動が、体に響く。

びっくりした。いきなり、下の名前で呼ばれるものだから。

不覚にもドキドキしてしまうのは、こいつが長髪男子だから?

こんなにむかつく相手なはずなのに、なんでドキドキしてんだ!?

僕ってばおかしくなっちゃったかな!? しっかりしろ、僕!

「お前の名前も、花にあるらしい」

「え? そうなの?」

「エリカ、ツツジ科のエリカ属の一つ。薄い桃色の細長く小さな花が咲くらしい」

はへ~そうなんだ。

僕の名前が花から来てるなんて意外。そんな花があったなんて、初耳だし。

「んで、花言葉は何なの?」

「……知りたいか?」

「え? うん、知りたいけど」

「エリカの花言葉は孤独、謙遜、博愛」

えーっと、難しい言葉でよくわかんないんだけど……?

「要するに、お前には似合わないってこと」

むかっ!

「失礼だな! 僕が花言葉似合うような人じゃないってこと!?」

「当たり前だろ。謙遜とは控えめな態度をとることで、博愛はすべての人を平等に愛することを言う。さらに言えば、孤独は仲間や身寄りがなく一人ぼっちな状態を示すんだ。どう考えたってお前とは正反対だろうが」

むかむかっ!

「あんただって君のことを忘れないっていう花言葉、全っ然似合ってないじゃん!」

「知るかよ、自分で名前つけたんじゃあるまいし。ちっぽけなことで腹を立てるとは、お前よっぽど器小さいよな」

「呉羽っ!!!!!!!」

「……あのさ」

僕が食って掛かろうと立ち上がった時、呉羽はこちらを睨むように見つめ返す。

彼ははあっと深いため息をつき、シャーペンをくるくる回しながら言った。

「前々から思ってたけど、その呼び方変えてくれねぇか? どうも慣れねぇんだよな、名字って」

「は……はい?」

「同じ撫子国の住民だし、いつまでも名字呼びじゃ他人行儀すぎんだろ。お前のことも絵里香って呼んでやるから、お前も名前で呼べ」

びっくりして、彼の顔を何度も見てしまう。

相変わらずの誇らしい笑みを浮かべながら、こちらを見る。

熱気を帯びてくる体を隠しながら、はっと我に返る。

「……って……それとこれとは今関係ないでしょ、普通!」

「へぇ、それぐらいは分かるのか。バカなりに結構やるな」

「バカバカ言わないでよ!」

「もうすぐ午後の授業が始まる。昼休みは毎日これに付き合ってもらうから、そのつもりで。行くぞ、絵里香」

ああ、もう! 訳が分からない!

足早に図書室を後にする彼―紫苑の後をついていきながら、僕ははあっとため息をついたのだった……


(続く・・・)

今回の話で、ようやく二人が打ち解けます。

同時に今回の話で触れた花についてですが‥‥

この作品では大きく、花というものが関係しているので

そこらへんも注目して読んでくださるとうれしいです。

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